454 【西園寺編】母VS娘【挿絵有】
四百五十四話 【西園寺編】母VS娘
西園寺家を訪ねたオレだったのだが、西園寺母に案内された先は西園寺の部屋ではなく何故かリビング。
オレはテーブルの対面に腰掛けた西園寺母の思いつめたような表情から、これから説教でも食らうのではないかと危惧していたのだが……
「福田くん……だったよね。 前に希ちゃんが平日にお邪魔した」
「あ、はい。 その節は本当に助かりまして……」
オレは『え、そこから説教?』と困惑しながら頭を下げると、西園寺母は「あぁ、別にそのことについてどうこう言うつもりはないから安心して頂戴」と僅かに微笑む。
ーー……ん? これオレ別に怒られないパターン?
そう軽く油断していたのだが次の瞬間には西園寺母の表情はすぐに真顔に。
「福田くんは……昨日の希ちゃんの件、知ってる?」と張り詰めた空気を醸し出しながら尋ねてきたのだった。
「えーと……詳しくは分からないんですけど、なんでも同級生に手を出した……とか?」
「そう。 話が早いわね。 それで少し聞きたいことあるんだけどいいかな」
聞きたいこと?
ていうかもう聞いてきてるんですけどね。
一体なんだろうと思いながらもオレは一応「はい」と承諾。
すると西園寺母は「ありがとう」と小さく頭を下げ、早速本題を切り出した。
「福田くんは、なんで希が手を出したのか……とか分かるかな」
「え」
そこから簡単に西園寺母の話を聞いてみたのだが、西園寺母はかなり困っている様子。
どうやら昨夜と今朝に西園寺とその件について話そうとしたのだが、西園寺はその詳細については完全な黙秘。 『あの子たちが悪い』としか返さなかったらしい。
「あの子たちが悪い……ですか」
「そうなの。 あまり反抗してこなかった子だから、何か大きなものを抱え込んでないかが心配でね。 それであの子……希ちゃんが信用してる福田くんなら何か知ってると思ったんだけど……」
「なるほど。 実はオレ……僕も何があったのか聞こうとしたんですよ。 でも僕には言えない理由だそうで教えてくれなかったんですよね」
「そっか……」
西園寺母は深くため息をつきながら背もたれに体重を乗せる。
なんか役に立てないみたいで申し訳ないな……。
しかしそのままこの場でじっとしているのも時間の無駄だったので、オレは西園寺と会わせてもらうよう西園寺母に声をかけようとしたのだが……
ーー……ん?
どうして今まで気づかなかったのだろう。 視線を西園寺母へと向けるその導線上……西園寺母の握っている手の中に見覚えのあるハンカチを発見する。
「福田くん? 何を見て……あ、このハンカチがどうしたの?」
「え、いや……なんで持ってるのかなって」
そう尋ねると西園寺母は「あ、これ? これは希ちゃんのハンカチなんだけど……」と言いながら手に持っていたハンカチをゆっくりと広げていく。
間違いない。 あれはオレが前に……西園寺と一緒に遊園地に行った帰りにプレゼントしたハンカチだ。
それをなんで西園寺母が……?
「なんかあの子、昨日家に帰ってくるなりポケットから取り出して洗面所でゴシゴシと洗い出して……学校から電話が来るまでかな。 私と口論になるまでずっと半泣きで1人で洗ってたのよね」
「そ、そうなんですか」
どうやら昨日の学校でもそんな感じだったらしい。
ボコボコにされた同級生が昼休みの間に職員室に行って報告したらしいのだが、担任や他の教師たちが西園寺のクラス・4組に行っても西園寺の姿は見つからず。 授業時間になっても戻ってこなかったので校内を探し回っていると、人気のないトイレの手洗い場で涙を流しながらハンカチを水洗いしていたとのことだった。
「それで……私と話し合いが終わった後も洗面所に行ってまた洗いだしたからどうしたのか聞いたんだけど、ほら、ここ見える?」
「え?」
西園寺母がハンカチの右上あたりを指差したのでオレはそこに視線を集中させる。
すると僅かにではあるが、うっすらと黒いシミのようなものが。
「ここにちょっとだけシミっていうか……汚れあるでしょ?」
「はい」
「あの子、このシミを落とすために必死だったみたいなの。 よっぽど大事なものなのかな……それで流石に私もかわいそうになって夜に色々試してみたんだけど、完璧には落ちなかったのよね。 だからもう少ししたらクリーニング屋さんに持って行って相談しようと思ってたところだったの」
うわああああああ西園寺!! なんて可愛いやつなんだあああああああ!!!
オレは自分がプレゼントしたハンカチに西園寺がそこまで執着してくれている事に心からの喜びを覚えるとともに、オレも早くその汚れが消えたらいいのにとシミのついた箇所に再び視線を戻す。
「その汚れ……とれるんですかね」
「分からない。 でもこれよりも酷い汚れもとってもらった事あるんだし、多分大丈夫だとは思うんだけど……」
それからオレと西園寺母はそれからしばらくの間無言でそのハンカチを見つめていたのだが……
ん、てことは……待てよ?
オレはリビング内に掛けられていた時計に視線を移す。
「どうしたの福田くん」
「あの……じゃあ急いだ方が良くないですか? クリーニング屋さん閉まっちゃいますよ」
「あら、ほんと」
「うわああああ、時間取らせちゃってすみません!!」
オレは急いで立ち上がり「じゃあオレまた出直してきます」と言いながら西園寺母に背を向ける。 するとそれとほぼ同時……西園寺母が「あ、ちょっと待って」とオレの腕を掴んでくるではないか。
「な、なんですか?」
「わざわざ来てくれたんだし、クリーニングついでに家に送ってってあげるわ」
「え、でも悪いですよ」
「いいのいいの。 もし私と2人きりが気まずい感じだったら……あ、そうだ。 希ちゃんも一緒に連れてくから、ちょっと待っててね」
そう言うと西園寺母はおもむろにスマートフォンを取り出すと耳に当て、「あ、希ちゃん? 今からクリーニング屋さん行くんだけど一緒に行く?」と優しさに満ちた声で通話し始める。
「えええ、わざわざそこまでして頂かなくても」
「だからいいの。 それに希ちゃんもお友達とお話しした方が少しは心も落ち着くと思うし」
◆◇◆◇
それからオレと西園寺母は西園寺が2階にある部屋から降りてくるのを待つ事に。
そして数分後、トタトタと階段を降りてくる足音が聞こえ、リビングの扉がゆっくりと開かれた。
なのでオレと西園寺母は視線を扉の方へと向けたのだが……
「おかーさん、寝癖が治らないからシュッシュするやつ貸してくれな……」
そこに現れたのは下着姿で寝癖がヒョコンと揺れている西園寺。
西園寺は一瞬何が起こったのか分からなかったのか、目をパチパチしながらオレと西園寺母を交互に見比べる。
「え、お母さ……福田くん? え、え?」
そんな西園寺の姿に西園寺母は「はぁああ……」とため息。
娘の恥ずかしい姿をこれ以上同級生の男子に見せたくなかったんだろうな。 西園寺母は困惑している西園寺の前に歩み寄ると、耳元でそっと囁いたのだった。
「とりあえず、服着てきた方がいいわね」
「ひゃ……ひゃああああああああああああああああああ!!!!!」
そこからはもう怒涛の展開。
「なんでお母さん、福田くんがいるって教えてくれなかったの!?」とブチ切れる西園寺に対し、西園寺母も「もうそんなこといいから服着なさい!」と怒り返していたのだった。
いいから急げ。 お店閉まるぞ。
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