511 【エマ編】運命
五百十一話 【エマ編】運命
「エマ……もう疲れちゃったかも」
そんなエマの言葉を聞いたオレはこれはただ事ではないとすぐに察知。
「おいエマ、ちょっと待ってろ。 一瞬ここ離れるけどすぐに戻ってくるから鍵開けとけよ」と念押しすると、オレは猛ダッシュで自分の家へ。
すぐさま自室に直行し必要最低限のものをまとめると優香に「詳しくはあとでメールで送るから」と言い残して再びエマ宅へと戻った。
「ーー……お、お待たせ」
全身汗だく&多くの荷物を背負ったオレを見てエマが「えっ……?」と目を大きく見開く。
「ちょ、ちょっとどうしたのよダイキ。 その格好」
「泊まる」
「え?」
「エルシィちゃんは落ち着くまでウチで預かるからその代わりにオレがエマの家に泊まる」
このオレの発言をエマは一瞬理解できなかったのかしばらくの間無言に。
しかし少しずつ状況を飲み込め始めたようで……
「ええええええええ!?!?? 前者はありがたいけど……なんでそうなるのよーーーー!!!!」
◆◇◆◇
オレはそれから理由を説明。
「じゃないとお前、すぐにでも自分で命を絶つ……それか1人で失踪しそうに見えた」と話すとエマはすかさず「そんなことするわけないでしょ!」と反論。 早く帰るようオレの背中を玄関の方向へと向かってグイッと押してくる。
「お、おいおいやめろエマ! リュックに入ってるオレの大切な夜のお供が潰れるだろ!」
「知らないわよ! じゃあさっさと帰りなさいよ!!」
「無茶言うな! もうお姉ちゃんには『このままじゃエマが1人になるからエルシィちゃんの機嫌が直るまでオレが代わりに一緒に住んでくる!』って啖呵切ってんだ! ノコノコ帰ったら恥ずかしいだろうが!!!!」
ーー……まぁまだ連絡なんてしてないんですけど。
「1人でも平気よ! そんなことで寂しくなるわけないでしょ!!」
ふむ。 さすがは中身が元JKなだけあって頑固さも天下一品だぜ。
そこまで言われては普通の人なら仕方なく帰るのであろう。 しかしオレはそれ以上に先ほどのエマの言葉が気になってるからな……そう簡単に引き下がるわけにはいかんのだ。
ぶっちゃけこういう展開は容易に予想できていたため、オレは予め考えていた最終奥義を披露することに。
「いいのか? そんなことしたらエルシィちゃんのパンツが1日1枚消えることになるぞ」
「!!!!」
それは効果てきめんで、エマは本当にオレがそうすると感じ取ったのだろうな。
深くため息をつきながら「わかったわよ、仕方ないわね……」と渋々承諾したのであった。
◆◇◆◇
「あ、そうだダイキ、ご飯もう食べた?」
オレが少しの間泊まることを受け入れたエマが鍋を乗せているガスコンロの火を点火させながらオレに尋ねてくる。
「いーや、食べ始めてすぐエルシィちゃんが来たからな。 あれは食べたうちには入らん」
「じゃあ……ちょっと減ってるけどもう一回温め直すから一緒に食べる?」
「おおおおおお!!! ありがたい!! いただくぜ!!!」
こうしてオレはエマとともにちゃんとした晩御飯を食べることに。
その際エマからどうしてこんなことになったのか簡単に説明を受けたのだが、確かにそれはエマにも同情してしまうような内容なのであった。
「エルシィがね、週末のお昼にお出かけしたいって言ってきたのよ」
「おー、いいじゃないか」
「でもエマ、昼間はモデルのレッスンがちょっとだけあるからその後からならいいよって答えたの。 そしたら急に喚きだしちゃって……」
「えええ」
「ちなみに少し前にも似たようなお願いをされたことがあったんだけどね。 でもその時も他に予定が入ってて後回しにしちゃってたからエルシィも我慢できなかったのね。 『こんなのエマおねーたんじゃない!』って怒って出て行っちゃったのよ」
あー、なるほどな。
今までエマはエルシィちゃん優先。 エルシィちゃんの言うこと・お願いをほぼ100パーセント聞いてきてあげていた。
そしてそれがエルシィちゃんにとって当たり前になってしまっていたのだが、まさかの連続で叶えてもらえなかったという現実に我慢ならなくなった……と。
「でもエマ、今回の予定は外せない……エルシィも大事だけど鬼マネも同じくらい大事だし感謝してるの。 だから基本寝る時間まではエルシィと遊んで、エルシィが寝静まってからモデルの最新知識とか増やすために勉強をして……その2つともを守るために頑張ってたのに」
エマが力なくガクリと項垂れる。
「ちなみに再来週に3連休があるでしょ? 実はそこを利用して東北で撮影するって予定があるのよ」
「えええ、そうなのか!! じゃあその時エルシィちゃんはどうするつもりだったんだ!?」
「そこは大丈夫、エルシィ同伴の許可は貰ってたから」
エマはその後「はぁ……エマのレッスン以外での撮影風景、エルシィに見て欲しかったんだけどなぁ」と小さく呟く。
ーー……ん? レッスン以外?
「ちょ、ちょっと待てエマ。 レッスン以外って……合宿とかじゃないのか?」
「当たり前じゃない。 合宿なんて……そんなアイドルでもないんだから」
「ちなみにそれは東北のどこ……」
そう尋ねるとエマは少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべながらスマートフォンで画像を検索。
表示された画像を「ここよ」オレに見せてきた。
「!!!!」
画面を見たオレの目が大きく開かれる。
だって……仕方ないだろう。
「お、おいエマ……この場所って……!」
「えぇ。 なんの因果なのかしらね。 私……小山楓が初めて採用されたあの場所よ」
「おお……おおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
なんとも熱い展開!!!
これはなんとしてでもエルシィちゃんには見て欲しいものだ。
オレはエマの隣に回り込むとガシッとその手を握りしめる。
「だ、ダイキ? 何よ」
「エマ、約束しよう。 オレがなんとしてでもその日までにエマとエルシィちゃんを仲直りさせて……あの場所へもう1度一緒に行かせてやる!!!」
「ダイキ……ほんと?」
「当たり前だ。 オレはそういう運命的なもの大好きなんだよ。 運命的な出会いをした妹に見守られながら、運命の場所で運命的な撮影をする……最高じゃねぇか」
「最高……うん、そうね、ありがと。 期待してるわ」
エマがオレの手を強く握り返してくる。
となれば……リミットは約2週間か。
オレはその瞬間からいかにして2人を仲直りさせるのかを考え始めたのだった。
「あー、とりあえずエマ、いいか?」
「うん? なに?」
「数日とはいえ生活を共にするわけだし……お互いのことをよく知るためにまずは一緒にお風呂に入ろう」
「調子に乗らない」
エマは呆れたように微笑むと、握り返していたオレの手の甲を指で軽く弾く。
「え、だめ?」
「だーめ。 エッチな展開が目的なんだったら帰ってもらうけど?」
「いえ。 冗談ですすみません」
「ふふ、でしょうね。 エマを元気付けようとしてくれたんでしょ? 知ってるわよありがとう」
それからエマはゆっくりと立ち上がってオレを浴室へと連行。
どれがシャンプー・リンスでどれがボディーソープなのかを教えてくれたのだった。
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