519 【エマ編】特別編・夢と希望を乗せて
五百十九話 【エマ編】特別編・夢と希望を乗せて
ポール一家はあれからすぐに家を引っ越してここからは離れた……少し遠くの地域へと行く事に。
そしてあの楓が罠を仕掛けた日、話し合いをするために学校へと移動していたところを見かけた人がいるらしく、ポール転校のきっかけはエマが絡んでいるらしいと言う噂が翌日から学校の区内で大広まり。 楓が学校から帰ろうとしていると、ポールとともに以前のエマをいじめたらしき生徒たちが総出で謝罪してくるという事態が起こっていた。
「ごめんなさいエマ!! あの時はつい俺の心の悪魔が微笑んでそのまま……!」
「「「「ごめんなさい!!」」」」
まさかポールに加担していた人がこんなにいたなんて。
楓はそれを華麗にスルー。 謝罪し続ける生徒を引き連れながら職員室へと向かうと、「今エマに告白した自分たちの罪、一言一句間違わずに先生に報告しなさい。 そうすればエマは君たちをこれ以上罪に問わない……処分は学校の温情に任せるわ」と生徒たちを教師たちに引き渡して家へと帰宅したのだった。
◆◇◆◇
家に帰宅した楓はポールへの制裁の話がまさかの幼稚園にまで広まっていたことを母から聞いて衝撃を受ける。
昼頃に母のスマートフォンに幼稚園の先生から電話があり、我が子がエルシィをいじめていたことを知っていた親たちがポール家族の二の舞にならないよう、一斉にエルシィに謝罪させたいと申し出があったとのことだった。
「なんか……凄いことになったね」
「えぇ、ママもほんと驚いてるわ」
「エルシィはなんて言ってるの?」
「謝られても無理、みんなの顔も見たくないって」
「そっか。 じゃあこう伝えて貰えばいいんだよ」
楓はパソコンの近くに置いてあったコピー用紙を手に取ると、楓の思いつく脅しの内容を文字に起こして書き連ねていく。
ちなみに書いた内容がこちら。
・今回のことは水に流すけど、もし今後エルシィが外に出た際にちょっかいを出したりしてこようものならポール一家と同じ目にあってもらう。
それに後で『やっぱりウチの子はやっていなかった』はナシ。 幼稚園に申し出てる時点で既に先生に名前を聞いてメモしてるから、そういう卑怯なことをしてきた人にも徹底的に追い詰める。
これを書き終えた楓はやりきった表情で母に「これを幼稚園にFAXして、先生たちに申し出てきた家庭に伝えて貰えばいいんだよ」とその用紙を差し出す。
「え、確かにいい考えだとは思うけど……エマ、あなたよくそんなアイデア思い浮かんだわね」
内容に目を通した母が若干引きながらも感心した視線を向けてくる。
「そうかな」
「そうよ。 だって今までのエマだったら……ポールくんに自白させた時もそうだけど、そんな大胆に動くって事がなかったもの。 まるで人が変わったみたい」
母はそう口にしながらも幼稚園にFAXを送信。
しかしすぐに自分の言葉に違和感を感じたのか、FAXを送っている途中で勢いよく楓を抱きしめてきた。
「ごめんね!! ごめんねエマ!! あぁ……、ママはなんて酷いことをエマに言ってしまったの!!」
母は楓を強く抱きしめたまま大号泣。
楓も突然のことで意味がわからず「え、ママ? どうしたの急に」と狼狽える。
「ねぇママ?」
しばらくの無言。 しかしようやく落ち着いてきたのか、母は静かに口を開いた。
「エマは記憶をなくして……それでも諦めないで頑張ってここまでやってきたというのに、ママはそんなエマを『人が変わったみたい』だなんて……! 本当にごめんなさい!!!!!」
「ーー……!」
あー、これはもうダメなやつだ。
自分の中で大事な……信念にしていたものが少しずつ溶けて消えていく。
それはいずれ、お金を貯めたらこの家を出て1人日本に帰ってやるという以前自らが決意した想い。
ここまで大事にされていることを……愛されていることを知って、そんな人たちを残して1人去っていく事が出来るだろうか。
ーー……もちろん出来ない。
自分が消えてしまえばここの父母はおろか、自分の心を救ってくれたエルシィにまで悲しい思いをさせてしまうことになるからだ。
なので楓は新たな信念を己に確立させることに。
それはこの家族を見捨てないこと。
もちろん以前の自分の親やユリといった友人たちも大事だが、今の自分は小山楓ではなくエマ。 エマ・ベルナールなのだ。
これより私は小山楓ではなく、エマ・ベルナールとして人生を生きていく。
こうして楓はエマとして生活していくことに。
そしてそれは順調に進み、学校の友達と遊んで帰ったりと父母にプライベートが充実していることをアピールしてエマ自身もこの生活に馴染んできていたのだが……
◆◇◆◇
「いやああああああああああ!!!!! 帰る……お家に帰るーーーーー!!!!!!」
エルシィの外嫌いは一向に治らず。
やはりあの誘拐された記憶がまだ心に深く残っているようで、なんとか家から出られたとしてもすぐに車の中へ。 車内から似たような外見の人が見えただけでも大号泣してしまうのだった。
「うーん、やっぱりまだ恐怖は取れないか」
「それは当たり前よ。 きっと私たちでは計り知れないほどの恐怖を感じたんだわ。 でもずっとこのままというわけにもいかないわよね」
エルシィが泣き疲れて寝静まった車内。
後部座席ではエマがエルシィを膝枕して頭を撫でており、その前方……運転席側では夫婦が深刻そうに話していた。
「エマ、何かいい方法はあるかい?」
話に詰まったのか父がエマに話を振ってくる。
「えっ?」
「ママから前に教えてくれたんだけど、エマはパパやママが考えもつかないようなことを思いつく天才なんだって? だからそんなエマの考えを聞きたいのさ」
父のお願いに母も同調。
2人の熱い視線が車のセンターミラー越しから向けられてくる。
「エマ」
「エマ」
「うーーーん……」
まぁ一番手っ取り早いのはエルシィが苦手な見た目の人が少ない所に行くことだけど、もし仮にそんな場所があるとしたら……
ここでエマは困り果てた両親にダメもとで「エルシィ、日本に興味あるようだし1度旅行をかねて連れて行ってみない? そこならエルシィの苦手な見た目の人少なそうだし」と提案することに。
しかしそれはすんなりと採用され……
「そうだね、それはいいかもしれない!」
「さすがはエマ。 人じゃなくて環境を変えてみるだなんて……やはりママたちでは思いつかなかった内容だわ」
「え」
その数週間後いざ連休を使って家族で行ってみると、エルシィの恐れるような見た目の人が……実際かなり僅かには見受けられたが、あまり目立たなかったためかエルシィは外だというのに大はしゃぎ。 久しぶりに外で楽しんでいる愛娘を見た両親はさぞ嬉しかったのだろう……公共の場なのは分かっていたらしいのだがあまりの嬉しさから泣いてしまっていたのだった。
日本からフランスに帰ってきて少し。
両親から「大事な話がある」と言われたエマがリビングに向かうと、既に真剣な表情をした両親がテーブル席に座っている。
「エマ、今の小学校は楽しいかい?」
エマが両親の前に座ると唐突に父が話を始める。
「え、うん。 楽しいけど」
「そっか。 じゃあ小学校を卒業するタイミングでもいいんだけど、近々エルシィのために日本へ引っ越そうと思ってるんだ」
「ーー……え」
聞く話によると、少し前に行った日本でのエルシィを見ていてとても嬉しかったらしく、どうせなら旅行じゃなくて住んでしまおうというもの。
しかし父は仕事の都合上すぐには行けないので、「先ずはママとエマ、エルシィの3人で行っておいてくれ」とのことだったのだが……
「ううん、そういうことならエマ、エルシィと2人で先に行ってるよ。 ママはパパが1人になっちゃうから落ち着いてから来て。 それと……さっきはパパ、エマが小学校卒業してからで良いって言ってたけど、エルシィのためだしすぐに引っ越すよ」
エマの言葉を聞いた2人が大きく目を見開いて互いに顔を見合わせる。
「え、でもエマ……」
「大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。 もしもの時は電話するし、エマ、日本語得意だもん。 それにエルシィはエマが絶対に守るから安心して」
こうして日本が夏休みになるタイミングでエマはエルシィとともにフランスを出発。
父母の想いとエルシィの希望を乗せて日本へと飛び立ったのであった。
「エマおねーたん、エッチー、わくわく、しゅゆねー」
飛行機の中、エルシィがニコニコ微笑みながら日本語で話しかけてくる。
「えー? 別にエマにはフランス語で話しかけてくれていいのよ?」
「んーん、にほん、いくぅー。 らーから、エッチーも、にほんごー、なのよー?」
「そっか。 じゃあエマも日本語でエルシィと話そっかな」
「やたぁー!!!!」
〜 完 〜
◆◇◆◇
「ーー……とまぁ、簡単にいうとこんな事があったのよ」
オレの隣。 エマが座りながら「どう? エルシィがいかにエマにとって大事な存在なのか分かってくれたかしら」と尋ねてくる。
なるほどな、今のエマがあるのはエルシィちゃんのおかげと言っても過言ではない。 あのときエルシィちゃんがエマの隣で本を読まなかったら誰ともコミュニケーションを取らず、ずっと引きこもってしまってたのかもしれないってことか。
「それはエルシィちゃん尊くもなるわ」
「でしょ」
「うん。 もう言っちゃうけどさ、エルシィちゃん……お前が本当のエマじゃないって知ってるんだぞ。 なのにあそこまで懐いてるって、どんだけ愛されてんだよ」
「ふふ、エルシィ、いい子でしょ」
エマがかなり照れながら「でしょー」と微笑む。
ーー……が。
「ーー……え、ちょっと待ってダイキ」
エマがオレの腕を静かに掴んでくる。
「なんだ」
「さっきなんて言った?」
「ん、何が」
「いや、エマの聞き間違いかしら。 さっきダイキ、エルシィが実はエマが本当のエマじゃないって知ってるって……」
「あーうん。 言ったな。 これはもう言うしかないと思ったぞ」
エマが信じられないと言ったような瞳でオレを見つめてきている。
「ん、どうしたエマ」
「ねぇ、それほんと?」
「あぁほんとだぞ」
「ウソだったら……冗談では済まされないわよ?」
「だからほんとだって言ってんだろ」
「エルシィが言ったの?」
「うん」
「直接ダイキに?」
「うん」
「えええええええええええええええええ!?!?!???」
それからのエマは超ご乱心。
オレはかなり眠くなっていたのだがエマが寝させてくれず、朝方まで尋問タイムに付き合う羽目になってしまったのだった。
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