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482 【小畑編】特別編・私もあの2人のように


 四百八十二話  【小畑編】特別編・私もあの2人のように



 少し前に開催されたアイドルオーディションでともに夢を目指した仲間・橘奈央と五條鈴菜。

 同級生・福田ダイキの発言……自分のことを『元・チームメイト』と言われたことにより事実を突きつけられた美波はあまりの動揺でその場から逃走。 少し離れた公園に立ち寄ると、心を落ち着かせるためにブランコに腰掛けた。



「はぁ……福田の言う通りじゃん。 ほんと自分勝手で最悪だ私」



 そういえば今何時なんだろう。

 スマートフォンの電源をつけて一番最初に視界に飛び込んできたのはあの最終オーディション時に美波の部屋で……3人で撮影した記念写真。 奈央と鈴菜に囲まれながら、自分が満面の笑みでピースサインをカメラに向けている。

 


「橘さん、鈴菜ちゃん……」



 美波は待ち受け画面に移る2人の頭を指の腹で優しく撫でる。

 


「最初は大変なところに来ちゃったって思ったけど……楽しかったなぁ」



 そう呟いた美波は待ち受け画像を変更しようと画像フォルダを開く。

 どの画像を待ち受け画面に設定しようか。 そう考えながら画像を遡っていた……その時だった。



 突然スマートフォンの画面が切り替わる。



【着信通知】 橘さん



「ちょっ……! ええええええ!?!?!?」



 美波はあまりにも唐突な着信通知に激しく動揺。


 あれだ……さっき福田が勝手に電話ボタンを押したから……!!!


 体をビクンと大きく反応させた美波は思わずスマートフォンを手から離してしまい地面に落とす。 そしてブランコに腰掛けていた美波自身も体勢を崩してしまい……



「わわっ……ちょわわわわわあああああああ!!!!」



 後ろへとクルリン&ドスン☆と、綺麗な弧を描くようにひっくり返ってしまったのだった。



 ◆◇◆◇



「いったたたたた……」



 ここまで見事なマヌケな転倒はいつぶりだろうか。


 周囲を見渡してみるも運良く誰もおらず見られていない模様。 安堵した美波はゆっくりと立ち上がり、地面に背中を打ち付けた際に付着した土埃を払いながら「あー、あったあった」手前に落ちていたスマートフォンに手を伸ばしたのだが……



「あー、良かった! この公園、人いなさそうだよ!」

「ほんと? じゃあここにしよっか」



「?」



 ちょうど中腰になり屈んでいたこともあるのだろう。 向こうからはギリギリ死角になって見えていないみたいなのだが、そこに現れたのはエマと……まさかのメイプルドリーマー・リーダーのユウリちゃん。

 2人が何やら楽しそうに話しながら公園へと入ってくる。


 えええ、ユウリちゃん?

 別に2人が知り合い同士ってことは知ってたけど……こんな夕方にどうしたんだろう。

 

 話しかけに行っても良かったのだが、今の美波は華麗なマヌケ転倒をかましたために背中は砂埃で汚れている。

 流石にそこを突っ込まれたら……『電話にびっくりして転んだ』なんて言えないよね。


 ーー……うん。 勿体無いけど、ここはこっそり出て帰ろう。


 美波は一旦近くにあった背の低い茂みに隠れてここから出るタイミングを窺うことに。

 しかしこの公園内には隠れている自分とエマ・ユウリの3人だけ。

 当たり前だがすぐに出られる隙が出来るわけもなく、美波がただただじっとその瞬間を待っているとあまりの静けさのせいもあるのだろう……聞くつもりのなかった2人の会話がはっきりと美波の耳にまで聞こえてきたのだった。



「じゃあ早速やろうよ楓!」


 

 ユウリが待ちきれない様子でリュックをベンチに下ろすとエマに話しかける。



「いいよー。 ただ分かってると思うけど、私あんま時間ないから少しだけね」


「分かってるって。 ちなみにあれからやった?」


「ううん全然。 最後にやったのがユリとやったときくらいかな」


「そっか。 じゃあお互いにフェアだね!」


「いやいや、年齢差考えろし」



 なんだろう……エマとユウリちゃんの雰囲気が全然違う。


 エマが自分のことを『私』って呼ぶのもそうだけど、あそこまで心を許したように気楽に喋っている彼女は初めてだ。 それに『楓』なんて特別な呼ばれ方をされて受け入れてるけど……あれはSNSの名前? ニックネームか何かなのだろうか。

 ユウリちゃんもなんというか……いつものアイドルオーラが全く感じられない。



 美波がそんなエマとユウリのギャップに驚いていると、それに気づいていないユウリはベンチに置いた大きめのリュックからバスケットボールを取り出し数回地面でバウンドさせる。



「んじゃやるよ! この公園にゴールはないからシュートはなし。 何回相手からボールを奪えるかで勝負ね!」


「おっけー!」


「今日は気持ちいい勝利を飾ってぐっすり寝よっかな!」


「ふふん、ユリ、これで私に勝ったことあったっけ?」


「ぶーー!!! 言ったなあああー!!」



 そこから始まったのは以前美波も挑戦して完膚なきまでに敗北した……ルールこそ変わってはいるがタイマンバスケの1on1。

 試合風景はやはり遊びとはいえない結構ガチなもので、美波がそんな2人の様子に目を奪われていると突然ユウリが「ねぇ、ちょっと聞きたいことあるんだけどさ」とユウリからボールを奪いドリブルしているエマに話しかけた。



「どうしたの? 手加減してほしい?」


「ううん、そうじゃなくてさ、美波ちゃんどうしてる?」



 ーー……え、私の話題?



 予想だにしなかった自分の話が始まったことに美波はゴクリと唾を飲み込む。

 もしかして……断ったことユウリちゃんも怒っていたのだろうか。



 そんな一気に緊張感が高まった美波の代わりに「どうしたの急に」とエマがユウリに尋ねる。



「ほら、あの子内定辞退したじゃない?」


「そうだね」


「それで代わりに同じチームだった五條鈴菜ちゃんって子が入ったわけなんだけど……その子がよく心配してるからさ。 『美波ちゃん、連絡くれないけど元気してるかなー』って」



 ーー……え? 鈴菜ちゃんが私のことを?



「へー、優しいじゃん」


「というよりは優しすぎるんだよなー」


「そういやもう1人の……ミナミと一緒に受かってた女の子はどうなの? やっぱ辞退した美波に対して結構怒ってた?」


「そうだね、奈央は最初結構荒れてたけど……今はなんとか落ち着いてるかな」


「そっか。 まぁ思った通りにいかないのが人生だからね。 仕方ないよ」


「ちょっと……それ楓が言わないでよ。 流石にグサってくる」


「あははー、ごめんごめん」



 こうして理由こそは分からなかったのだが、先ほどのエマの言葉がユウリの心をかなりエグッたらしく唐突に1on1は終了。

 ベンチに腰掛けしゅんとしているユウリをエマが「ほら、元気だしなよ」と励ましている。



「そんな一言で元気出たらユリ……ただの単純バカじゃん」


「もう、そんなこと言わずに。 ほら、見ての通り私、元気だよ?」


「それはそうだけど……はぁ」


「もう、仕方ないなぁ。 今晩泊まってく?」


「え、いいの!? いく! 鬼マネに連絡入れるね!」


「いや……単純すぎるでしょ」

 


 2人はそれから軽い会話のラリーをその場で続けると、時間になったのか仲良く公園から去っていったのだった。



「あの2人……めっちゃ仲良しじゃん」



 年齢が違ってもあの親友的な雰囲気。

 もしあの時……鈴菜や奈央からメールが来た際にすぐに返信して理由を直接話していれば、自分も……あのエマとユウリまでとは言わなくても仲のいい関係を続けられていたのだろうか。



「ーー……ほら、やっぱり私ダサい。 結局またあの2人のこと考えちゃってんじゃん」



 美波は再び誰もいなくなった公園で1人ポツリと呟くと、あまりの自分の身勝手さに怒りを覚えながらスマートフォンを強く握りしめた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ユウリちゃんとエマちゃんとは懐かしい組み合わせだな。 エマちゃんは今楓ちゃんか。 実は同い年とは思うまい、小畑ちゃん。 ……いくんだ! いま、ここで! あのソウルメイトに電話しろー!!…
[一言] 気になるもんはしかたないよね! てか、エマさん、ユウリさんや、さすがに迂闊すぎませんかね?
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