515 【エマ編】特別編・知らない世界
五百十五話 【エマ編】特別編・知らない世界
濁流に飲み込まれた友人を助けるべく自らも危険に飛び込んだ当時高校2年生の『小山楓』という名だった少女は気がつくとベッドの上。 知らない言語が飛び交う空間の中で目を覚ました。
んん、私……助かったの?
溺れてしまっていた影響なのか身体の節々が痛い。
それになんというのだろう……手や足を少し動かしてみるも、まるで自分の身体ではないような感覚だ。
「*******!!!」
「******ーー!!」
楓が目を覚ましたことに気がついたのか、ベッドの周囲から前のめりで顔を覗かせている金髪の夫婦らしき男女が英語ではないイントネーションと単語でこちらに話しかけてくる。
「えっと……だれ……ですか?」
「******!!!!」
「***ー!! *****ー!!!」
一体何を言っているのだろう。
まだ頭がうまく働いていない楓はボーッとその光景を枕元から見上げていたのだが、男性は涙を流して喜びながらどこかへと駆けていく。
そして女性の方は、再び聞いたことのない言語を叫びながら「EMMAーー!!!」と楓を強く抱きしめてきた。
「え、えええ……?」
「*****ーー!! EMMAーー!!!」
EMMA……エマ? 名前?
誰のことを言ってるんだろう。
楓はそんなことを考えながらも別のことを考え出す。
あれ……? ていうか私……どうして病院のベッドで横になって……。
「ーー……!!!!!!!!」
思い出そうとしているとそれにはさほど時間はかからず。
楓の脳裏に浮かんだのは川に流されていく親友・松井ユリの姿。
そうだ……私はユリを助けようとしてあの川に。
それでユリはなんとか途中で草か何かにしがみつけて、私はそれに失敗して流されて……。
当時の状況が楓の脳内で少しずつ鮮明に思い出されていく。
私はここにいるということはおそらく助かったということ。
となればユリは……?
「ユリ!!!!」
楓は松井ユリの名を叫びながら勢いよく体を起こす。
その際全身に激しい痛みが走ったのだが、そんなことよりも親友の安否の方が気になっていた楓はそのままベッドから降りようと脚をベッドの下へ。
その時ちょうど窓の方に体を向けていたのだが、偶然にも窓に反射していた室内の風景が視界に入った。
「え」
思わず声が漏れる。
これは……私はまだ夢でも見ているのだろうか。
本来自分が映ってるはずの場所……ベッドに座っているのは何故か自分ではなく金髪の幼い少女の姿。
「ーー……ん?」
楓は一旦周囲を見渡し、窓に映る室内が一緒だということを確認。 その後目を強く擦ってから再び窓へ。
しかしやはりそこには自分ではなく金髪の女の子。 向こう側には建物が建っているため隣の部屋と繋がっているとかそういうものではなさそうだ。
「うそ……でしょ」
小さく右手をあげてみると、窓に映る女の子も同じタイミングであげる。
まさか……こんなことって現実でも起こり得るのだろうか。
そう、生まれ変わり。
楓は手を震わせながらも自身の肩の長さくらいまである髪の毛を摘んで見てみることに。
しかしその行動によって楓の予想は確信に変わったのだった。
「あっ……金髪」
◆◇◆◇
あれから数日。
身体を不自由なく動かせるようになった楓は必死に自分は日本人だということを伝えてみたのだが、家族らしき夫婦にはもちろんのこと医師たちにもその言葉は通じず。
なのでまずはここがどこなのか……などを自分で調べることにしたのだが、分かったことが2つほどある。
1つはここが自分の知っている国・日本ではなく別の国だということ。 おそらくが自分の知っている英単語が出てこないことから英語圏ではないのだろう。
それともう1つは自分の名前……この金髪少女の名前がやはりEMMAだということ。
夫婦っぽい人たちが自分のことをそう呼んでいたことや、医師の問診票にもそう書かれていたことが決め手となったのだ。
「****、EMMAー!」
「ん?」
他に何か情報はないものかとベッドの上で考えていると、母親らしき女性がEMMA……自分の名前を呼びながら満面の笑みで部屋に入ってくる。
そしてそのまま自分の方へ歩み寄り力強く抱きしめてきて……
「***!! ****ー!!」
もちろん何を言っているのかは楓には理解できず。
しかし女性に私服を渡され、着替え終わると手を引かれて病院の外へと出ていることから楓はここを退院するのだということを悟ったのだった。
連れてこられた場所は大きな2階建てのいかにも海外ですって感じの真っ白なお家。
「EMMA、****」
女性が優しく微笑みながら玄関の扉を開けて楓を中に招き入れる。
この女性のここ数日の行動や口調からして、このエマって子はかなり溺愛されて育てられてきたのだろう。
楓はとりあえずは住む場所があってよかったなどと思いながら中に入り、靴を脱ごうとしたのだが……
「ーー……えっ?」
女性は土足のまま何の躊躇もなく中へと入っていき、不思議そうにこちらの足下へと視線を向けてくる。
「EMMA? ****?」
あ、そっか。 ここは靴を脱がないで入る国なんだ。
確かに近くを見渡してみるも、日本のように脱いだ靴を置いておくスペースみたいなものは見当たらない。
それに家に上がる際にある段差もないし……ほんとに海外なんだ。
楓はそんなカルチャーギャップに驚きながらも、それと同時に日本に早く帰りたいという気持ちも。
「****、EMMA」
この女性……エマって子の母親には悪いけど、絶対に日本に帰ってやる。
そう心に決めながら楓は女性に連れられリビングへ。
するとどうだろう、リビングに入るとテーブルに隠れながらこちらを覗いている女の子が1人……このエマって子よりもかなり幼い印象だ。
「えっと……ハ、ハロー?」
「!!!」
やっぱり英語を主として話すところじゃないから驚かせちゃったのかな。
その子は楓と目が合うや否や、すぐに視線をそらして2階へと駆け上がって行ってしまったのだった。
「ーー……まぁ別に仲良くならなくてもいいか。 すぐに日本に帰るし」
そんな感じで楽観的に考えていた楓だったのだが、その数時間後、現実はそう簡単ではないことをすぐに知ることになる。
(『あれ、エマの過去ってどうだったかな』となった方は是非とも188話ー193話をご覧ください!)
お読みいただきましてありがとうございます!!
感想やブクマ・評価・レビュー等、お待ちしております!!!




