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506 【陽奈編】愛が花咲く場所【挿絵有】


 五百六話  【陽奈編】愛が花咲く場所



 どうやら少し前に陽奈は誕生日プレゼントとして母親にスマートフォンを買ってもらっていたらしいのだが、その際陽奈母がオレの連絡先を渡そうとしたところどこに保管していたのか忘れてしまっていたとのこと。

 なのでオレがこうして呼ばれ、無事陽奈のスマートフォンにオレの連絡先を登録し終えたのだが……



「やったあああ!!! ダイきちとこれでいつでも電話できるーー!!!」



 陽奈はピョンピョン跳ねながらその嬉しさを表現すると、早速オレの連絡先をタップして電話をかけてくる。



「いやいや陽奈、流石に目の前にいるのに電話って……」


「いいやん!! ほら、ダイきち!! 出て!!」



 陽奈はすでにスマートフォンを耳にくっつけながらオレに電話に出るよう視線をオレのスマートフォンへと向ける。


 ーー……ったく、仕方ねぇなぁ。


 まぁこれはスマートフォンを初めて手にした子供あるあるなのだろう。

 オレは小さくため息をつきながらも通話ボタンをタップして「はいもしもしー?」と返答。 するとそれを見た陽奈は「えへへへーー!! ダイきちの声が近くで聞こえるー!」とこれまた本当に嬉しそうな眩しい笑顔でニコニコと微笑んだ。



 くっそ。 これを純粋にやってのけてるんだから可愛いんだよなぁ。



 オレはほんのり顔が熱くなったことを感じるもすぐに我に返り周囲を見渡し始める。


 ーー……今の心の声を愛莉に聞かれたら厄介だからな。 突っ込まれる前に言い訳しないと。


 そう思い愛莉を探したのだが愛莉の姿はどこにも見えず。

 オレが頭上にはてなマークを浮かばせていると、陽奈が「ダイきち?」と不思議そうにおれを見ていることに気づいた。



「ん? あ、どうした陽奈」


「それは陽奈の台詞だよー? ダイきちが急にキョロキョロし始めるけん、また幽霊出たのかって思ったやんかー」


「あー、なるほどな。 ううん、そういうのじゃないから安心してくれ。 すまんすまん」



 オレが陽奈に謝っていると、少し離れたところで話を聞いていたらしい陽奈母が「幽霊? 何かあったの?」と心配そうな顔をして近づいてくる。

 それに対し陽奈は正直に今日の昼学校で起こったことをバカ正直に話しだしたのだが……



「えええ、陽奈ちゃん、学校でオバケ見たの!?」



 なるほど、陽奈の話をこうも真面目に受け取るとはな。

 陽奈の純粋な心はこの母親の影響……『この母親にしてこの子あり』とはよく言ったものだ。

 オレがそんな陽奈の心の綺麗さに納得している間にも親子の話は続く。



「そうだよ、陽奈オバケ見たの! それでね、陽奈、実はその男の子のオバケにラブレター貰ってたんやけど、その返事しようとしたらオバケが『それは君のお姉ちゃんに書いた』って言ってたんだ!」


「お姉ちゃん? ……って愛莉ちゃんのこと?」


「うん! ダイきちには聞こえてなかったみたいやけん、陽奈の聞き間違いかもしれないんやけど!」



 すると陽奈は「ちょっと待ってて、貰ったラブレター見せてあげる!」と言い自分の部屋へ。

 しかしいくら待っても戻ってこないので母親と一緒に様子を見に行くと、陽奈はランドセルの中を覗き込みながら「あれれ? どこ置いたんだっけ」と首を傾げていた。


 そして何故かそこには愛莉の姿も。 いないと思ってたらここにいたのか。



「ママー、ラブレターどこかいったー」

「えええ、そうなの? 他のところ……引き出しとかに入れてるんじゃないの? ママも探してあげる」

「うんー」



 愛莉が仲良く探し始める2人をニコニコと観察しながらオレのもとへとやってくる。

 そこで「なんかしてたのか?」と小声で尋ねると、愛莉は満面の笑みでオレにピースサインを向けてきたのだった。



『もちろんっ!』


「何してたんだ?」


『あのソウタってやつから貰ったラブレターを外に捨ててきた!』


「ええ、まじか」


『うん! だってあの文字はアイツが書いたやつなんだもん。 念が込められてるわけだし、変に保管しててもいいことないもん』


「な、なるほど。 じゃああの2人は目的のラブレターを見つけられることはないと」


『そういうこと! だってあれはもう田んぼの水に沈めてきたからね!』



 疲れてたっぽいのに家に帰るなり妹のためにそこまで行動してくれていたとは……やはり姉は凄いな。



 それからオレは愛莉と心の中で雑談しながら見つかりもしないラブレターを探している2人の姿を見守ることに。

 いつになったら諦めるのだろう……オレは大体の時間を愛莉と予想し合っていると、突然陽奈が「もしかしてここに挟んだのかなー」と1冊のノートを本棚から取り出した。


 それは見覚えのあるあのノート……愛莉が生前書き記した【病気が治ったらやりたいことノート】。


 愛莉もそれにはすぐに気付き、『いやいや陽奈ちゃん、それ最近読んでなかったでしょ』とツッコミを入れている。

 しかし陽奈母はそんなことなど知る由もなく……



「え、陽奈ちゃん。 それってお姉ちゃんのノートだよね? なんでそこにあると思うの?」


「うーん、なんでか分からないけど、大切なものだったら無くさないように宝物の中に挟んでたのかなーって」


「陽奈ちゃん、そのラブレターは大切なものだったの?」


「ううん、全然」


「じゃあ入れてるわけないじゃない。 でもまぁ……せっかくだし見るだけ見てみよっか」


「うん」



 こうして母と娘は……オレの存在なんて忘れているのだろうなぁ。

 もはやラブレターのことすらも頭から消えてしまっているのか、愛莉が1つ1つ丁寧に書いていた病気が治ったらやりたいことリストを懐かしそうに声に出して読んでいる。



「あ、陽奈ちゃん、このケーキバイキングに行くってやつ、陽奈ちゃんがあっちで……福田さん家にお泊まりに行った時にお姉ちゃんの代わりに叶えたんだよね」


「うん!」


「どうだった? 美味しかった?」


「うん! 美味しかった!! お姉ちゃんが書いてなかったら陽奈、あんな美味しいもの食べることなんてなかったかも!」



 なんとも声をかけづらい雰囲気。

 愛莉に相談しようにも、何故か愛莉も『うんうん、ケーキもだけど、水族館とか叶えてくれて本当にありがとう』と滝のような涙を流しながら2人の後ろから覗き込むようにそのノートを眺めているではないか。


 これはもう……静かに帰ってあとで陽奈にメール送れば問題ないよな。

 オレはゆっくりと3人に背を向けると、家族愛に水を差さないよう慎重にその場から離れようと足を一歩踏み出す。

 しかし……そんな時だった。



「あれ? これ……もしかして」



 陽奈母がそう口にしておもむろに立ち上がると、愛莉ノートを抱きかかえながら小走りで部屋を出て行く。



「ん……んん?」



 これにはオレはもちろん陽奈や愛莉も頭上にはてなマーク状態。

 とりあえず陽奈母の後をついて行くと、陽奈母は愛莉に仏壇の前で何かを漁り始めていた。



「愛莉さん、なんかノートに書いてたのか?」



 そう尋ねると愛莉は『ううん、別に私、遺言とかそういうのは残した記憶ないんだけど……どうしたんだろ』と不思議そうに陽奈母の必死に何かを探している姿を見つめている。

 そして陽奈は「ママー、何か探してるんー?」と陽奈母の背中に体重を乗せながら漁っているものを覗き込んでいたのだが……



「あ、あった……」



 陽奈母が取り出したのは1枚の真っ白な封筒。

 おもて面には可愛らしい丸文字で、【陽奈ちゃん、おめでとう】と書かれている。



「ママ、それなにー? あ、陽奈の名前書いてる!」


「そうだね。 ママ、てっきり陽奈ちゃんが成人した時だと思ってたんだけど、もしかしてこのタイミングだったのかなって……」



「『「??」』」



 この陽奈母の言葉をオレたちは誰も理解出来ず。

 すると陽奈母は少し涙ぐみながらも、オレたちとともに再び居間へと移動。 テーブルの上に愛莉ノートを広げて置くと、「ここを見て」と【病気が治ったらやりたいことリスト】のとある1行を指差した。



・陽奈ちゃんが今これを書いてる私よりも年上になった6年生の誕生日に「実は病気で弱っている時に、こんなの書いてたんだよ」って笑い話にしたい。




『あああああああ!!!! 思い出したあああああ!!! ダメ、恥ずかしい!! 読まないでええええええ!!!!!』



 何かを思い出したのか愛莉が顔を真っ赤にさせながら陽奈母の前で全力で首を左右に振る。

 しかしそんな愛莉の様子など視えていない陽奈母は、目の前で動揺MAXの愛莉とは対照的で極めて落ち着きながら陽奈に封筒を渡した。



「え、ママ……もしかして」


「うん、ちょっと遅れちゃったんだけど、多分このタイミングなんだと思う。 間違ってたらごめんね」


「ううん! お姉ちゃんからの手紙やけん! 別にいつのこと書かれてても陽奈、嬉しい!!」



『やーーーーめーーーーてーーーー!!!!』



 陽奈は興奮し震える手で封を剥がすと、中に入っていた可愛い便箋を取り出す。

 そしてこのまま持っていてもシワをつけてしまうと思ったのだろう……陽奈は便箋をそっと机の上に置くと、ゆっくりと声に出して読み始めた。



「陽奈ちゃんへ。 陽奈ちゃん、12才のお誕生日おめでとう。 今この……」



 ========



 陽奈ちゃんへ



 陽奈ちゃん、12才のお誕生日おめでとう!

 今この手紙を読んでる陽奈ちゃんは、今この手紙を書いているお姉ちゃんよりも年上なんだね。 お姉ちゃん、なんか不思議な気持ちだよ。

 

 これを読んでるとき、目の前のお姉ちゃんはどんな顔をして陽奈ちゃんを見ているのかな?


 ズバリ当てると……お姉ちゃんは病気が治って学校にも楽しく通い、もう中学3年生なので……彼氏も出来て幸せいっぱいな笑顔で陽奈ちゃんを見ていることでしょう!笑


 なので陽奈ちゃんももし気になる男の子がいたらお姉ちゃんに相談してね!

 恋の先輩が陽奈ちゃんの力になってあげるから!



 陽奈ちゃん、大好きだよ。

 これからもよろしくね。



 愛莉より



 最後に。

 この手紙は誰にも言わずに内緒で書いています。 なのでもしお姉ちゃんが病気に負けて死んじゃってた場合は、誰にも見つからず読まれないままになっているはずです。

 でもこれを陽奈ちゃんが読んでるってことは、お姉ちゃん、大丈夫だったってことだよね。 

 よかったぁ……笑


 はい、これでお姉ちゃんの『病気が治ったらやりたいことリスト』の1つが叶いましたぁー♪

 ありがとう!



 ========



 おいおい、なんて胸にくる手紙書いてやがるんだよ愛莉。

 オレは半泣きになりながらも愛莉に視線を向ける。



『あはーーん!! 結局大丈夫じゃなかったのに読まれちゃってる……恥ずかしいよおおおおおおおお!!!』



 愛莉は余程この手紙を読んで欲しくなかったのか、頭を押さえながら大悶絶。

 読み終え涙している陽奈と陽奈母に『お願い!! これ忘れてえええええ!!!』と交互に顔を向けながらお願いしはじめる。



 これまた完全にオレだけこの場に相応しくないやつやん。



 オレは今度こそ……と静かにこの場から退散。 陽奈の家を抜け出してから邪魔にならないよう帰った旨をメールで送ったのだった。



 しかしその日の夜。

 


 もう寝ようとしていたところで陽奈からの着信。

 オレは「おいおいタイミングわりーぞ」と呟きながら通話ボタンを押して耳に当てた。



『ダイきちー! 今メール見たよ! ママがゴメンねーって! 陽奈もあれから何回もお姉ちゃんからのお手紙見てたけん、メールに気付かなかった!!』


「いやいや構わん。 オレこそゴメンな、邪魔しちゃって」


『全然やよー!! これもオバケの話題を出してくれたダイきちのおかげ……ていうかダイきち、明日も遊べる!?』


「うん、いいぞ」


『その時に陽奈、ダイきちに大好きって告白するけん、絶対に遊ぼうね!!』



 ーー……。



 今なんて言った?



「え、告白?」


『ええええええ!!?!? なんでダイきち、陽奈が告白しようとしてること知ってるのおーー!?!?!』


「えええええ!!?? いやいやお前が言ったんだろうが!!」


『うわああああああ!!! お姉ちゃんの手紙のおかげで陽奈、やっと自分の気持ちに気づいて勇気出してたのに……やっちゃったよどうしよおおおお!!!』



 その後『と、とりあえず電話切るねおやすみダイきち!』と陽奈の方から通話は終了。

 オレは初めこそいきなりすぎてボーッとしてたのだが徐々に先ほどの陽奈の言葉を思い出してきて……



「うおおおおおお!!! マジかああああ!!! オレもどうしよおおおおおお!!!!」



 ◆◇◆◇



 翌日オレは本当に陽奈の告白を受けることに。


 もちろん答えは「イェス」。 断る理由なんてどこにもないし、ここまでオレのことを表立ってスキスキ言ってくれるんだ。 悪い気なんかしないんだろ?

 ただなんというか……愛莉が割り込んでこなかったのは意外だったな。



 晴れて陽奈と両思いになったオレは帰省している期間中はほぼ毎日陽奈と遊び、その後都会に帰ってからもメールや電話を頻繁に交わし、お互いの寂しさを紛らわせながらまたあの季節が来るのを待ち望んだのであった。



 元気一杯の向日葵が無数に咲き乱れるあの季節を。



 ◆◇◆◇



「ダイきちー!! 久しぶりーー!! 元気してたああ!?!?」



 中学生になって初めての夏。

 陽奈にメールで呼び出され家を出ると、部活帰りなのだろうか……セーラー服を着て少し大人びた陽奈が自転車に跨りながらオレに手を振っている。



挿絵(By みてみん)



「おう、久しぶりだな。 元気だぞ」


「浮気とかしてないよねー!?」


「するわけ……てか出来るわけねーだろ。 最強の探偵が近くにいるんだから」


 

 そう……陽奈と付き合ってからというもの度々背後に視線を感じたり、クラスメイトとメールをしている際にもオレの隣には高確率で姉・愛莉の姿があったのだ。

 しかもどういう経緯かクヒヒさんとも仲良くなったらしく、クヒヒさんからも『もし弟くんが最低なことをしたら、私が弟くんのソレを使い物にならなくさせるからね』と脅されていたという事実。



「探偵? なんのこと?」


「いーや、なんでもねーわ。 とりあえずまずは愛莉さんの仏壇に挨拶行っていいか?」

 

「なんで?」


「なんかこのお菓子好きかなーって思ってさ。 ……まぁ気になってるらしいから無理やり買って来させられたんだけど」


「んん?」


「あーいや、なんでもない。 ほら、いこーぜ陽奈!」


「うんっ!!!!」



 陽奈曰く、中学を卒業したら田舎を出て都会の……オレの通う予定の高校に進学するとのこと。

 なのでそれまでは1年に数日という短い期間だけど、愛が花咲くこの場所で一気に気持ちをチャージして3年間耐え忍ぶとしよう。 


 なーに、織姫と彦星は1年に1回しか逢えないんだ。

 それと比べれば遥かにマシなもんさ!



 (陽奈編・完)


お読みいただきましてありがとうございます!!


陽奈編終了!!! 次も共通編を数話挟みまして、次のルートの世界へ出かけましょう!!

数日後、エマの世界へ!!

(エマ編はもしかしたらちょっと長くなる可能性がありますが、お付き合いいただけたら嬉しいです!)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 愛莉ちゃんの黒歴史(涙)ノートがご開帳……。 まさかのダイレクト告白。 中学生の陽菜ちゃんも元気そうだなぁ。 うむ。陽菜編、最高だったぜ!
[一言] 陽菜ちゃん告白がすごい雑!? これでいいのか? 次のルートは誰が残ってたっけ?元中学生現地妻?
[良い点] 面白かった。陽奈は正直好きというほどのキャラではなかったけど、好きになる話だった。面白かったです。
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