501 【陽奈編】クヒヒさん
五百一話 【陽奈編】クヒヒさん
まったく……朝からこんな勢いで事が起こっては体力が保たないぜ。
あれから大変だったんだぞ?
愛莉が陽奈の耳元で『早くおトイレ行って!』と必死に叫ぶも、それが逆効果となり陽奈は「うわあああああ!! 陽奈の耳元でなんか聞こえるーー!!」と腰が抜けて床の畳が大惨事。
その後ようやく騒ぎを駆けつけた優香たちが二階へ駆け上がってきて陽奈を浴室へと連れてき、惨状跡は福田祖父母が雑巾やらなんやらで掃除を始め、オレはというと……一階の居間で待機させられていたのだ。
仕方ねぇだろ。
手伝うって言っても福田祖父母に「大丈夫だから居間でゆっくりしてな」って言われたんだから。
「ーー……それにしてもあれだな。 夏休みだってのにオレの好みのアニメとか全然やってねーのな」
あまりにも暇だったためテレビのチャンネルを一通り回していたのだが、放送しているものは時代劇ドラマの再放送やニュース、地元ローカルなグルメ番組のみ。
改めて思うぜ。 田舎ってチャンネル数も結構少ないのな。
どれも観る気にならなかったため電源を切り周囲を見渡すと、隣で満足げな笑みを浮かべているホラーオーラを消したクヒヒ野郎が視界に入った。
「えっと……なんか嬉しそうだね」
そう声をかけると、クヒヒ野郎は両手を自身の頬に当て『くひひ』と幸せそうな声を漏らしながら視線をオレの方へと向ける。
『まぁね。 だって私、生きてた時の夢がお化け屋敷で人を驚かす事だったから……さっきのリアクションは100点だったし』
「あ、そうだったの……てか生きてた時あったんだ」
『そりゃあそうだよ。 元が人間じゃない存在って悪魔とか妖怪、神様くらいじゃないかな。 ちなみに私は病気に負けて死んじゃったんだよ?』
「あーー……」
え、なんか急に話重くなってない?
『夢がお化け屋敷で驚かすこと』のところで突っ込もうと思っていたらまさかの病気で亡くなった告白。
オレはそれを聞いた途端、愛莉ももちろんだが転生前の茜の姿が脳裏に浮かんだ。
『うん? どうしたのかな弟くん、急に黙り込んじゃって』
クヒヒ野郎……いや、クヒヒさんがキョトンとした顔でオレの顔を覗き込んでくる。
「あ、いや……クヒヒさん、病気で亡くなったんだなって」
『そうだよー。 余命宣告された時はショックだったんだけど、その時に中学生だった姫の言葉にかなり救われたんだ』
「ええ、お姉ちゃんに?」
『そうなの』
それからクヒヒさんが話してくれたのは生前の話。
クヒヒさんは当時JCだった優香に、いかに希望を持たせてもらったのかを嬉しそうにオレに語っていたのだが……
『そこで私、姫に言われたんだ。 私の余命が尽きて自由になったら……そうなったら驚かせに来てくれてもいいよって』
「え」
『あ、あとお願いもされたんだ。 弟くんがめちゃくちゃ臆病だから驚かせて精神鍛えて欲しいって』
ゆ……優香あああああああああああああ!!!!!! お前が元凶かあああああああああ!!!!!!
なんかどこかで聞いたような気もするが……おそらく気のせいだろう。
しかしこれで全てが繋がったぜ。
クヒヒさん……夢がお化け屋敷で驚かすことだったから、今までオレの目の前に出てきたタイミングとかシチュエーションが全てホラー感満載で完璧だったわけだな。
そりゃあ驚いて失禁した陽奈を見て嬉しくなるわけだぜ。
なんだかんだでこんな時間が出来たおかげもあるのか、オレのクヒヒさんに対する嫌悪感は一気に消失。
そうなると沸いてくるのはこの感情だよな。
オレはゆっくりと立ち上がるとクヒヒさんの前に立ちゆっくりと手を伸ばす。
『弟くん?』
「あのークヒヒさん、ちょうどここには誰もいないことですし、さっきの続き……いいっすか?」
『え?』
「ほら、クヒヒさんの身体をもっと見たいっていう……」
『あー、あれ? いいよ、私死ぬまで誰にも興味を持ってもらうことのなかった女だったからさ』
クヒヒさんは再度襟元に手をかけると『私、こういうことで男の人に見られるの初めてだから……改めてとなるとちょっと緊張するな』と恥ずかしそうに微笑んだ。
うおおおおおおおおお!!!! なんだこの感覚は……!!!
これはまさにあれだ、ホラー可愛いぞおおおおおおおおおおおお!!!!!
オレはそんなことを心の中で叫びながらも視線はまっすぐクヒヒさんの方へ。
「お、おおお、オレも嬉しいっす!! こんなグラマラス……年上最高っす!」
『くひひ、ありがと』
「あ、ちなみに……なんですけど! 前にお化け屋敷でお姉ちゃんの脚を掴もうとしてたじゃないですか! てことはオレにも触れられるんですか!?」
『うん。 ちょっと力使うけど、短い時間なら出来るよ』
クヒヒさんがもう片方の手をキュッと握りしめながらコクリと頷く。
な、なん……だと!!!
ということは……ということはああああああああ!!!!
オレははやる気持ちを抑えながらも小さく深呼吸。
その後気になりだしたとある行為について尋ねてみることにした。
「あの……何度もすみません! もう1個質問いいスカ!?」
『なに?』
「ちなみにその手でオレの……どことは言いませんが大事なところを触ったりとか、これも詳しくは言えませんが、オレとクヒヒさんがピーピーする……みたいなことも出来るってことでしょうか!?」
『うん、まぁ……多分出来ると思うけど……』
マジかあああああああああああ!!!!!
このクヒヒさんの発言によりオレやオレの魂は一気に絶好調モードへ。
「じゃあお願いします!!!!」とズボンに手をかけクヒヒさんに歩み寄ろうとしたのだが……
『でもその後、使い物にならなくなると思うけど……それでもいいなら』
ーー……。
「エ、それは……ドウイウ?」
『うーん……私の解釈違いだったら申し訳ないんだけど、もしそうなのだとしたらその後の弟くんのソレは一生遺伝子を生成出来なくなると思うな』
「ーー……」
ホラー的なそれとは全く別の悪寒がオレの全身を駆け抜ける。
『弟くん、それでもいいの?』
「い、いえ……やっぱやめときますすみません」
こうしてオレはすぐさまセクハラ行為を中断。
自身の股間あたりに「今まで元気でいてくれてありがとう。 これからも頼むぜ」とエールを送りながら、シャワーから戻ってくる陽奈や優香の帰りを待っていたのだった。
「あ、てかクヒヒさん。 ほとんど愛莉さんから話は聞いてると思うんだけど……今日の昼頃に学校行って陽奈を狙っているソウタくん捜索するのは知ってますよね」
『うん聞いたよ』
「ーー……いると思います?」
『まぁ……そのソウタくんがどんな姿してるのかは分からないけど、悪霊だったらすぐに逃げようね。 まぁでも弟くんは私が絶対に守ってあげるから』
「頼もしいっす。 ありがとうございます」
『それとプールサイドは行かないように。 昨夜も離れたところで弟くんたちを見てたんだけど……あそこにはヤバそうな悪霊いたから』
そ、そこにいたのか。
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