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481 【小畑編】特別編・突然の連絡


 四百八十一話  【小畑編】特別編・突然の連絡



 その日、世間が夏休みに入ったタイミングでデビューをすると告げられていたメイプルドリーマー・妹グループオーディションで見事合格した橘奈央と五條鈴菜は、迫り来るデビュー日に向けて一層のレッスンに励んでいた。



「ほらそこ五條!! タイミング遅れない!! それに橘も!! 五條を気にする余裕あるんだったらまずは自分のパフォーマンスを完璧にして!!!」



 レッスン場内。 専属トレーナーが張り詰めた声で2人に怒号を飛ばす。



「は、はいぃーー!!」

「はい!!」



 かなり厳しめの注意を受けてはいるが、2人のデビューと同時に発表する曲はそこまで身体全身を使うような激しい振り付けではなく、マイクスタンド前でやるようなどちらかといえば単純なもの。

 特に今回は主なターゲットを小学生から高校生といった若者に絞っているためそこまで複雑な……覚えるのに時間のかかるものではないのだが……



「ほら五條また同じところ間違えてる!! 今回は単純で覚えやすい振り付けなだけあって、少しのタイミングのズレが命取り……それがかなり目立つのはさっき確認VTR見たときに感じたでしょ!!」


「はい! す、すみません!」


「謝るんじゃなくて完璧にしなさい!」


「は、はい!!」



 レッスンを始めたのはお昼過ぎ。 しかし休憩を途中挟んだとはいえ気づけば時計の短針は数字の『4』を指しており、もう夕方……。

 これ以上は五條の体力・精神力が保たないと判断したトレーナーはその日のレッスンを終了。

 五條に「とりあえず家で今日何回も間違ったところだけでも復習して、明日は休みだから……明後日までには出来るようにしておくように」と声をかけ部屋から出ていったのだった。



「「あ、ありがとうございました!!!!」」



 ◆◇◆◇



「ふ、ふぅう……」



 トレーナーの姿が消えたことで一気に緊張感の抜けた鈴菜がその場でヘナヘナと座り込む。



「つ……疲れた」


「五條、大丈夫?」



 目の前でいきなり崩れ落ちた鈴菜を心配した奈央が生暖かくなったスポーツドリンクを鈴菜に差し出しながら顔を覗かせる。



「あーはい、なんとか。 今日も足引っ張っちゃってすみません」


「ううんそんな。 私だって普通に怒られたし」


「最終オーディションの時とは全然難易度ってか厳しさが桁違いですねぇ……」


「だね」


「私、これでも結構家で復習とかしてるんだけどなぁー」



 鈴菜は仰向けになるようにひんやり冷えた床に寝転ぶと、「なんでだろ……」と小さく呟いた。

 


「ちなみに橘さんも家では結構復習とかしてるんですか?」



 何かヒントがあれば……と鈴菜は奈央に助言を求める。

 しかし奈央から返ってきた言葉は鈴菜の望んでいたものとはまったく違うものとなっていたのだった。



「ううん、私はあまり家ではやってないかな」



 ガーーン!!!!



 まさに月とスッポン。

 自分とは比べものにならない要領・技量を持つ奈央に鈴菜はあからさまにショックを受け「そんなぁ……」と体を回転させてうつ伏せになり、悔しそうに唸りだす。



「ご、五條?」


「ほんとすみません足引張ちゃってええええ」



 鈴菜はかなり追い込まれている……そう感じた奈央は「いやでも五條は頑張ってるよ」と即座にフォロー。

 鈴菜の頭を撫でながら優しく声をかけてみたのだが、鈴菜はゆっくりと顔を上げると奈央をまっすぐ見上げながら静かに口を開いた。



「あ、橘さん……私、分かっちゃった」


「何が」


「ーー……男だ」


「え?」



 奈央が『こいつは何を言っているんだ?』的な視線で鈴菜を見つめ返す。



「絶対橘さん、可愛いし美人だから彼氏いるはずだもん!! そっか!! 橘さんはそんな彼氏に癒されてるから、毎回リフレッシュしてレッスンに挑めてるんだあああああ!!!!」



「は……はああああああああああ!?!??!?」



 行動的になった鈴菜は疲れを知らない。

 鈴菜は勢いよく立ち上がると奈央に詰め寄り「橘さん!!!」と顔面スレスレで名前を叫ぶ。



「な、なに五條」


「私も彼氏欲しいです!!! 紹介してください!!!!」


「いや、いないから」


「うそ!! 絶対にいます!!! じゃないとそんないつもクールにいられません!!!」


「ううん、ほんとにいない。 そもそも男の知り合いもいない。 てかちょっとウザいよ五條」


「ぜったいにウソだあああああああ!!!!!」



 鈴菜は奈央の腕にしがみつくと、欲しいおもちゃをねだる子供のように小さく跳ね始める。

 そしてそんな鈴菜の行動にイラっときた奈央は若干眉間にシワを寄せながらも自身のスマートフォンをポケットから取り出すと、鈴菜に軽く放り投げたのだった。



「ほら、そこまで言うなら連絡先とか……色々調べてみていいよ。 もちろんメールの内容も。 それで流石に信じるでしょ」


「言いましたねーー!!! ゴミ箱フォルダまで細かくチェックして絶対に尻尾掴んでやりますから!! 覚悟してくださいねええええ!!!」



 鈴菜は絶対何か見つけてやると意気込みながら奈央のスマートフォンの電源ボタンをプッシュ。

 すると壁紙が表示され、それは最終審査時に部屋で撮った……本当は自分の代わりに合格してたはずの小畑美波をセンターに交えた3人での記念写真。

 一瞬奈央に視線を向けるもそこには気が回っていないようで「何ちょっと嬉しそうな顔してるの? 早く調べたら?」と逆に挑戦的な態度をとってくる。



「わ、わかりました! 後悔しても知りませんからね!!!」



 それから鈴菜はメールアイコンをタップ。

 しかしそれとほぼ同時……メール画面に切り替わるはずだった画面に視線を向けていると、突然の着信通知が画面上に表示される。

 


「あー! 橘さん、ほら電話きましたよ!! 彼氏ですか!?」


「だからいないって。 鬼マネじゃないの? で、誰から?」


「ちょっと待ってくださいね、今確認するので」



 鈴菜は『できれば男の名前であってくれ』と願いを込めながら奈央のスマートフォンの画面へと視線を戻した。




【着信中】 小畑美波




「ーー……え」



 思わず声が漏れる。



「どうした五條。 誰から?」


「た、橘さん……」


「ん?」



 この感情はなんだろう。

 鈴菜はスマートフォンを持つ手を大きく震わせながら奈央にその画面を向ける。



「美波ちゃんから……です」


「えっ、小畑!?」


「橘さん、出ていいですか!?」


「う、うん!」



 2人は頷きあうとすぐに着信通知をタップ。

 電話に出ようとしたのだが、タッチの差で向こうから電話が切れてしまったのだった。



「み、美波ちゃん……どうしたんだろ。 橘さんは定期的に連絡とってたりしてましたっけ?」


「ううん、前に一度メールしたけど返信来てない」


「私もです……」



 何か用だったのか、ボタンの押し間違いによる間違い電話だったのか。

 鈴菜が「うーーん」と考えていると、そんな背中を奈央がポンと叩いてきた。



「た、橘……さん?」


「とりあえず帰ろう。 ご飯、今日は奢ってあげるから小畑の件は食べながら2人で考えよう」


「え、やった! ありがとうございます!」



 こうして2人はレッスン場を後に。

 鈴菜は自身のスマートフォンの電源をつけると、壁紙にしている写真を眺めて口角をあげる。



「なに五條。 嬉しそうだね」


「はい嬉しいですー! ケチな橘さんが珍しく奢ってくれるんですからー!」



 まさか橘さんも同じ写真を壁紙にしてくれていたなんて……。

 鈴菜はいつも以上に甘えながら、奈央の後ろをついていったのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 久々のアイドルになる二人の登場。 懐かしい。 ダイキの発信がナイスタイミングだったぜ! 小畑ちゃん、ふたりはこんな感じだから安心するのだぞ!
[一言] まぁ、試験と、プロの仕事だと厳しさって変わるよね。 バイトと正社員も厳しさ全然違うし。 頑張れとしか言いようがないな
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