490 【小畑編】輝きは希望の証【挿絵祭】
四百九十話 【小畑編】輝きは希望の証
小畑がアイドル最終オーディション時のチームメイトに電話をかけてどのくらい経っただろうか。
最初こそ小畑は2人から怒られたり呆れられていると思っていたらしく若干怯えていたのだが……
『ちょ、ちょっと五條!! これから会見だってのになんで衣装汚しちゃうの!!』
『ず……ずみまぜんーーー!!!!』
小畑の持つスマートフォンのスピーカーから聞こえてきているのは焦りの声。
どうやら小畑の声に反応した鈴菜ちゃんがちょうどその時に口に含んでいたコーラを一気に放出。 会見用でもあり宣材写真としても使用していた真っ白な衣装が茶色に染まってしまったらしい。
『どうじまじょーーたぢばなざんーー!!』
『と、とりあえずマネージャーのとこ行って判断仰いで来て! 本番まであと少しなんだから!』
『はいぃ……!』
うわ……うわわわわわわ!!! 完全にオレたちが邪魔しちまったああああ!!!!
オレと小畑は顔を真っ青にしながら静かにお互いの顔を見つめ合う。
「ふ、福田……どうしよ」
「う、うん。 今のって完全にオレらが電話かけたせいだよな」
や、やっちまった。 小畑とあの2人を元気づけて関係を修復させるという手筈だったのにこんな大事になってしまうなんて。
それから小畑と話していた橘さんは『と、とりあえず私もちょっと五條と一緒にマネージャーのところ行ってくるけど、小畑……絶対に電話は切らないこと! いい!?』と言い残しマネージャーがいるのであろう控え室の外へ。
オレたちは言われた通りに通話を切らず、スピーカーから聞こえてくる静寂を感じながらじっと待つことに。
それから3分くらいだろうか。
スピーカーからはガチャリと誰かが入ってくる音。
「橘さんか……鈴菜ちゃんかな。 と、とりあえずさっきの謝らないと」
小畑がポツリと呟きながら小さく深呼吸。
すると誰かが橘さんのスマートフォンを手に持った感じがしたので、小畑は一瞬オレに視線を向けたのちにすぐに深く頭を下げた。
「ご、ごめんなさい私のせいでーーーー!!!!!」
これで会見が台無しになったと言われた時にはオレも全力で謝ろう。
そう心に決めたオレは相手方の声をよりハッキリと聞くために顔をスマートフォンの方へ。
しかしそこから聞こえてきた声は先ほどの橘さんでも……ましてや鈴菜ちゃんの声でもなかった。
『もしもし、小畑さん?』
ーー……ん、誰だ? どこかで聞いたことあるような声の気もするけど全然思い出せん。
ただ小畑の表情から推測するに、小畑は知ってる人物なのらしいが……
オレがそんな小畑に静かに注目していると、小畑は視線をスマートフォンに向けたままゆっくりと口を開く。
「マネージャーさん……ですか」
「えええええええええええええええ!?!?!?」
マネージャーってエマがよく言ってた『鬼マネ』のことだよな!?
そんなマネージャーが電話に出たってことは今から完全に怒られるパターン……『鬼』と言われるくらいなんだから怒ったらめちゃくちゃ恐いのだろう。
こんなことになるのなら止めておいた方が良かった。
そうオレが自身の選択やプランを激しく後悔していると、そんなオレの悲観的な予想とはまったく真逆……まさかの発言がマネージャーの口から発せられたのだった。
『小畑さん、ありがとう』
「えっ?」
『小畑さんのおかげで2人とも、瞳に輝きが戻ったわ』
◆◇◆◇
マネージャー曰く、どうやら服はなんとかなるとのこと。
予定はしていなかったらしいのだが、丁度デビュー曲で使用する衣装が手元にあったらしくそれに着替えることになったらしい。
なので橘さんと鈴菜ちゃんの2人は今お着替え中。 橘さんから『小畑から電話があった』と聞かされていたため彼女たちに内緒で話をしにきた……とのことだった。
「マネージャーさんが私に……話?」
『うん。 まぁお話もそうなんだけど……お恥ずかしながら相談したいこともあるのよね』
「そ、相談」
そこからマネージャーは先に『別に小畑さんが辞退したことを誰も怒ってないし恨んでもいない』と前置き。 その後話しだしたのはエマも今日学校で言っていた『2人のパフォーマンスが以前に比べてもいまいち』というもの。
最終オーディション時はかなり光っていたらしく、あの時どうしてあんなに3人とも輝いていたのかを尋ね始める。
「3人って……え、私も光ってたんですか?」
『そりゃあそうよ。 じゃないと合格させてないもの』
「な、なるほど」
『それで小畑さん、どうかしら。 何か当時していたこと……とかジンクスみたいなものでもあったの?』
「いや……特に何も思い出せない……というか何もやってなかったというか」
『そう……』
小畑は「力になれなくてごめんなさい」と謝るもマネージャーは『いやいやそんな! あの子たちの目に光が戻っただけでも感謝ものだわ』と小畑をフォロー。
それからしばらくして鈴菜ちゃんの『マネージャー、着替え終わりました!』との声が遠く聞こえてくる。
『橘さんはもうすぐ着替え終わります! あ、あとスタッフさんがもうすぐ本番30分前だからスタンバイするようにって言ってましたー!』
『そう、分かったわ』
『じゃあ私、今から美波ちゃんと話してもいいですかぁー?』
『いいけど3分だけね。 それと会見の後はお説教だから覚悟しときなさいよ』
『ふぇ……ふえぇ……!!!!』
こうしてマネージャーはスタッフに呼ばれたらしく通話相手が鈴菜ちゃんへとチェンジ。
鈴菜ちゃんもまったく怒っている印象などなく、『久しぶりだね美波ちゃん!!』とかなりフランクな……そして嬉しそうな声で話しかけてきたのだった。
「あ、うん鈴菜ちゃん。 久しぶり。 今更だけど……合格おめでと」
『うんありがと! さっき橘さんと着替えてる時にね、美波ちゃんの話でちょっと盛り上がったんだ! あの時あーだったねって!』
「そ、そうなんだ」
『それで思い出したことがあって……ほら、最終審査でも私たちパンツ履かないで挑んだでしょ? あれを今からやろうって話になったんだよね!』
「え……えええええええ!?!!?」
ノ、ノーパン……だと!?
小畑のやつ……どこまでエマの……いや、小山楓式ノーパン術を広める気なんだ!
小畑は目を高速で瞬きさせながら絶句。
対して隣に座っていたオレは即座に両手で股間を押さえる。
「え……えっと鈴菜ちゃん、それって大丈夫なの!?」
『何が?』
「だってオーディションの時はジャージだったから良かったけど……衣装はズボンなの?」
『ううん、普通にスカートだよ! 橘さんが膝上くらいで私のスカートが太ももくらいかな!』
「やばいじゃん見えちゃうじゃん!!」
『大丈夫だってー。 なんてったって会見なんだし踊らないし。 それに私たちも美波ちゃんとの思い出を大切にしてるからさ。 今までどこか2人とも不調気味だったし、これで気合い入れようってなったんだよね』
鈴菜ちゃんって子……結構オツムやばいのか?
そしてそれに便乗する橘さんも実は……?
オレがそんな想像を巡らせていると遠くから『ではスタンバイお願いしまーす』の声が聞こえてきた。
『あーあ、もう行かないと』
「うん」
通話の終わり際、小畑が「じゃあ頑張ってね」と声をかけ締めようとしていると、『あ、ちょっと待って!!』と鈴菜ちゃんから待ったがかかる。
「え、どうしたの? もう行かないと……」
『美波ちゃん、会見……観れそう?』
「う、うん」
『じゃあ是非とも観てほしいな! 私たちから美波ちゃんに急遽だけど、サプライズ用意するから!』
「え」
そうして2人との通話は終了。
小畑は緊張の糸が解けたのか「ふぅ……」と長い息を吐くと、すっきりした表情でオレを見上げる。
「福田」
「うん?」
「こんなとこでじっとしてらんないね!! 会見もうすぐ始まるし、テレビあるところあるんでしょ! 早く連れてって!!」
「そうこなくっちゃ!!!!」
それからすぐにオレたちはショッピングモール外にある家電量販店へと移動。
やはりあの人気急上昇中のアイドル・メイプルドリーマーの妹グループがデビューするというだけのことはあり、展示されていたテレビのほとんどが会見をするチャンネルに合わされていた。
「は、始まるね小畑さん」
「うん」
それからあまり時間も経たずに会見がスタート。
2人とも青を基調とした衣装に身を纏い、その衣装の下に何も身につけていないということなど全く感じさせないくらいに堂々ともうすぐデビューすることを発表。 記者たちからの質問にも堂々とした態度で返していく。
「ーー……すげぇな。 小畑さん、こんな2人とチームで踊ってたんだ」
「うん」
それにしても小畑に用意したサプライズってなんだろう。
会見は滞りなく進み、気づけばあと数分……あの言葉は小畑に見てほしいがためのハッタリだったのか?
そんなことを思い始めていた……その時だった。
記者の『それでは最後に……お二人は将来、どのようなアイドルを目指したいですか?』という質問に2人は互いに顔を見合わせ微笑み合うと、揃って視線を中継中のカメラへと向ける。
『私たちは先ほども言った通りもうすぐデビューして突っ走っていくつもりですが、本番は来年の4月からです! ね、橘さん!』
『はい。 後で怒られるでしょうが勝手に言わせてもらいます』
この2人の発言に会場内はおろかオレたちの周りで同じ会見を見ている人たちも騒然。
しかしそんな雰囲気にも動じない2人は続けてこう口にしたのだった。
『4月からなら……小学校卒業してからなら大丈夫だよね!?』
『私たちは先に行ってるけど……待ってるよ、私たちのセンター』
「!!!!」
それは紛れもない小畑への……共に夢を目指した仲間へのメッセージ。
小畑もそれには気づいたようでその瞳からは大粒の涙……人目を気にせず静かに泣いていたのだった。
◆◇◆◇
会見終了後、SNSやネットニュースでは【幻のセンターが来年加入!!】との話題で大盛り上がり。
オレと小畑はそんな数多の記事を見ながら帰宅していたのだが、とあることが気になったオレは先に聞いておくことにする。
「えっと……小畑さん、どうするの?」
「何が?」
「いやほら、待ってるよセンターって言ってたじゃん」
「そりゃあ決まってるでしょ。 あそこまで言われたら私、行くしかないじゃん」
「まぁでもそれって小学校卒業してからってことだけど、だったらオレは……?」
オレは恐る恐る自身を指差しながら首をかしげる。
「そうだね。 卒業したらバイバイだね」
「そんなああああああああああ!!!!!」
夢の甘い青春が来年までの期限付きだなんてえええええええ!!!!
オレがその場で崩れ落ち絶望していると小畑が「ちょっと公の場でしゃがむのはやめなよ恥ずかしい」とオレの背中を叩いてくる。
「だ……だって初めてできた彼女なのに……1年も経たずにお別れなんて……ぐすん!!!」
しかも付き合いだした日に知ってしまうという事実!
ちくしょう!!! こんな結果になるんだったら動かなかったらよかったぜ!!!
オレが自身の行動を呪っていると、小畑が「とりあえず立ちな」とオレの両脇に腕を回してゆっくりと立たせてくる。
「お、小畑さん……オレは……」
「どう福田。 私ってやっぱり勝手でしょ? 呆れた? 嫌いになった?」
「ううん……好き」
「あははは、ありがと。 だったらさ……」
小畑はようやく立ち上がったオレの頬を優しく撫でると、オレを柔らかく見つめる。
「福田、私も福田のこと……今日でもっと好きになったよ? ただアイドルは小さい頃からの夢だったから一旦さよなら。 でもね、もし私がアイドル引退した時に……まだ私のこと好きだったら迎えに来てほしいな」
「でも小畑さん、ニューシーの小芝くんと結婚しそう」
「ばーか。 そもそもあれはただの夢で小芝くんが私みたいなガキの相手するわけないじゃん。 だから……ね、待っててほしいな」
「小畑さん……勝手だね」
「ごめんね勝手で。 もし待てそうになかったらすぐにでも別れて他の子のところ行っても私は何も言わないから」
「ーー……いや、待ってる」
ここまで小畑の意志が固いならオレに何も言う権利はない。
しかし……しかしだな、こんなことで黙って見て待っているだけのオレではないぜ。
オレは深く息を吐き気持ちを整えると、まっすぐ小畑を見据えた。
「小畑さん」
「ん?」
「オレ、頑張って勉強して知識増やして……絶対に小畑さんのグループのマネージャーになるわ」
「ーー……え?」
小畑が目を大きく見開きながらこちらを見てくる。
「えっと福田……それ本気?」
「うん」
「マネージャーなんの?」
「なる。 そして一緒にツアー回ったりして引退と同時に結婚する」
このオレの決意を聞いた小畑は目にうっすら涙を浮かばせながらも満面の笑みで了承。
「待ってるよ私の婚約者兼マネージャー!」とオレの股間を嬉しそうに蹴り上げ、気合を入れてもらったのだった。
◆◇◆◇
ちなみにここからは後日談。
小学校卒業と同時にオレは小畑と一旦お別れ。 小畑は母親と共に引っ越し、晴れてアイドルデビューを果たしたんだ。
そして3人になって発売した曲『Maiden's Secret(乙女たちの秘密)』はオリコンチャート1位を獲得。 もう破竹の勢いで人気者ロードを突き進んでいる。
あ、言い忘れてたけどもちろん橘さんと鈴菜ちゃんがいるグループな。
グループの名前は【青薔薇の乙女】。 青い薔薇の花言葉が『夢叶う』ってことを後に知ったオレは鳥肌が立ったものだぜ。
ちなみにオレはというとだな……中学生ということで遊びたい欲やら一層強力になった性欲と戦いながらも毎日勉強しているぞ!
これも小畑の……小畑たち【青薔薇の乙女】のマネージャーになるため。 絶対に夢叶えてやるぜ!!!
オレは机の前に貼っているポスターを見て「よし」と気合をいれると、再び参考書へと向かったのだった。
(小畑編・完)
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小畑編、終了です!!!
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