480 【小畑編】ミス!
四百八十話 【小畑編】ミス!
小畑がまさかのオーディション最終審査時のチームメイトと連絡を取っていないという事実。
アイドルゲームやアイドルアニメでよくある女の子同士の絆STORYが大好きだったオレは厳しい現実を知り……あまりのショックでベンチから滑り落ちた。
「ちょ、えええええ!?!? 福田!? どーしたの急に!!! 熱中症!?」
小畑が慌てて地面の上で仰向けに横たわっているオレの顔を覗き込んでくる。
ちなみに小畑が立ち上がる際、履いていた純白パンツが目に入ったのだが……今はそんなことどうでもいい!!
夢を掴もうと一緒に切磋琢磨した仲間同士なんだ。 いくらオレたちを選んだからとはいえ、向こうとの関係を切る必要はまったくない。
「小畑さん」
「なに?」
「ちなみにさっき内定断ってからメール返してないって言ってたけど、どんなメールが来てたの?」
「え」
オレはどうにかその内容を教えてくれと小畑に懇願。
すると小畑は「まぁ……いいけどね。 あそこまで行けたのは福田のおかげのようなもんだし」とスマートフォンを取り出して操作を開始……しばらくして「ほら、これだよ」と送られてきたメールを見せてくれたのだった。
【受信・鈴菜ちゃん】さっき橘さんから連絡あって繰り上げ合格の話貰ったんだけど……美波ちゃん、なんで?
【受信・橘さん】辞めたこと、絶対後悔する。
「おぉ、これは中々にパンチの効いた……」
オレが思わず感想を漏らしながら目を通していると小畑が隣で「でしょ」と力なく笑う。
「文面からもめっちゃ2人怒ってんじゃん? なのにこれにどうやって返信したらいいと思う? 出来ないよね」
「た、確かに」
こればかりは小畑の言う通りだ。
オレはその鈴菜ちゃんって子と橘さんって子の性格とかは分からないけど、確かにこの小畑に送られてきたメールからはかなりの怒りを感じる。
なんだかんだで返信内容を提案しようと思ってたけど、流石にここまで厳しいと何も思いつかないぜ。
しかしこのまま放置を続けていてはあの2人と小畑との距離は離れたまま……なんとかしなくては。
「うーーーーん」
オレは脳をフル回転させながら特に厄介そうな文章……橘さんって子から送られてきていたメールを凝視。
文書が思いつかないのなら、あとはもう方法はこれしか……
オレは一瞬小畑に視線を向けながら送信者名【橘さん】をタップ。 すると【橘さん】のメールアドレスと電話番号が画面上に表示される。
「ん? なに福田。 私の顔になんかついてる?」
うし、いったれ。
ポチ。
オレは強行手段として橘さんって子の電話番号をタップ。
すぐに画面が着信呼び出し中の画面に切り替わったのだがそれとほぼ同時のタイミング……それに気づいた小畑はすぐさまオレからスマートフォンを奪取。 呼び出しを途中で終わらせると即座にオレの顔にグーパンを入れてきたのだった。
「ちょ……なに勝手なことしてんの福田ああああああああ!!!!」
「ブベア!!!!!」
い……痛ってえええええええええ!!!!
「このバカ! バカ!! バカ!!!」
珍しく顔を真っ赤に紅潮させ動揺した小畑がオレのおでこ付近をバシバシと叩く。
「な、なにって……直接話をした方が早く物事が進むかなと……」
「そんなの頼んでないから!」
「小畑さんは……仲直りしたくないの?」
「そ、それはもちろんしたいけど……でももう良いの思い出だけで!! それにあの2人にだって迷惑……夏休み中にデビュー予定で忙しいはずだもん!!」
「で、でもそれなら尚一層、デビューに向けて緊張してるであろう2人に元チームメイトから激励の言葉を……」
「ーー……え」
ん?
一体どうしたというのだろう。
突然小畑はオレを叩くのをストップさせると無言でスッと立ち上がる。
「お、小畑……さん?」
「帰る」
「え?」
「そうだよね、私は最終審査で一緒に踊っただけの、ただの元チームメイト。 なに勝手に1人で踊って仲間感じてたんだろうね。 きっしょ」
そうして小畑はベンチに置いていたランドセルを背負うと「気づかせてくれてありがと福田。 ジュースごちそうさま。 バイバイ」と駆け足でそこから去っていってしまったのだった。
ーー……え。 オレもしかして、やっちまった?
「う、うわああああああああ!!!! ごめん!!! ちょっと待って小畑さんーーーーー!!!!!」
自分の発言ミスに気づいたオレはすぐに立ち上がり小畑を全力で追いかけたのだが、あの地獄のオーディション特訓でかなりの体力を付けていたのだろう……オレの走力・持久力ではまったく小畑には歯が立たず。
最初こそギリギリ見えていた小畑の後ろ姿は、あっという間に見えなくなってしまっていたのだった。
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