526 【エマ編】衝撃しかねぇ!!
五百二十六話 【エマ編】衝撃しかねぇ!!
「ごめんね、エルシィちゃんが今のエマおねーたんが本当のエマおねーたんじゃないって知ってること、エマおねーたんに喋っちゃった」
「!!!」
このオレの発言にエルシィちゃんは大きく目を見開きすぐにエマへと視線を戻す。
そしてこれにはエマもすぐに反応。
「ちょっとダイキいきなり何言って……なんでそれを今言うのよ!!!」
先ほどの和やかな空気は何処へやら。
エマはエルシィちゃんにそのことは黙っておこうと考えていたのか「それを言うのは別に今じゃなくても……エルシィが大きくなってからでも良いでしょう!!!」とオレにブチギレながら詰め寄ってくる。
「いやちょっと待てエマ、オレの作戦の邪魔するな」
「作戦!? どこが!? 完全に悪手じゃない!!」
「だから落ち着けって」
オレは一旦エマとエルシィちゃんを家の中に入れて扉を閉めると、エルシィちゃんの肩にそっと手を置く。
「エルシィちゃん、あのさ……」
「********ーーー!!!! ***、****ーー!!!」
お?
エルシィちゃんがオレを睨みつけながら、英語ではない言語……おそらくはフランス語だろう。 かなり早口でオレに何かを叫んでいる。
「*****ーー!!!!」
「んーと、怒ってるのは分かるんだけど、とりあえずエルシィちゃん落ち着いてくれ。 ……なんて?」
オレが意味がわからず首を傾げていると、見かねたエマが静かに口を開いた。
「なんでそんなこと言うの? ダイキなら私との約束守ってくれるって信じてたから言ったのに……だって」
エマは声を落としながら通訳すると「ほら、だから言ったじゃない。 今じゃなかったのよ」と半ば諦めたようなため息をつく。
ーー……なるほどな。
「エルシィちゃん、そこは謝るけどさ。 それもずっと黙ってるわけにもいかないだろ? いつかは言わなきゃいけない……それをオレは今なのかなって思ったんだ」
「やぁっ!! ダイキ、うしょ、ちゅいたー!!! ダイキ、きらぁー!!!」
おお、突然の日本語にシフト。
オレが理解出来てないって気づいてフランス語やめてくれたのか。 どこまで優しい天使なんだ。
オレはそんなエルシィちゃんの気遣いに感心しつつも先ほどのオレへの罵りへの反応はあえて無視。 この状況を変える最強の言葉を放つことにする。
「なぁエルシィちゃん。 じゃあさ、オレとエマおねーたん、どっちが嫌い?」
「ダイキー!!!!」
即答かよ。
まぁそうでないと困るのだが。
「なんでオレの方が嫌いなの?」
「エッチーとの、やくしょきぃ、やぶたぁ!!!」
「でもエマおねーたんもエルシィちゃんのお願いをちゃんと聞いてくれなくなってたんだよね?」
「ーー……!!」
そう尋ねるとエルシィちゃんは言葉を詰まらせ無言に。
どう返事をすればいいのか考えているのかオレとエマを交互に見比べ始める。
「エ、エッチーは、エッチーは……」
よし、まぁ分かりきってたことだけどエルシィちゃんはエマのことを別に本当に嫌いなわけではなさそうだし……第2段階にいくか。
オレはここで対象をエマに変更。
戸惑うエルシィちゃんの手を優しく握りながら「それでさ、エマ」とエマに話を振る。
「な、なに?」
「エマはエルシィちゃんのこと嫌いか?」
「は!? そ、そんなわけないでしょう!! 大事な妹なんだから!!」
「知り合ってまだ2年くらいなのに?」
「当たり前じゃない!! エルシィは私……エマの人生を救ってくれた大事な存在なの! 前にも言ったと思うけど……今のエマがあるのはエルシィのおかげなんだから!!!」
エマはエルシィちゃんの手を握ると、まるでオレから奪い返すように自らの方へと引っ張り抱きしめる。
「エマおねーたん……」
うむ、あとは今朝オレがエマに言われて嬉しかったことをエルシィちゃんから言ってもらえれば完全に勝ちだ。
この状況なら……確実にいける!!
オレは自身の脳に『話術での誘導、頼むぞ』と敬礼をしてエルシィちゃんに視線を戻した。
「エルシィちゃん、エマはエルシィちゃんのこと大好きだって。 でもエルシィちゃんはエマおねーたんのこと嫌いなんだよね?」
「ーー……んん」
エルシィちゃんがほぼ無言で首を横に振る。
「ーー……しゅき」
「え? なんて?」
「しゅきーー!!!!! エッチー、エマおねーたん、しゅきいーーーー!!!!」
この発言でエマの瞳・表情に、より光が灯り始めたのを確認。
しかし今はエルシィちゃんに集中だ。
「へぇー、でも中身は昔のエマおねーたんじゃないんだよ? それでも好きなの?」
「しってうのーー!!!! でも、エマおねーたん……がんばって、さみちかた、エッチーに、なかよくしてぇ、くえて……、しょえに、エッチーのために、ニポンに、きたり、だいじに、してくれてうのーー!!!! エッチー、いまの、エマおねーたん、しゅきーーー!!!!」
感極まったエルシィちゃんはそのままエマの胸に顔を埋めて大号泣。
そしてそれを引き金にエマまでもがエルシィちゃんにつられて大粒の涙を流し始めたのだった。
◆◇◆◇
時間を確認すると本日も遅刻コース確定……なのだが、こんな最高な場面を誰が邪魔できようか。
今まで事実を言えてなかった引け目とかいろんなものが溢れたんだろうな、エマはエルシィちゃんを抱きしめたまま「今まで黙ってて……エルシィに一人抱え込ませちゃっててごめんなさい!!」とエルシィに謝っている。
「んーん、エッチー、エマおねーたん、しゅきだから、だいじょぶ、なのよー?」
エルシィちゃんはそんなエマの頭を優しく撫でて顔を上げさせるとエマの流した涙を指ですくい、「エッチーも、ごめんなしゃい」と深々頭を下げた。
「い、いや……そんな。 悪いのはエマだから。 エルシィに寂しい思いをさせちゃって……。 そうよね、今のエマはエマだもんね。 一番にするべきはエルシィなのに。 モデルは今月いっぱいで終わりにするから……」
「やっ」
え。
「え」
鬼マネさんには悪いが今のエマの言葉で丸く収まる……そう思っていたオレだったのだがまさかのエルシィちゃんがそれを拒否。 予想していなかった展開にオレとエマが同時に声を漏らす。
「え、エルシィ……なんで? ダ、ダイキぃー」
エマが助けを求めるような瞳をオレに向けてくる。
「ちょ、ここでオレに振んなよ!」
「だって……」
ちくしょう……仕方ないな。
今一番困惑しているのは間違いなくエマだ。 それにそんな目で見られたら断れねぇじゃねえか。
ということでオレが代わりにエルシィちゃんの気持ちを探ることに。
「どうしてエマにモデルをやめて欲しくないの?」と聞いてみたのだが、それに対するエルシィちゃんの反応はこれまた理解できないものとなっていて……
「ちがー! エマおねーたん、モデユ、やめうの、やぁ!!」
「なんで? でもエルシィちゃん、エマがモデルのレッスンとか行って遊べる時間減ったから怒ったんでしょ?」
「んーん! ちがぁ!! エッチー、エマおねーたんの、じゃま、したくなぁー!! だから、エッチー、プンプン、したのよー!?」
「?????」
オレの頭上に多くのはてなマークが出現。
これはエルシィちゃんの日本語力に限度があるから理解できないのだろうか。
オレはエマにフランス語で聞いてみてくれとお願いをしてみることに。
その後エマとエルシィちゃんは「****?」「****」とオレにはまったく聞き取れない会話をしていたのだが、それは突然……エマが再び涙を流し始めた。
「ちょ、えええええ!?!? エマ、どうしたんだあああ!?!?」
一体エルシィちゃんに何を言われたのだろうか。
エルシィちゃんの表情を見るに、確実に悪いことではなさそうなのだが……
早くオレも内容を知りたいところなのだが今はエマがすすり泣いているため何も聞けず。
そしてその理由を聞けたのはそれから数分後。 エマが嗚咽を漏らしながらも先ほどエルシィちゃんに言われたことをオレに教えてくれたのだった。
「あ、あのね……エルシィがね……」
「うん」
「自分のせいでエマがレッスンに集中出来てないって感じたから、いっぱい集中してほしいために怒ったふりして家を出たんだって」
ーー……は?
「え、それマジ?」
オレの問いかけにエマは涙を擦りながらコクリと頷く。
「らしいわ。 さっきエルシィにそれは本当なのかを聞いたんだけど、エルシィが……『もし本当に嫌いだったらダイキの家に行ってない、もっと遠くに行ってる』って。 それに最近エマが夜遅くまで勉強してたことにも気づいてたっぽくて……ほんとは1ヶ月くらい集中させてあげようって思ってたらしいんだけど、エマが風邪引いたって聞いて『心配で見に来ちゃったの』って」
「ーー……何それ、天使やん」
「うん」
こうしてエルシィちゃんの子供なりの気遣いによって引き起こされた姉妹ゲンカは無事解決。
オレたちは遅刻確定なのは承知で学校へと向かったのであった。
「はぁ……エマたち、今日こそ怒られるわね」
エルシィちゃんと手を繋いだエマが諦めた表情でオレに微笑みかけてくる。
「あー、そこはオレが高槻さん経由でうまく根回ししといたぞ」
「そうなの?」
「あぁ」
「なんて?」
「エマが突然女の子の日になって苦しそうだから、一旦家に戻って痛みが引いたら一緒に行きますって」
「ーー……」
結果、オレの根回しは大成功。
そしてその日の帰り道、エマからとんでもない提案を受けたのであった。
「ねぇダイキ、週末暇?」
「いや、暇じゃない」
「何か予定あるの?」
「あぁアリアリだ。 お前の部屋に泊まってからというもの夜のお楽しみが出来ていないからな! 今日から毎晩めちゃくちゃハッスルしなければならん」
ここ数日オレは日課といって過言ではない男特有の楽しい行為をずっと我慢し続けていたんだ。 だがそれも今日で解放……そう考えただけでもオレの相棒はいつでも臨戦態勢可能だぜ!!!
オレはエマに「だから今日から週末にかけては全部無理だ」と改めて答えたのだが何故だろう、エマはそんなオレの熱い想いを踏みにじるかのように「ふーん、じゃあ暇ね。 優香さんはどうかしら?」と話を続けてくる。
「おいエマ聞いたか? お姉ちゃんの話の前に、オレは週末も一人でエロい……」
「鬼マネに許可もらったんだけどさ、ダイキたちも東北撮影同行しない?」
ーー……。
「え」
「ほら、前は優香さんテストで来られなかったわけだしさ。 まだ新幹線も手配できるって言ってたし、どう?」
「ええええええええええええええ!?!?!?!?」
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