489 【小畑編】説得!!
四百八十九話 【小畑編】説得!!
【受信・エマ】2人の記者会見は17時だって。
【送信・エマ】サンキュ。 んでさ、その記者会見までに2人はどのくらい自由なのか分かるか?
【受信・エマ】うーん、そこは聞かないと分からないけど、何かいい案浮かんだのなら出来る限り協力するわ。
【送信・エマ】わかった。 んじゃまたその都度連絡する。
オレは小畑との初デート中にエマとこっそりメールでやりとり。
ふふふ……我ながらナイスなアイデアを思い浮かばせたものだぜ。
「あー見て福田! このキーホルダー、ハートで可愛いよ! レッドとブルーあるし、ペアみたいでよくない!?」
「え……ええええええええ!?!?」
「なにどうしたの?」
「い、いや……流石にそれは恥ずかしいかなって。 特にオレがハートのキーホルダーなんか付けたら絶対目立つし」
「んじゃ私とデートする時だけ付ければいいじゃん」
「え」
「基本デートするのって休みになるっしょ? だから福田はそれをリュックとかに付けて私とデートするの。 そしたら私とのデートの前日とかにそのキーホルダーつけることになるし、その度に私のこと思い出すでしょ?」
う……うわああああああああ!!!! 甘い!!! 甘すぎるううううううう!!!!!
そこまで言われて断るなんてありえない。
怖いもの見たさ……とでもいうのだろうか。 小畑の言っていた『デート前にキーホルダーをつける度に私を思い出す』を是非とも体験してみたくなったオレはこう答えたさ。
「ま、まぁ……それなら」
小畑に選んでもらったりリードしてもらってばかりではあれなので、先ほどのキーホルダー代はオレが奢ることに。
購入したそれを小畑に渡すと、小畑は嬉しそうにそれをランドセルに装着した。
「え、もう付けるの!?」
「いいじゃん知ってる人誰もいないんだし。 福田もつけなよ」
「えええ」
「いいじゃん付けよ! 私がつけたげる」
小畑はオレの手から青のハート型キーホルダーを半ば強引に奪い取ると、それを問答無用でオレのランドセルにつけ始める。
「へへー、これでお揃いだねー」
「ーー……」
うわあああああああ!!! これこそまさに……青春を謳歌してるんじゃあああああああああ!!!!!
オレはあまりのピンク色な雰囲気に我慢出来ず心の中で大絶叫。
しかしそのタイミングでポケットに入れていたスマートフォンが鳴り、確認してみるとエマからのメール受信通知が届いていた。
【受信・エマ】ユリからの情報。 16時から16時半なら2人とも控え室にいるんじゃないかだって。
16時から16時半……。
オレはすぐに画面左上に表示されていた現在時刻を確認。
「ーー……もうすぐ16時か。 急いだ方がいいな」
それからオレは小畑にちょっと休憩しようよと提案。
こういう時に大型のショッピングモールは休憩スペースが至る所にあって助かるよな。
オレは小畑とともに近くのソファー型ベンチに腰掛けると、早速オレ考案のミッションに移ることにしたのだった。
「ねぇ小畑さん、ちょっといいかな」
「なに?」
「どうせなら一緒に写真撮りたいんだけど……オレのスマホ、あんまり画質良くなくてさ。 一瞬でいいからスマホ貸してもらっていい?」
「えー、急に積極的じゃん。 いいよ、はい」
◆◇◆◇
スマホを受け取ったオレはすぐにカメラを起動せずに小畑に顔を向ける。
「ねぇ小畑さん」
「なに? カメラの起動分かんない?」
「ううん、それはそれとして、あと1時間で記者会見だって」
そう話を振ってみるとどうだろう。 小畑は「え、なんでまたその話?」と若干表情を曇らせながら尋ねてくる。
「そんなことより早く撮ろうよ」と小畑は体を寄せてきてオレのスマホを持つ手を触ろうとしてくるが……ここは引かねえぞ。
「エマから聞いたんだけどさ、あの2人……あんまり好調じゃないらしいよ」
「え」
小畑の動きが一瞬だがピタッと止まる。
「そ、そうなんだ」
「うん。 それで今日の会見の練習も事前にしてるみたいなんだけど、それ自体もあまり覚えられてないようでユウリさんやそのマネージャーさんが困ってるんだって」
「ーー……」
オレの言葉に小畑は言葉を詰まらせる。
相手はなんだかんだで頭の回る小畑だ……急にどんな別の話題を差し込んでくるか分からない。
考える隙を与えるな。
「それでさ小畑さん、ショッピングモールの外に家電屋さんあるんだけど……そこにテレビあるから一緒に会見見ようよ」
「ーー……なんで?」
「なんでって……やっぱりオレは、小畑さんには仲間の勇姿っていうか頑張ってるところを見て欲しいなって」
「で、でもほら、私たち今デート中じゃん? 会見だったら後で家でネットで見るから今は……」
「じゃあ会見はネットでいいとしよう。 そうしたらとりあえず、2人と電話で話そっか」
「えっ」
小畑の目が大きく開かれる。
「ーー……電話?」
「うん」
「今から?」
「うん」
オレは小畑からの単純な問いかけに即答していく。
「えっと……福田、なんで? 私とのデート楽しくないの?」
「ううん、これ自体はとっても嬉しいし恥ずかしいし楽しいよ。 でもオレ、今小畑さんに2人の会見を見させないと……オレもだけど、小畑さんも一生後悔すると思うんだ」
「後悔なんて……してないもん」
小畑がオレから視線をそらし小さく呟く。
「いや、だからそれはまだその時がきてないからそう思えてるだけで、今動かないと……」
「もう……うるさい!!!!」
「うぉっ!!」
突然ブチギレた小畑がオレの二の腕を全力で殴る。
「ちょ、ちょっと小畑さんっ!」
「昨日も……それに今日学校出る時にも言ったけど、私は『元・チームメイト』なの! そりゃあ話せるなら話したいよ? それで怒られても罵られてもいい……でも怖いじゃん! だったらいっそのこと忘れた方がいい……だから私はそのために恋愛を……!」
うん、やっぱり正攻法じゃ難しそうだな。
ーー……あれを使うか。
「小畑さん、ニューシー好きだよね」
オレは少しの間を置いて小畑の大好きな男性アイドルグループのニューシーの話を切り出すことに。
「は!? 今その話関係ないよね!? 話逸らさないでよ!」
「さっき小畑さん教えてくれたじゃん。 ニューシーは元々人数の多いグループだったけど色々あって4人になったって。 でも残ったメンバーは脱退したメンバーのことを嫌いにはなっていない。 話して関わっているうちに心の壁が消えて今も仲良しだって。 それって今の小畑さんにも言えることなんじゃないかな」
「!!」
そう、オレはあの記事の内容を小畑から聞いて気づいたんだ。
もうすぐデビューする2人はニューシーサイドで小畑は脱退したメンバーサイド。 立場や環境こそ違うものの、かなり似ている部分がこの双方にはあった。
しかもその解決方法すらも小畑の口から説明してもらったんだ……だったら小畑はこれからすべきことも分かるよな。
オレは小畑のスマートフォンで電話帳をタップして本人に渡す。
「ーー……福田?」
「今なら良い関係……やり直せると思うよ」
「メール?」
「ううん、電話」
「でももうすぐ会見始まるし、忙しいかも」
「そこはエマから情報を貰ってる。 今から約30分はおそらく大丈夫だろうって」
小畑は視線を泳がせつつも画面を下から上へとスクロールしていき【橘さん】のところで指を止める。
「一応福田が言うことに今まで間違いなかったから信じるけど……本当に仲良しに戻れるの?」
「戻れる」
「根拠は?」
「それはさっき言ったじゃん。 小畑さんの好きなニューシーが証明してる」
「でもそれはニューシーのみんなだから上手くいっただけかも。 私は言葉選びとか……間違えるかもよ?」
「大丈夫。 その時はオレが隣でフォロー入れる」
「失敗したら多分……一生恨む」
「その時は好きなだけオレを蹴ってくれて構わん。 なんなら真っ裸で蹴られてあげるよ」
「言ったからね」
小畑は躊躇いつつも画面に表示されていた【橘さん】をタップ。 その後スピーカーをオンにして左手で持つと、もう片方でオレの手をぎゅっと握ってきた。
「し、信じてるよ」
「任せろ」
スピーカーからは電話の呼び出し音。
どれくらい鳴っただろうか。 小畑のオレの手を握る力が一層強くなり、そんな小畑の緊張が伝染してくるようにオレの鼓動も一気に早く鳴っていったのだった。
そしてついにーー……
『ーー……小畑?』
スピーカーから聞こえてきたのはあのクールな女の子・橘奈央さんの声。
体をビクンと反応させた小畑はオレに一瞬視線を向ける。
「大丈夫」
「うん」
小畑は小さく深呼吸。
息を整え大きく息を再度吸い込むと、大きな声でスピーカー先の相手に話しかけたのだった。
「も……もしもし!! 小畑です!!!! お、おおおおお久しぶりです!!!!!」
目の前にいるわけでもないのに小畑は大きく頭を下げながら挨拶。
するとどうだろう……通話相手の橘さんは『ーー……っ!』と驚いたように絶句していたのだがその近くにもう1人いたのだろうか、突然『ブフーーーーッ』と何かを噴き出す音。
その後もう1人の確か……鈴菜ちゃんだったか? 鈴菜ちゃんの『えええええ!!! 今の美波ちゃんの声ですよねええええええ!?』と叫び声が聞こえてきたのだった。
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