533 【共通】特別編・姫とリスナー
五百三十三話 【共通】特別編・姫とリスナー
「いやぁ……なんつーか寺田のパッパ、どんまい」
少女がかざした手鏡に映った映像を見終えた後、美咲が目の前でうずくまっている住職の肩をポンポンと叩く。
「息子の同級生に……しかも女性に見られてしまうなんて。 いっそのこと殺してください」
「んな気にすんなってー。 そりゃあアタシらも見たくもないものめっちゃ見せられたけどさ、あんなことされたら寺田のパッパも女の霊に憎しみを抱いちゃいますよねー」
少女が手鏡に映し出した映像……それは今の住職の見た目からあまり変わっていなかったことから、おそらくは最近の出来事なのだろう。
まさか除霊を依頼されて対象の廃墟に足を踏み入れた結果、相手を除霊するよりも先に別の意味で襲われてしまっていたなんて。
しかもその影響で住職のそれは生殖機能というものを失ってしまったとのことだった。
「ーー……嘘だと思うなら私に裸を見せてくれれば証明できます」
「いや見せませんよ」
「何言ってんの寺田のパッパ」
こうしてこれ以上ここに滞在する理由もなくなった優香と美咲は扉の近くで絶句していた同級生・寺田に「なんか……とりあえずごめんね、ありがとう」と声をかけ家に帰ることに。
その際あの女の霊を助けてくれたらしき少女にも「ありがとうございました」と頭を下げたのだが……
『気にしない。 美香は偶然ここの寺の仏と雑談してただけ。 それとあの霊とはたまたま知り合いだっただけ』
あの少女……美香というらしい。
美香は無表情のまま優香たちに親指を立てると言葉を続ける。
『あと、あの女の霊は本当に無害。 そこの坊主は「悪事を働くようになる」とか適当ぬかしてたけど、ずっといい方向に導いてくれるから安心していい』
「そうなんですか?」
『そう。 あの子は怖い顔してるけど作ってるだけ。 実は美人。 美香みたいに』
やっぱり自分が感じた良い人そうな感覚は間違ってなかった……洗脳されていた訳ではなかったんだ。
それを聞いた優香はホッと一安心。
美咲と顔を合わせながら「やっぱり悪者じゃなかったんだね」と微笑み合うと、改めて謎の少女・美香にお礼を言った。
『構わない。 あ、あとついでだから最後に……2人に助言しておく』
「「助言??」」
巫女服らしきものを着ているし、このお寺の仏様とも交流がある……ということは幽霊の中でもかなり高位の存在なのだろうか。
そんな人物からの助言……気になる。
優香と美咲の視線が美香に集中する。 そして美香はそれを確認すると、ゆっくりと口を開いた。
『優香ちゃんは夜1人でするとき激しすぎる……それじゃあいくらその時はスッキリしても、翌日にも疲れが残るからほどほどに。 そして美咲ちゃん、美咲ちゃんは気づいてないだけで、数人の男子からは下着つけてない日はバレてるから気をつけたほうがいい』
「「ーー……!!!!!!」」
突然の爆弾投下。
顔を真っ赤にさせた2人が一度お互いを見合ってその後美香へと視線を戻すも、なぜか先ほどまで確実にいた美香の姿はそこには居らず。
やはり人ならざる存在だったため消えたのだろうか……2人は前のめりになりこちらを見つめていた寺田に「今の他言したら将来ないから」と目には見えない強靭な圧をかけて帰宅したのであった。
◆◇◆◇
その日の夜。
優香は美香に言われた通りほどほどの力でストレスを発散すると冷房の効いた自室でゆっくりと眠りにつく。
そしてこれは夢なのか現実なのかは分からないが……ふと目を覚ますと隣に優しい笑みを浮かべた女性が枕元に立っていた。
『あの方の力を少しでも浴びたおかげかな。 おそらくは今夜限りだとは思いますけど……やっと、こうして話すことができますね』
昨日の一件のおかげで彼女の顔・服装ですぐにわかる。 あの時の女の霊だ。
不思議と恐怖感というものはまったくない。 優香はゆっくりと上体を起こすと体の向きを女性の方へ……そして今までは誰だか分からずじまいだったのだが、女性のとある一言で全てを察したのだった。
『以前姫に言われた通り、残り少なかった余命を全て趣味に注ぎ込みました。 かなり様になっていたかと思いますが……お化け屋敷、ちゃんと怖かったですか?』
「ーー……!!!」
あぁ、なるほど。 そういうことか。
相談内容がかなり印象的だったから覚えている。 この人はあの時の……
◆◇◆◇
「ダイキ、朝だよ起きてー」
朝。 昨日は色々あって疲れているはずなのに優香の体調はまさに絶好調。
これは昨夜の行為を控えめにしたからなのか、深夜に目が覚めてあの女性とお話をして元気をもらったからなのかは分からない。 優香はベッドでぐっすりと眠っているダイキの掛け布団を元気よく取り去って「おはよう」と声をかける。
「んん……おはよう、ていうかお姉ちゃん、朝から元気だね」
「早く起きて用意しないとオバケさん出てきて怖い思いしちゃうよ?」
「え……お姉ちゃん、もうオバケ怖くないの?」
「うん。 お姉ちゃんやダイキ、美咲に視える幽霊に悪いのはいないからね」
「???」
優香は未だ寝ぼけ顔のダイキの頭をワシャワシャと撫でると「それじゃあ早くリビングおいで」と声をかける。
その後リビングへと先に向かってる途中、優香は先ほどダイキを撫でた手をギュッと握りしめながら昨夜あの女の霊に言われた言葉を思い出していた。
『姫は前に「私の弟めちゃくちゃ臆病だからガチで驚かせて精神鍛えあげて欲しい」って仰ってましたけど、弟くん……筋力面は別として、姫が思ってる以上に強い子ですよ』
「ーー……ふふ」
食事中、あの言葉がかなり嬉しくてつい声を出して喜んでいると、対面に座っていたダイキが「どうしたのお姉ちゃん」と尋ねてくる。
「ううん、なんでもないよ」
「そうなの?」
「うん。 あ、そういやダイキ、前に『「クヒヒ」って笑う女の霊知らない?』って聞いてきたでしょ?」
「うん」
「だったらさ、美香ちゃんって幽霊も知ってる? 巫女服みたいなのを着た三つ編みの女の子なんだけど……」
「ぶーーーーっ!!!!」
ちょうど味噌汁を口に含んでいたダイキが勢いよくそれを噴射。
下を向いて吹き出したせいもあってかパジャマは味噌汁だらけ。 「あああ、早く洗濯機に入れておいで」とダイキのパジャマをティッシュペーパーで拭きながらゆっくりと誘導していく。
「ーー……ごめんお姉ちゃん」
「いいよ変なこと聞いたお姉ちゃんが悪かったんだから。 ていうかパンツにまで染み込んじゃってるね。 ちょっと待ってて持ってくるから」
「ありがとう」
「あ、パンツといえばで思い出したんだけどダイキ、美咲にパンツとか貰ったんだって? ちゃんとお礼言っときなよー?」
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!」
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