504 【陽奈編】まさかの対象!!
五百四話 【陽奈編】まさかの対象!!
「ーー……ちくしょう、やっぱりすぐに隠れやがったか」
オレが先ほどこちらを覗き込んでいたソウタくんのいた場所へと到着するも、そこにはすでに誰もおらず。
相手は霊体だからな……どこかに隠れてしまったのだろう。
「これはもう警戒されてるだろうから、今日は諦めてまた後日か?」
オレがそう舌打ちをしながら呟くと、憑依しているクヒヒさんが脳の中に直接『いや、大丈夫だよー』と声をかけてきた。
「え、なんでです? 見失ったらもうどうしようもないでしょう」
『ううん、それなんだけど、こういう時には裏技があってね……』
「?」
クヒヒさんは改めて『くひひ』と微笑むとオレの背中から上半身だけ姿を現せて周囲を見渡し始める。
するとあろうことか、目の前の掃除用入れに向かって『ちょっとすみませんいいですかー?』と声をかけるではないか。
「え、クヒヒさん……何を? 誰もいないけど」
『くひひ。 こういう時は人海作戦……数を増やせばいいんだよ。 弟くんには視えてないだろうけどね』
「ーー……てことは誰かいるんですか」
『うん、小太りのおじいさんがね。 今軽く念話で聞いてみたんだけど、ここの創設者みたい。 病に侵されながらも夢だった学校を設立して、その完成と同時に亡くなったんだって。 たまにこの周辺で子供に危険がないかを見回ってるって言ってるよ』
「いや……じゃあなんで掃除用具入れに?」
『さぁ。 たまたまじゃないかな。 そういうことってあるじゃない?』
「ないっすよ!!!!」
ともあれクヒヒさんはオレには視えていない創設者のおじいさんに先ほどのソウタくんがどこにいるのかを聞いてみることに。 そしてその回答は『あー、あの子なら基本あっちにいるよ』と裏庭の方を指差したらしいのだが……
「あーー!! ここにいたダイきちーー!!!!」
え。
振り返ってみると先ほどの憑依の影響でフワフワしていた姿は何処へやら。 元気ハツラツ・活発少女に戻った陽奈が大きくて手を振りながらこちらに駆け寄ってきているではないか。
そしてそんな彼女の後ろには、ドバドバと涙を流しながら追いかけてきている愛莉の姿。
『ごめんなさああーーい!! 陽奈ちゃんのダイきちくんともっと遊びたいって想いが強すぎて……私、身体から弾き出されちゃったあああーーー!!!』
なにいいいいいいいいいいいいいいい!?!??!?!
◆◇◆◇
「陽奈ねー、さっきダイきちがトイレ行ってくるって言ったけど場所分からないかと思ったけん、教えにきたんだー!」
陽奈がニコニコ微笑みながら「こっちだよー」と外に設置されてあるトイレへとオレを先導していく。
「お……おぉ、ありがとう。 漏れそうだったから助かるぜ」
「へへー、ついでに陽奈もおトイレ行きたかったけん、いいよー」
こうしてオレたちは行き先を変更して外のトイレへ。
しかしそのトイレの前に着いたところであることを思い出す。
ーー……ん、これってあれだよな?
ここで陽奈が女子トイレに入ったら1人にさせちゃうってことだよな。
このオレの心の声に愛莉とクヒヒさんが『そうだね』と頷く。
じゃ……じゃあオレ、もしかして同じ個室でしないといけないってこと?
『そういうことだね弟くん』
『むむむ……今回ばかりは許してあげるよ陽奈ちゃんの為だから。 でもマジマジ見ちゃダメだよ!?』
「!!!!!!」
神展開キタコレえええええええ!!!!!
オレはすぐに持ち前の変態脳をフル回転させて「夏の学校のトイレは怖いから」という理由で陽奈とともに女子トイレ内へ。
陽奈もあまりそこに疑わず、「まったく、ダイきちの怖がりは変わってないなぁー」と笑いながらオレの手を引っ張り同じ個室の中へと入り扉を閉めた。
「じゃあ陽奈、先にしていいぞ。 オレはここで後ろ向いてるから」
「いーの?」
「あぁ。 オレはこういう時でもレディファーストなんだよ」
「ありがとー」
軽く体を曲げて視線を下に向けると、オレの両足の間から便座に座っている陽奈の足が見える。 そしてその辺りから聞こえてくる爽やかなせせらぎの音。
風流だねぇ。 この音を聞くのも去年の夏祭り以来だろうか。
もし陽奈の背後から何かがきた場合は、今見張ってくれている愛莉やクヒヒさんがすぐにオレに知らせてくれる手筈となっている。
なのでオレはこの癒しの音を存分に堪能。 その後陽奈から「終わったからダイきちどうぞー」と言われたのでオレと陽奈はお互いのポジションをチェンジし、いざオレのターンとなったわけなのだが……
ここでクヒヒさんから衝撃の一言。
『これも弟くんには視えてないと思うから教えておくとね、この女子トイレを住処にしている無害な女子の霊たちが弟くんのを……物珍しそうに見てるよ』
「!?!?!?」
ナン……ダト?
ぶっちゃけ横から興味津々で覗き込んできている陽奈の視線には気づいていたんだが、まさかそれ以上のご褒美が待っていたなんて。
それほどまでに……それほどまでにオレの肉体が魅力的だということだろうかウヘヘヘヘ!!!!
ならばご覧あれ!! オレの動物園を!!!
オレは久しぶりに動物園の入り口を開門。
短い時間ではあったが、多くの者たちにレアな動物の生態を観察させてあげたのだった。
「うわぁ……凄いね教科書で見たのとは違うけど。 ていうか、ねぇダイきち」
「なんだ?」
「出さないの?」
「うーん、このままでは無理だな。 トイレは諦めるぜ」
オレは心の中で周囲の観客に『楽しんでくれたならオレも嬉しいぜ』とイケメン風に囁きながら動物園を閉園。
その後愛莉やクヒヒさんに『陽奈もこんなだし、今日は裏庭へ行くのやめておこう』と提案してトイレから出ようと扉を開けた……その時だった。
『え』
『ウソ』
扉から出たタイミングで愛莉とクヒヒさんが同時に出口へと視線を向けながら声を漏らす。
そしてすぐにクヒヒさんが2人の見ている光景をオレに教えてくれたのだが……
『さっきの女の子たちがね、ソウタくんを捕まえて来てくれたっぽいの』
「え」
『弟くんに珍しいもの見せてもらったからそのお礼だって……』
「ーー……」
オレも視線をトイレ出口の方へと向けると、なぜかその女の子たちの霊の姿は見えなかったのだが……そこには確かに複数人に両手両足を掴まれているのか身動きの取れない状態になっているソウタくんの姿を発見する。
「あ、陽奈にラブレター渡した子だ!!」
陽奈にもどうやらソウタくんの姿は視えるようで「ヤッホー!!」と陽気に声をかけながら駆け寄っていく。
そんな陽奈の行動にオレたちは即座に反応。 陽奈とともにソウタくんの前に立つと、顔を真っ赤にしたソウタくんは陽奈から目を逸らして静かに口を開いた。
『そ……その、手紙……読んでくれましたか?』
「うんっ! 読んだよ!!」
ソウタくんの問いかけに陽奈は眩しい笑顔で頷きながら答える。
しかしなんだろう……ソウタくんの視線は何故か陽奈の背後、斜め上に向けられていて……
「えっと……名前忘れたけど手紙ありがと! 陽奈、ラブレター初めてだったから嬉しかったな!」
『え』
突然ソウタくんの目が大きく開かれパチパチと瞬きを始める。
「ん? どうしたの?」
『いや……あの手紙、確かに君に渡したんですけど……読んで欲しかったのは君じゃなくて……』
「へ?」
『後ろのその……君のお姉さんに向けての手紙……だったんだけど……』
なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?!?!?
この発言に陽奈を除いたオレたちは激しく動揺。
そんな中で一番驚いていたのはもちろん陽奈の後ろで浮かんでいた愛莉本人なのであった。
『わ……わわわ私ーーー!?!?!?』
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