518 【エマ編】時別編・私だからできること
五百十八話 【エマ編】特別編・私だからできること
エルシィが誘拐された日を境に外に出られなくなったことはとりあえず一旦保留だ。
まずやるべきことは自分の魂が入る前のエマを目の敵にしていたらしき上級生の男子、そして幼稚園でエルシィをイジめていた子たちへの制裁。
とりあえずあの日記のように途中で加勢に来られても面倒だ。 楓は最初に上級生の男子を無効化することにした。
◆◇◆◇
日記にはその男子の特徴などはまったく書かれていなかったのだが、それは同級生に聞くとすぐに教えてくれた。
「エマ、忘れたの? ほら、あそこに見えるおっきな男の子だよ」
同じクラスの女子が対象に気づかれないよう小さく指を差す。
「あ、あの冬なのに短パンの太っちょくん?」
「そうそう、あの人がポールだよ。 でもどうして?」
「大した理由はないわ、ありがとう」
楓は女子にお礼を言うと早速行動を開始。
方法はいたって簡単だ。 アイツ宛てに手紙を書いて、それをアイツの教室付近でワザとらしく落とすだけ。
あとはその手紙を拾った誰かが封筒に書かれている宛先を見るだけで……
「おいポール!!! お前宛てのラブレターが落ちてるぞ!!!!」
はい、ビンゴ。
これなら誰かに見つかることなく対象者に手紙を渡らせることが出来るからね。
楓が物陰に隠れて様子を伺っていると、教室の中からは変に盛り上がった声が聞こえてくる。
「おいポール、なんて書いてるんだ!?」
「えーと、あなたのことが好きです。 2人きりで話したいので指定した場所に来てくれると嬉しいです。 場所は……」
ポールが手紙を読み終えると教室内で再び大歓声。
この感じからしてアイツは今日指定した場所に必ず来るはずだ。
そのことを確信した楓は次の作戦へと移行。 軽く準備を済ませた後に、今か今かと授業が終わるのを待った。
◆◇◆◇
放課後。 ポールとの待ち合わせに指定した場所は以前のエマが落とされたと思われる川付近。
建物の影で身を潜めていると、何も知らないポールがその豊満なお腹の脂肪を揺らしながら目的地へと到着。 ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら周囲を見渡している。
よし、じゃあ行くか。
楓は満を持してポールのもとへ。
するとどうだろう、思ってもいなかった相手が現れたからなのか、ポールは一瞬驚いた表情を楓に見せた。
「な、なんだ!? なんでお前がいるんだよ!!」
「あぁ、驚いた?」
「まさかこの手紙お前が……」
「そうだよ。 まんまと呼び出されてくれてありがとう。 おかげで何の苦労もしないで2人で話せるよ」
「2人で? い、一体何を……」
「まぁ私のこと既に広まってるだろうから知ってると思うけど……記憶を失ってるかもって聞いた時は安心したでしょ?」
「!!!」
ポールの顔が一気に強張る。
「あれから私に突っかかってこなかったのってさ、もしかしたら私が君に川に落とされたことを思い出しちゃうかもって考えたからだよね? でもざーんねん、覚えてましたぁー」
楓は出来うる限りの極悪な顔を浮かべながらポールに一歩、また一歩と歩み寄っていく。
しかしポールもまだ自分がそこまで追い込まれているとは思っていないのだろう、「だ、だったらどうした!?」と妙な威勢を張りながら楓に詰め寄ってきた。
ポールの顔との距離はほぼ数センチ……冬だというのにかなり汗臭い。
楓は鼻が歪みそうになるのをグッと堪えて余裕のある笑みをポールに見せる。
「え、なに? どうしたのポール。 焦ってるの?」
「そんなわけないだろ!! またイジメられたいのか!?」
「えー? イジメー? そんなことあったかなー。 エマ、あまりにも幼稚すぎて覚えてないかもー」
「ふっざけるな!!! 色々してやっただろ!! 弁当捨てたり転ばせたり……本気で叩いたり蹴ったり!!」
はい、小学生のイキってる男子ちょろいー。
楓はフフンと笑いながらも更に挑発を続ける。
「あー、あれ? あれイジメだったんだ。 ぜーんぜん怖くなかったよ? 他にはないの? ほら、言ってごらん?」
「バカにしてるんじゃねーよ!! お前泣いてただろうが!!! 特に川に落とした時なんかはバシャバシャもがきながら叫んでたくせに……!!」
「そっか。 エマ、泣き叫びながら溺れてたんだ。 ふーん」
「そうだよ!! それでも怖くないってならもう1度……!」
「やってみればいいんじゃない? ただしこの人たちの前で」
ポールの自爆発言を聞き終えた楓はニヤリと口角を上げながら後ろを振り返る。
「な、なんだよおい! 話はまだ終わってないぞ!!!」
「そうだね。 話は終わってない……その通り。 ただ、それをするにはちょっと人数が足りないよね」
「人数? お前なに言って、……え」
楓の振り返りを合図に建物の影から出てきたのは大人6人。 出てきた順に言うと担任・学年主任・エマ両親2人・ポール両親2人。
そう、楓は昼休みの間に担任にあの真相を告白。 証拠を見せるので自分の両親はもちろんのこと、ポールの両親にも黙ってついてきてもらうよう頼んでおいたのだ。
まぁでもこんな簡単に事が進むなんて……。
ポール両親はすでに顔が真っ青。
楓とポールの前に現れるやいなやポール母はその場で泣き崩れ、ポール父は猛烈なスピードで楓たちの方に向かって突進し、ポールを楓から引き剥がすとノーモーションでポールの顔面を殴りつける。
「パ……パパン!? グベアッ!!!!」
あの巨体のポールの体がいとも簡単に吹き飛んでそのまま柵に激突。
しかしポール父はすぐにポールのもとへと駆け寄り胸ぐらを掴みあげた。
「パパン! なんでここに!?」
「女の子が溺れた報せを聞いた時は物騒だと思っていたが……お前だったのかあああああああ!!!!!」
それからも担任・学年主任が止めに入るまでの間ポール父はポールの顔面に全力パンチ。
楓がエマ両親に視線を向けると、エマ母は涙を流しているのか両手で顔を覆っており、エマ父はそんな母の肩を抱いて慰めていた。
「まさかエマが……そんな仕打ちを受けていたなんて……!」
「とりあえず落ち着こう。 僕だって彼を許せないし、エマのSOSに気がつかなかった情けなさで今にも心が潰れそうだ。 しかし今は目の前の事にちゃんと向き合おうじゃないか」
その後野次馬が続々と集まってきたため場所を学校へと移動し、楓は以前少しだけレッスンしていた演技指導を思い出しながら楓劇場を開始。 「さっきはあんな風に挑発して言葉を誘い出してたけど、内心は手や足が震えて今にも泣き出しそうだった」とボロボロと泣く演技を見せた。
もちろんそれは効果てきめん。
ポール夫妻は息子の頭を何度も叩きながら楓やエマ夫妻に謝罪。
警察へは報告しないでほしいと言う訴えに楓は【それでもポールの仕返しがあるかもと考えるだけで怖いから遠くの地域に転校してほしい】ことを懇願。 するとポール夫妻はすぐに了承し、それだけでなく幾らかのお金をエマ夫妻に振り込むことを約束して家へと帰っていったのだった。
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