527 【エマ編】愛しくてエマ【挿絵有】
五百二十七話 【エマ編】愛しくてエマ
思いもしなかったエマからの東北旅行の誘い。
費用はお土産以外すべて事務所負担とのことでなんとも太っ腹……普通なら誰しもが喜んで飛びつくような内容なのだが……
しかし……しかしだな、オレはここ数日間溜まっていた欲求をこれでもかというほどに吐き出さなければならないという使命があるんだ!!!!
だからエマには申し訳ないがそのお誘いはちょっと……、というよりも優香もSJK……高校2年生なんだからなにかしら予定を入れているはず……
「えー!? 東北旅行!? うん、行きたいな! お願いしていいかなエマちゃん!」
エェエエエエエエエエエエエエエ!!!!!
優香はエマのお誘いを一瞬で承諾。
「本当にいいの!?」と半ば興奮気味でエマに尋ねている。
「はい、もちろんです! 優香さん前回来られなかったですもんね! では同行ということで事務所の方に伝えておきます!」
「ありがとうエマちゃん!」
「いえいえ! エルシィの面倒を見て頂いたせめてものお礼だと思ってください!」
チックショオオオオオオ!!!!!!!!
オレはその日の夜から週末までの間にぶっ倒れてもいいほどの欲望を発散。
そうして来たる週末・土曜日の早朝。 オレは前日の夜遅くまでスーパーハッスルをかました影響もあってか精神力・体力ともに衰弱した状態で新幹線に乗っていたのだが……
「そういやエマちゃん、今日泊まらせて頂ける旅館ってどんなところなの?」
ワクワクが止まらない優香が目をキラキラと輝かせながら対面に座っているエマに話しかける。
それに対しエマは「えっとですね、ここですここ!」とその旅館サイトをスマートフォンで検索し、その画面を優香に見せた。
「えー、天然温泉の大浴場あるんだ!」
「らしいですよ! それにそれぞれの個室にもミニ露天風呂があるらしいです! エマとエルシィは今回はミニ露天風呂にしておこうかなーとか思ってるんですが」
「そうなの?」
「はい、大浴場は結構人気らしく常に人がいっぱいらしいので」
「そうなんだー。 じゃあダイキ、お姉ちゃんたちもミニ露天風呂、一緒に入ろうね」
「!!!」
グングングーーーン☆
この優香のお誘いによりオレのほぼ0になりかけていたHPは全回復。
今夜の温泉の待ち遠しさから一気にテンション爆上げ状態になり積極的に盛り上がり出したのだが、更に目の前に座っていたエルシィちゃんがオレの膝の上に移動してきて……
「ダイキー?」
エルシィちゃんが振り返りながらオレを見上げてくる。
「な、なにエルシィちゃん」
「エッチー、ほんとは、ダイキのこと、ちゃんと、しゅきよー?」
ーー……はい、キュン死。
◆◇◆◇
お昼頃に東北へと到着。
一度旅館へと向かったオレたちは荷物を置いてから別行動に。 エマは撮影練習の打ち合わせへ、オレや優香、エルシィちゃんはエマの打ち合わせが終わるまでの間周辺の温泉街を散策することにした。
「うわー、硫黄の臭いがすごいねー!! さすが温泉街……来れてよかったなぁー!!」
優香が珍しく子供のようにはしゃぎながら立ち込める硫黄の香りを大きく吸い込む。
「ゆかぁ、いおー? なぁー?」
「そうだよ硫黄。 この臭い分かる?」
「んー。 エッチー、あんま、しゅきちがー。 くしゃー」
「まぁ子供の頃はそんなもんだよ。 でも……そうだな、エルシィちゃんも中学生くらいになったら好きになるんじゃないかな」
「そうなぁー? エッチー、しゅき、なんなー?」
「うん。 その時はまたみんなで旅行行こうね」
「やたぁー!! りょこ、いくのよー!!!」
あぁ……尊い。
そして同じ気持ちになったのはオレだけではない。
近くを歩いていた外国人観光客も「オー!! ベリキュートネー!!」などとあまりの愛しさから目がトロンと垂れていたよ。
その後しばらくの間お土産コーナーなどを楽しんでいるとエマから『もうすぐ撮影始まるわよ』とメールを受信。 早速例の川まで足を運び撮影風景を観察しに向かったのだが……
ちょうど撮影が始まったばかりなのかセーラー服を着たエマがゆっくりと流れの緩やかな川の中へ。
「それじゃあ視線ちょうだい」というカメラマンの声に反応したエマはクルリと振り返り、おしとやかに微笑んだ。
「おお……すげぇ」
「エマちゃん、セーラー服よく似合ってるね。 一気に大人っぽく見える」
「エマおねーたん、かあいーなぁー♪」
なんか以前……小山楓の頃に着ていたものと似ているのも運命なのだろうか。
それからもエマはカメラマンやその横にいる現場監督らしきおじさんの指示に的確に応えていく。
「おー、いいよエマちゃん! もっと奥ゆかしい視線とか出来るかな」
「はい」
「うんうんそうそう!! でももうちょっとアゴ引いた方がいいかもね……そうそうそれそれ!!!」
それをどのくらい続けただろうか。
エマの他にも今回の撮影練習に来ていた子もいたらしく、鬼マネさんが現場監督にそのことを軽く耳打ち。 すると現場監督はカメラマンと短い会話を交わし、2人揃ってエマへと視線を戻した。
「じゃあエマさん、次でラストになるけど……自分が一番いいと思える表情やポーズ、お願いできるかな」
「自分が一番いいと思える…わかりました」
そうしてエマが選んだポーズ。
それはもう……どんなものかは大体察しがつく人はついているよな。 そう、あの時……初めてパンフレット用の撮影オーディションを勝ち取ったあの……
◆◇◆◇
撮影練習が終わったあとは自由タイムを満喫してもいいということでオレたちは一度エマとともに旅館へ。
その道中、優香とエマの会話を後ろから聞いていたオレだったのだが、思わず涙腺が緩んじまったよ。
「エマちゃん、撮影すごかったね。 本当のモデルさんみたいだったよ」
「ありがとうございます。 えへへ、やっぱ見られると照れますね」
「だって最後のポーズした時なんか、マネージャーさんやカメラマンさん泣いてたもん」
「え、そうなんですか?」
「うん。 感動したんじゃないのかな」
「そう……ですね。 そうだったらエマも嬉しいです」
ーー……うん、気づいてくれた人、オレ以外にもいたんだな。
やっぱり小山楓の存在感……半端ねぇぜ。
その後旅館に帰ってきたオレたちだったのだが、オレが部屋に入る手前でエマに「ちょっとダイキ」と呼び止められる。
「ん、なんだ?」
「なんていうかその……ありがとね」
「なにが?」
「ダイキのおかげでエルシィとも仲直りできたりこうして撮影にも一緒に来れて……それだけでなくエマの今まで心に留めていた秘密も全部エルシィにさらけ出すことができた。 ほんとダイキのおかげよ」
エマが「改めて、ありがとう」とオレに優しさ満ち溢れた笑みを向けてくる。
「あー、うん。 まぁオレもよかったよ。 それがきっかけでオレの前世のこともエマに言えたことだし」
「そう言ってくれて嬉しいわ。 でね、エマ、あれからずっと考えてたのよ。 ダイキに何かお礼したいなって」
「お礼?」
「うん」
どうしたのだろう。 エマは小さく頷きながら答えると、少し頬を紅く染めてオレから視線を若干外す。
その後しばらくの間沈黙が続いたのだが、意を決してなのかエマはゆっくりと口を開いた。
「あのさ……前にエマ、ダイキに『エマに惚れるな』って言ったの覚えてる?」
「え、あーうん言ったな」
「あれ撤回。 ダイキだけ特別に許してあげるわ」
そう言ったエマは恥ずかしさを紛らわすように「感謝しなさい」とオレの頭をわしゃわしゃと撫で始める。
「ーー……!?!?!?」
は、はああああああああああ!?!?!?
いきなりなにを……なんてことを言ってくるんだコイツはあああああ!?!?!?
オレにエマを好きになる許可を与えるって……それ、捉えようによっては告白……ええええええええ!?!?!?!?
オレは先ほどのエマの言葉にかなり動揺。
内心エマのことを良いなって思ってた部分もあったからな……でもそんなこと言われたら、好きが加速しちゃうよおおおおおおおお!!!!
オレがエマを見つめながら心臓をバクバク言わせていると、向こうもなにかしらの返事が欲しいのだろうか。 「それで……どうなの?」と尋ねてくる。
「ちょっと待てエマ。 それはつまり、エマはオレのことを好……」
「だから! ダイキだけエマに惚れることを許可するって言ってんのよ!」
「な、なんで」
「そうしないとその……お互い両想いにはならないじゃない」
ーー……!!!!
ズギャアアアアウウウウン!!!
室内だというのに頭上から見えない雷がオレの体に向けて勢いよく落下。
あまりにも衝撃的な言葉に腰が抜け、オレはその場でヘナヘナと崩れ落ちる。
「りょ、両想い!?」
「だってダイキもエマのこと好きじゃない? 妬いてくれたりもしてたんだし……」
「ーー……!!!!!」
急に女の子らしく恥じらう態度キタアアアアアアアア!!!!!
これが俗にいうギャップ……今のオレには破壊力が強すぎるぞおおおおおおおお!!!!
オレがギャップで悶えるのとほぼ同時。 オレの脳内であの時エマと一緒に寝た夜……エマから感じた温かな癒しの記憶が蘇っていく。
おいおい卑怯じゃねぇか。
そんなもん思い出されたら一気に実感が沸いてきて今の状況が恥ずかしく……!!!
「ーー……で、ダイキ、どうする?」
「ど、どうするって?」
『付き合いたい』って……言って良いのか?
オレがかなりチキンになりながら答えていると、それを察したエマは「それじゃあ……」と靴下を片足脱いでオレの目の前にそっと置く。
「エ、エマ?」
そしてその光景をじっと見つめていたオレに向かって、こう囁いたのだった。
「エマだってその……こういう告白みたいなものしたことないから恥ずかしいのよ。 でもエマ、こういうの待つの本当苦手で。 0時まで待つから……もしダイキもエマのこと好きならこの靴下、エマに履かせにきて」
ーー……はい、恋死。
なにをビビってたんだオレは。
もちろんオレは0時なぞ待たず、すぐに靴下を拾ってエマの部屋へ。
ちょうど優香やエルシィちゃんもいるというかなり恥ずかしい状況下で「ほ、ほら。 靴下落としてたぞエマ」と顔を真っ赤にさせながら靴下を履かせたのだった。
「ふふ、ありがとダイキ。 あら、ぴったり」
「ま、まるであれだな、シンデレラだな」
「そうね。 ありがとう、王子様」
ブシュゥ。
エマの言葉を受けたオレは一瞬で鼻から大量の鼻血。
その後優香により鼻にティッシュを詰めてもらったのだが、鼻血が止まるまでの間オレはほんのり頬を紅く染めたシンデレラEMMAの姿をじっと見つめていたのだった。
「なぁエマ、お姉ちゃんやエルシィちゃんはお風呂行ったけど……お前はいかないのか?」
「まだいいわ。 そうしたら鼻血で温泉入れないダイキが1人になるし、かわいそうかなって思ったのよ」
「なるほど、それはありがとう。 でももう止まったっぽいしそろそろオレも……」
「そうなの? じゃあお互い精神年齢は18歳越えてるわけだしさ、2人が戻ってくるまでの時間、大人な恋愛……する?」
「エ」
ブシュウ。
「あははは、冗談よ冗談。 ほら、まだ止まってないじゃない。 横になって安静にしてなさい、ティッシュ新しいの持ってきてあげるわ」
「くそ、やっぱりお前……世界で一番可愛いし綺麗だとは思うけど、悪い女だよな」
「ふふ、ありがと」
ちっくしょおおおおおおお!!!!! 愛しいじゃねえかあああああああ!!!!!
◆◇◆◇
ちなみにこの旅行の数日後分かったことなんだけど、エマのあの練習撮影の写真……来年度の観光パンフレットに採用されたんだってよ。
もちろんそれを知ったオレがネットの力をフルに駆使してその無料パンフレットを100部取り寄せたことは誰も知らない。
(エマ編・完)
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今回のエマちゃん撮影練習の風景ですが、懐かしの小山楓VERは181話『エマの探し物!』にて掲載されておりますっ!




