455 【西園寺編】真相
四百五十五話 【西園寺編】真相
クリーニング屋さんに行けるという事で緊張の糸が切れかけていたのだろう。 オレが来ていることを知らなかった西園寺は珍しく完全オフな姿でオレの前に現れ、少しの間西園寺母とのいわゆる母VS娘が勃発。 その後西園寺母の運転によりクリーニング屋さんへと向かったわけなのだが……
「なるほどこの箇所の汚れですね。 大丈夫です、落ちますよ」
最終手段でもあったクリーニング屋さんに100パーセント汚れが落ちると聞かされた西園寺。
すると余程その事が嬉しかったのだろう……気を良くした西園寺は西園寺母がオレを自宅マンションまで送ってくれているその道中で昨日の真相を簡単に話しだしたのだった。
「私もどうしようか悩んでたんだけどね。 とりあえず私が昨日の昼休み、お手洗いに行った時のことなんだけど……」
◆◇◆◇
トイレに向かうと奥の個室が少し騒がしい。
最初こそガールズトークで盛り上がっているんだろうなと思い、気にせず空いている個室に入っていたのだが……西園寺は途中でその騒がしさがガールズトークのような楽しいものではない事に気付く。
その理由というのも……
「ほら、ちゃんとこっち視線向けなって。 じゃないと誰か分からないでしょ、あははは」
耳を澄ましてみるとそんな下品な笑い声の奥で微かに聞こえる誰かのすすり泣いている声。
ーー……これはイジメ?
気になった西園寺は個室から出るとその騒がしかった奥の個室へ。
若干扉が開いていたので隙間から中の様子を覗き込んでみると、なんと隣町出身の女子2人が同じ隣町出身校なのであろう女子1人の服を脱がし、スマートフォンで撮影しているではないか。
「だからこっち見なって。 もう顔写ってんだから隠そうとしても無駄、諦めなよ」
「ほんとそれなー」
本人たちもかなりヤバイ行為をしている事は自覚あるのか、加害者サイドの女子たちは外に声が漏れない程度に声のトーンを落として対象の女子を脱がした制服でバシンと叩いている。
「む、無理……です」
被害者サイドの女子は完全に怯えているらしく体をフルフルと小刻みに震えわせながらその要求を拒否。 顔を手で覆いながら加害者サイドの拷問に必死に耐えているのであった。
「そういうのいいから早くしなって。 ほら、その腕退けて」
「私が退かすわ」
「や……やぁあああああ」
これはもう完全なるイジメ。
1年前……自分が天狗だった頃に行っていたものよりも遥かに度が過ぎている行為を目の当たりにした西園寺は考える間も無く扉を開けた。
「なに……やってるの?」
そう声をかけると加害者サイドの女子2人が一瞬驚いた表情でこちらに視線を向けるも、人数ではこちらが有利だと確信したのだろう……すぐに冷静さを取り戻すと西園寺を無視して2人で話しはじめる。
「こいつ誰」
「ほら、4組の西園寺じゃん。 マドンナ候補とか言われてる」
「あー、そんなのいたね興味ないけど。 てかなんでここいんの?」
「知らないよ。 マドンナ候補って呼ばれるくらいなんだから、自分が正義みたいな事したくなったんじゃないの」
「あはは、なにそれウゼー」
まったく動揺していないことからこの2人は同じような経験……イジメている最中に見つかった経験を何度かしており、それをその都度うまく回避してきたのだろう。
加害者サイドの2人は話し合いが終わるとギロリと西園寺を睨みつけ、ゆっくりと西園寺に手を伸ばして胸ぐらを掴み上げてきた。
「西園寺さんだっけ? 悪いけど邪魔しないでくれるかなー。 とりあえずこのまま逃して私らのことチクられてもアレだから……」
なるほど、この子たちは私のこともあの子と同じようにイジメようと……それかあのイジメられている子みたいな写真を撮って、それを脅しの材料に口封じをするつもりなのだろう。
なんだかんだで1年前までは同じサイドに立っていた西園寺はすぐにそのことを察知。
なのでまずは胸ぐらを掴んできていた女子の腕を逆に掴む。
「え、なに!?」
突然の事で驚く加害者女子の声を無視した西園寺は自身の足を軸にして体を捻り、加害者女子に華麗な背負い投げをお見舞い。
かなり手加減をしてあげたのでそこまで痛くはなかったはずなのだが女子の体が宙を舞い……床にトスンと打ちつけられた。
「いったーーい!!!」
声をあげる女子相手に西園寺は「次私に手を出したら手加減しないよ」と軽く警告。 もう1人の加害者女子に視線を移すと、その子はビビったのか西園寺の相手はせずにすぐに床に倒れ込んでいる仲間のもとに駆け寄り「ちょっと大丈夫ー!?」と声をかけだした。
「もうこんな事しない事だね」
西園寺は加害者2人にそう告げると目の前に落とされた制服を軽く叩きながら被害者女子のもとへ。 「ほら、これ着て早く逃げた方がいいよ。 もし今度また何かされたら私を頼ってくれてもいいし」と諭してこれで解決したと思われたのだが……
それは被害者女子がこの場を去ってからすぐ。
未だにこちらを睨みつけてきている加害者女子2人を無視して手を洗ってトイレを出た西園寺だったのだが、その途中でハンカチがポケットに入っていない事に気づく。
「あれ……どこかで落としたのかな」
焦りながらも元来た道を戻っていると再びあのトイレへ辿り着く。
となればハンカチを出したのは洗面台の前だけのはずなのでヒョコっと顔を覗かせてみたのだが……
「え」
そこで目にした光景に西園寺は思わず声を漏らす。
おそらく自分が使っていたところを見ていたのだろう。
加害者女子2人の姿がまだそこにあり、あろうことかまるで自分への当てつけかのようにそのハンカチを勢いよく踏んづけていたのだ。
「!!!!!!!!!!!!」
それからはもう頭に血が上った西園寺を止められるものはどこにもいない。
西園寺は本能のままに中へと飛び込むとその女子たちを容赦なくボコボコに。 号泣し謝罪してきても一切の手を抜かずに怒りの全てをぶつけたのであった。
それから教師たちに見つかり説教を受ける事に。
隣町出身の子がイジメられていた事を告げるも、教師が確認したところその子が否定したらしく信じてもらえず。
帰宅しランドセルを開けると1枚の紙切れが入っており、そこにはこう書かれていたのであった。
お前が私らに暴力振るった音声とかバッチリ撮ってるから。 次邪魔したらこれネットに晒す。
◆◇◆◇
なんという非道。
まさかオレと同じような作戦を使って西園寺を脅すなんて……。
西園寺の話を聞いた西園寺母もこれには大激怒。
「明日学校に相談して相手の両親と話させてもらう」などと言ってたが西園寺が「それでほんとにネットに晒されたらどうするの?」とそれを制止。
西園寺が「大丈夫、私がその子たちに関わらなければ済む話だから……」と悲しげに呟き、車内に重い空気が流れていたのだが……
「よし、その件オレに任せろ」
オレはそんな空気を取っ払うように西園寺に向けて親指を立てる。
「えっ……」
西園寺と西園寺母の視線が一気にオレへと集中。 「福田くん、大丈夫なの?」と西園寺母から心配されるもオレは瞬時に「はい」と答えたのだった。
「でも福田くん……もし失敗したら福田くんまで脅されちゃうかも」
「心配すんな。 オレを信じろ」
オレの大事な友達に喧嘩売るとはいい度胸してんじゃねえか。
それもその方法がオレの初期と似た方法……ならオレはそれを回避しつつ地獄を見せてやるぜ。
オレは西園寺母にも「何か進展あったら連絡します」と伝え、西園寺を脅した女子2人への制裁を決意したのだった。
その日の就寝前。
オレはスマートフォンで電話帳を開きとある人物の名前をタップ。 メールを送った。
【送信・江良麻子】出番だ。
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