516 【エマ編】特別編・迷いと発見【挿絵有】
五百十六話 【エマ編】迷いと発見
気づけば見知らぬ異国の地、知らない少女・エマとして生活をすることになった楓。
無事病院を退院し、エマ家に連れて帰られた楓は絶対に日本に帰ってやるぞと意気込んでいたのだが……
「よくよく考えたらあれじゃん……私、お金もパスポートも何にも持ってないじゃん」
そのことに気がついたのは病院を退院して帰宅した日の夜。 自分の魂が入る前のエマが使っていたのであろう部屋のベッドで仰向けに寝そべっている時だった。
「え、え、え……こういう時ってどうすればいいの? 電話勝手に借りて家に電話する? ていうかそもそも市外局番で電話をかけてみて繋がるものなの?」
色々と分からないことばかり。 調べようにもこのエマって子はスマートフォンを持ち合わせていないらしく、もしかしたらこの時代の子供ならノートパソコンは持っているかもとベッドから起き上がり部屋の中を色々と探し回ってみたのだが、そういうものも一切置かれていない。
「ーー……え、やばい。 詰んだ?」
楓はその場でしゃがみ込むとあまり使ったことのない脳をフル回転させて別の方法を模索してみることに。
「んー。 警察署に電話して、日本語話せる人に代わってもらって事情を説明する? で、でも肝心の『日本語できる人に代わって』って伝え方が分からないし……そもそもこの国も110番で繋がるのかも謎だもんね。 だとしたら交番に直接行くのも手だけど……子供のイタズラで処理されて家に帰されるのがオチか」
それからも楓はどのように行動すれば【日本】というキーワードに辿り着けるかを必死に模索。
しかし行き着いた答えに楓は絶望することになったのであった。
「もし仮に【日本】ってキーワードにまでたどり着いて帰りたいって言ったとしても……普通に考えて帰らせてくれなくない?」
友達を救うために川に飛び込んだ挙句自分が死んで……なぜか幽霊にならずにこんな知らない異国の地に別の人間として生きていく運命を背負わされて……
あー、もうどんだけ自分の人生ハードモードなんだろう。
◆◇◆◇
しかし更なる絶望が楓を襲う。
四六時中耳に謎の言語が入ってくるだけでもイライラしていた楓だったのだが、数日が経つと学校へと登校させられるように。
もちろん学校に着いたとて自分のクラスも分からず授業内容も算数以外はまったく理解できず。
なので時たま自分に話しかけてくる子たちにも次第に苛立ちを覚えてきて……
「****!! EMMAー!!」
「EMMA、**ーー!!!」
「****!! ****ーー!!!」
「ーー……めて」
「****? ****」
「****!」
「****!? ****ーー!!!!」
「もうやめて頭が痛くなる!!!!!!」
みんなが悪くない……実は優しい子たちなのは分かってる。
あまり元気のない自分を元気付けようとしてくれているのだろう。 でも……
気づけば職員室。
教師から連絡を受けたのか自分の隣には母親の女性。 教師と2人で何やら神妙な面持ちで話をしている。
もちろん楓には2人がどんな会話をしているかなどわかるはずもない。
「****? *****」
「****。 ****、****」
ただ何となく感じるのは怒っているのではなく心配してくれているということ。
女性は自分の頭を優しく撫でながら教師と話しており、対する教師は哀れみのような視線を自分へと向けている。
なんかもう……本当に辛い。
「ごめんなさい、迷惑かけて」
楓が声を震わせながらそう口にすると、教師と母親がそんな楓の姿を見て大きく目を開かせる。
「EMMA、****?」
「分かりません。 すみません」
「*****……。 ****?」
「先生もすみません。 何言ってるのか聞き取れません」
「「ーー……」」
気づけば楓の目からは大量の涙。
その後も女性と教師の話し合いは続いたのだが、結果はしばらくの間家で様子を見ようということになったのだろう。 翌日から楓は学校に行かされることもなく家にいるように。
母親の女性も普段は働きに出ているようだがそれを休み、食事の時間等出来るだけ楓の側に寄り添ってくれていたのだった。
◆◇◆◇
「EMMA、****」
女性が買い物袋を片手に外を指差し、小さく手を振りながら外へと出て行く。
夕飯の買い出しだろうか。
楓は「いってらっしゃい」と頷きながら女性を玄関まで見送るとその後リビングへと戻り置いてあった共用のパソコンの前へと座る。
女性があらかじめパスワードを入力して、いつでも使える状態にしてくれていたので楓は早速インターネットに接続。 ここがどこなのかを調べようとしていたのだが……
「ーー……ん?」
突然視線を感じた楓は周囲を見渡してみることに。
するとリビングの入り口付近……そこに妹なのであろう幼い女の子が顔を覗かせながらこちらをジッと見つめてきていることに気づく。
確か家族からはエルシィって呼ばれていたような。
いつもなら目が合うや否やどこかへ逃げて行ってしまうのだが……
「どうしたの?」
そう声をかけるも女の子……エルシィは逃げず。
それよりも何か珍しいものを見るような目でこちらに近づいてきて目の前でピタリと立ち止まった。
「なにか用?」
「なーいかぁ、よーおー?」
エルシィがキョトンと首をかしげる。
「えっと……あー、ごめんね。 私ここの言葉が全然分からなくて」
「???」
エルシィはしばらく不思議そうに楓を見上げていると、クルリと楓に背を向けてどこかへ走って行く。
「一体何だったの?」
そう小さく呟きながらも楓は再び身体をパソコンの方へ。
しかしすぐにエルシィがこちらへと戻ってきて楓の腕を軽く引っ張ってきた。
「だから何って……え」
視線をエルシィの方へと向けると、エルシィが何やら本を持っている。
その本は幼児向けのようで、その表紙は楓も見たことのある……
「それ、シンデレラ?」
「ーー……Cendrillon」
「サンド……リーオン?」
ーー……!!!
ここで楓はエルシィの持っている本のタイトルを見せてもらいながら検索をかけてみることに。
【Yafoo Japan】
まずはそう検索をかけて画面を日本でよく使われている検索画面に。
その後【Cendrillon】と打ち込んでみると……
「サンドリヨン……フランス語でシンデレラ……」
なるほど。 ということはここはフランスなのか……って、
「ええええええええええええええええ!?!?!?!?」
楓は聞いたことしかないものの、まさかの国の名前にかなり驚愕。
ただかなり日本からは遠いところのあるということだけは知っていたのでそのショックとリアクションでパソコン前の椅子から転倒。 転げ落ちた楓はその場でショックで動けずにいたのだが……どうしたのだろう。 エルシィは楓の隣にくっつくように座ってくる。
「な、なに?」
「Cendrillon」
一体何がどうなっているのだろう。
しばらくの間楓がエルシィをじっと見つめていると、エルシィは床にフランス語版シンデレラの本を広げ、書かれている文章を指でなぞりながらゆっくりと音読し始める。
「え、なんで……」
はじめこそ、この行動の意味が分からなかった楓だったのだが、気づけばエルシィの声と指している文字に集中。
知っていた話だということもあり、この単語はこういう意味なのかな……などといった発見をしていったのだった。
お読みいただきましてありがとうございます!!
下の方に星マークがありますので評価していってもらえると励みになります嬉しいです!
感想やブクマ・レビュー等、お待ちしております!!!




