524 【エマ編】嫉妬と慈愛
五百二十四話 【エマ編】嫉妬と慈愛
「ダイキ、いいかしら」
お風呂から上がったオレが今寝泊まりしているエマの部屋でくつろいでいると、大きめのTシャツにほぼ素足しか見えていない短パン……パジャマ姿のエマが扉から顔を覗かせてくる。
「あーうん、オレがさっきした話のことだよな」
「そうよ。 あの時はいきなり怒っちゃってごめんなさい。 ついカッとしちゃって……」
「いや、エマの気持ちも考えなかったオレも悪いからな。 謝るならオレの方だ。 本当にごめん」
エマにつられてオレも頭を下げると、エマがその状態のまま「それであの話って……本当なの?」と静かに尋ねてきた。
「まぁ……そう、実は本当なんだ。 嘘じゃない」
「そっか」
「でもなんで急に信じてみようってなったんだ?」
「それはミナミのおかげよ」
「小畑さん?」
そこからエマが話したのは小畑とお風呂に入っていた時のこと。
どうやらエマがその時にオレの発言した内容にブチギレたことを話したらしいのだが、小畑の反応は予想の真逆……『いやそれ、ガチなんじゃない?』と言っていたとのことだった。
「えええ、小畑さんに言ったのか!?」
「だって本当だと思ってなかったんだもの。 でもミナミにあれだけ真剣な目で言われたら……。 それにダイキって一度自分で飛び降りたらしいじゃない」
「そこまで小畑さんエマに教えてたのか。 まぁうん、そうらしいんだよ。 だからオレが目を覚ました時は地面に打ち付けたところとかめっちゃ痛かったもん」
「そうらしいって……やっぱり本当だったんだ」
「まぁな」
「じゃあ……聞かせてくれる? あの話の続き」
「うん」
こうしてオレはエマにオレがこの福田ダイキの身体に転生してからの出来事……とある理由で死んで神様にこの身体に魂を入れてもらったことから始まり、退院後すぐにこのダイキという男の子がイジメられていて自死しようとしていたのを知ったことをざっくりと話していく。
「でもよくイジメられてたなんて分かったわね」
「そこらへんはあれだ、状況はお前に似てるぞエマ」
「そうなの?」
「あぁ。 エマの場合は日記だったろ? オレの場合はノートに箇条書きにして書かれてたんだ。 誰にどんなことをされて辛かった……とかな」
「そうなんだ……てことは前のダイキくんも大変だったのね」
エマが同情に満ちた目をオレに向けてくる。
「まぁそうなんだけど……ちょっと待てエマ。 なんで『ダイキくん』なんだ。 オレには『くん』つけて呼んだことねーだろ」
突然の元祖ダイキを『ダイキくん』呼びしてきたエマに違和感を感じたオレは、話を中断させて隣に座っているエマの腕を掴む。
「なによ、いいじゃないそこは気にしなくても」
「いや気にするぞ。 なんか前のダイキに優しくしてるようでムカつくな」
「そりゃあするでしょ。 イジメられたりして色々苦労しただろうし」
「でもオレだって苦労したぞ? 1人も味方のいない状況から自分の居場所を作っていって……」
「え、なにダイキ。 妬いてるの?」
「は?」
オレはこのエマの発言に言葉を詰まらせる。
オレが妬いている……? そうなのか?
確かに前の……元祖ダイキが置かれていた状況も大変といえば大変だったのは理解している。 それをきっかけに自らの人生の幕を下ろそうとしていたことも。
それでもやっぱりほとんどの人に話せていない自分の秘密を今明かしているからなのだろうか。 今この時だけは他の人ではなくオレ自身を見てほしい……そう思ってしまっているオレがいる。
オレが無言のまま黙り込んでいるとエマが首を傾げながら「ん? ダイキ?」と顔を覗き込んでくる。
「まぁ……そうだな。 今だけは妬いてる……のかもな」
「え?」
「あんまりこの話はいろんな人に言える内容ではないからな。 だからエマが元祖ダイキのことを考えてくれるのは嬉しいけど、今この時間だけはオレだけを見てほしいっていうか……って、あれ?」
途中まで自分の本心をそのまま話していたオレだったのだが、今までそんな真面目な話をしたことがないからなのだろうか。 脳が先ほどの自分の発言に違和感を覚える。
なんだろう、冷静に考えたら今のセリフ……めちゃめちゃ恥ずかしくないか?
あまりの恥ずかしさから自分の顔が少しずつ熱くなってきているのを感じるんですが。
「ーー……ダメだ」
「ダイキ?」
「ダメだあああああ!!!!!!!!」
オレは先の発言以降真っ赤になった顔を両手で隠して大悶絶。
ベッドに倒れこみ転がりながら「ぎゃああああああ!!! すまんやっぱり今の発言はナシ、忘れてくれ!!! てか話の続きは明日にしてくれえええええ!!!!」とエマに懇願する。
「いや……どうしたのよいきなり。 それになんでそんなに恥ずかしがるのよ」
「だってキモかっただろ!! 何が『そうだな……今だけは妬いてる』だよ!!! ひぎゃあああああああ!!!!! 思い出すだけで鳥肌立つわあああああ!!!!」
穴があったら入りたい……これほどまでにそう願ったことはないだろう。 オレの脳内では先ほどのオレ自身が発した気持ち悪いセリフが永遠とループ。
その間もエマが「いや別に恥ずかしくないわよ?」などとフォローを入れてくれたりしていたのだが、こんな湯気が出るほどに熱くなった顔をエマに見られるわけにはいかない。
なのでオレは枕に顔を押し付けながらエマが今日は諦めて部屋から出て行くことを望んでいたのだが……
それは突然だった。
「大丈夫。 確かに前のダイキくんのことはかわいそう……大変だったんだって思うけど、結局はそこ止まり。 エマは今のダイキしか知らないから、好感度でいったら圧倒的に今のダイキの方が上よ」
うつ伏せになり枕に顔を押し付けているオレを包み込むかのようにエマが上から覆い被さりながらオレを抱擁。 先ほどの言葉を耳元で優しく囁いてくる。
「ーー……エマ?」
「それにさっきのダイキの『妬いてる』って言葉、エマは嬉しかったわよ。 そこまでエマに真剣に話してくれてたってことだものね」
その後エマは「今夜はじゃあ終わりでいいわ、ダイキがまた話せるようになったらお願い」と言い残して静かに部屋を後にする。
そしてオレは未だ枕に顔を押し付けたままその音だけを聞いていたのだが……
うわあああああああ!!!! なんだ今のエマの包容力はああああああ!!!! なんかめちゃくちゃ心と体が癒されて……!!!
エマ……エマ……エマああああああああああああ!!!!!!!!!
あの温かさを知った後に1人で寝られる訳が無い。
オレはすぐにベッドから飛び起きエルシィちゃんの部屋で寝ようとしていたエマのもとへ。 扉を開けるとベッドに腰掛けていたエマが大きく目を見開いて「ダ、ダイキ? どうしたの?」と見上げてくる。
「あ、あのなエマ。 そ、その……とりあえず明日は絶対話すから、だから……」
「なに?」
「今夜だけでいいので一緒に寝てくださいお願いします!!!!!!!!!」
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