512 【エマ編】天使のゆりかご【挿絵有】
五百十二話 【エマ編】天使のゆりかご
突如起こった姉妹の行き違いによりオレはしばらくの間エマ宅に住むことに。
まぁぶっちゃけエルシィちゃんも小学2年生だし、怒りの感情がなくなっていくのも時間の問題だろう……と解決案を考えつつも楽観視していた部分もあったのだが。
【受信・お姉ちゃん】エルシィちゃんの登校は途中まではお姉ちゃんが。 それで途中から高槻先生が引き継いでくれるから問題ないってエマちゃんに伝えておいてほしいな。 ダイキ、エマちゃんをよろしくね。
朝。 目が覚めたオレがスマートフォンの電源をつけると昨日の夜に優香からメールが届いている。
オレはそれに一通り目を通すと再び薄い掛け布団を被り、中で小さく丸くなる。
だって仕方ないだろう。
ここはエマの部屋でオレが眠っているのはエマのベッド。 オレはリビングで雑魚寝で良いと言ったのだが、流石にそれはエマも気がひけるということでエマがエルシィちゃんのベッドで……そしてオレはここエマの部屋で寝るということになったのだ。
だからオレは一晩中エマの香りに包まれながら眠ったということになるわけで、それは布団の中で息を吸えばその効果はまさに倍増……
「うおおおおおお!!!! 香りが甘いんじゃあああああああ!!! それに自分の腕の匂いを嗅いでみても……若干だけどエマの香りがするんじゃあああああああ!!!!」
オレは朝からこんな素晴らしい環境に身を置けているということで大興奮。
しかしどうしてこんなに女の子って甘い香りがするんだろうな。 オレの興奮していた感情はいつしか変化し安心感に。 オレは再びエマの香りという極上のゆりかごの中で眠りに落ちてしまったのだった。
◆◇◆◇
「ほーら、ダイキ、起きなさい」
「んん……」
「もう朝ごはん出来てるし……目覚まし鳴ってたのになんで起きてこないのよ。 学校遅刻するわよ」
「うわああああ!!!! そうだった!!! あまりの寝心地の良さで学校のこと忘れてたあああああ!!!!」
まったく……オレとしたことが。
どうしてオレは少し前に目が覚めたとき、学校のことを忘れてしまっていたのだろうか。
オレが慌てて飛び起きると、既に制服に着替え終えたエマが「ふふ、その様子だとちゃんと眠れたようね」と寝癖祭りのオレの髪を軽く手櫛で整えてくる。
「え、あ……すまん。 ありがと」
「早く顔洗ってリビング来なさいよ。 せっかくの朝ごはん冷めちゃうわ」
エマはそう言い残した後にクルリとオレに背を向けて「じゃあ待ってるわね」と部屋から立ち去ろうとしたのだが……
「お、おい待てエマ」
「うん?」
オレの問いかけにエマはその場で立ち上がりこちらを振り返ってくる。
「なに? どうしたのよ」
「いや……なんというかその、髪結んでないエマを見るの……新鮮だな」
そう、今オレの視界に映るエマはいつもの二つ結びにあらず。 髪ゴムでまだ縛っていない状態のサラサラヘアーの天使がそこに立っていたのだ。
オレがしばらく見つめているとエマが「なーに? そんなに違和感ある?」と髪ゴムを取り出し髪を縛り出す。
「いや!! ちょっと待て!!!」
「え?」
「頼む。 学校に行くまでで良いからそのままの髪型でいてくれ」
「なんでよ」
「まぁなんというか、朝だから脳があんま動いてないから率直に言うとだな、可愛すぎる」
「なにそれ。 でも……そうね。 ふふ、じゃあ3分以内に顔洗ってリビング来られたら学校行くギリギリまでこのままでいてあげるわ」
エマはニコリと微笑むと髪ゴムをポケットに戻して「今何分かなー」と壁にかけてあった時計に視線を向ける。
「っしゃああああああああああ!!!!!! やってやるぜえええええ!!!!!!」
オレはすぐにローリングを決めながらベッドから下りるとすぐに洗面所へと直行。 顔を数秒でバッシャーと洗い目を完全に覚ましてリビングへと猛ダッシュで向かい、対面に座る天使の姿に心の中で手を合わせながらJSお手製朝食をいただいたのであった。
それからはエマに食器等を洗ってもらっている間にオレは着替えやら歯磨き等を済ませることに。
そしてとうとう登校する時間帯。
「ダイキ、忘れ物ない?」
「あぁない」
「あーほら、靴下片方下がってるわよ」
「え、あぁすまん」
「ていうかダイキ、ちょっと頭前に出して」
エマがオレの肩を掴んで軽く前のめりにさせてくる。
この時オレはまさか行ってきますのチューでもするものかと期待していたのだが……
「ほらここ……まだ寝癖ついてるわよ。 あ、こっちも。 ドライヤーちゃんと当てなかったの?」
「うわああああああ!!!!! オレはそこまでガキじゃねえぞおおおおおおお!!!!!!」
なんだこの清々しいまでの子供扱いは。
しかしここまで甘やかされると……近いうちに癖になりそうだな。
エマはそれから寝癖スプレーを取りに戻りオレの頭に噴きかけ手櫛で「まったくもー」と言いながら直してくれていたのだが、オレはニヤニヤが表情に出ないよう必死にポーカーフェイスを保っていたのだった。
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