453 【西園寺編】暴虐女【挿絵有】
四百五十三話 【西園寺編】暴虐女
綾小路が西園寺に「数日間は学校に来るな」と伝えた翌日。
教室に到着すると、西園寺が同級生に暴力を振るったという噂でもちきりになっていた。
「なによ、物騒な噂ね。 桜子は何か知ってる?」
「ううん、私も今日初めて知ったから……」
オレの席の近くでもエマと結城が西園寺の件について話している。
エマが他の女子から聞いた話では、どうやらこの話が大きくなったのは昨日西園寺にボコられたらしき隣町出身の女子2人が広めていたとのこと。
『ほらこのアザみてよ! あいつにやられたんだけど!』と太ももに出来た青アザを周囲に見せびらかしていたらしい。
「ちなみに桜子はそのアザみた?」
「ううん、私は見てないよ。 あんまり他のクラスの子とは話さないから。 それに今の希はそんなことしない……やったとしても何か理由があると思うんだ」
「そうね、エマもそう思うわ。 でも……心配ね」
「うん」
ちなみにエマや結城が西園寺にメールを送ってみても返ってきてはいないとのこと。
やっぱり西園寺、精神的に病んでるのかなーと思いオレもこっそりとメールを送ってみたんのだが……なんでだろう。 普通に返信来たんだけど。
【送信・西園寺】西園寺、大丈夫かー?
【受信・西園寺】うん。 ありがと。
【送信・西園寺】今どこだ?
【受信・西園寺】家だよ。 昨日綾小路に休めって言われてたし、私もちょっと行きづらかったっていうか……そんな気分になれなかったから数日は休むと思う。
【送信・西園寺】そうか。 帰りに寄って行こうか?
【受信・西園寺】ううん、大丈夫だよ。 それにうちのお母さん、昨日学校から電話きて私と喧嘩したから来てくれても素っ気ない態度とっちゃうかも。 さっきも昨日に続いて第二回戦してたし。
あー、そうだった。 西園寺の母親は世間体をかなり気にするタイプだったんだよな。
西園寺のやつ、さぞかし昨夜は大変だったんだろう。
とりあえずあれだ。 昨日本人も言ってたけど、西園寺がその女子2人に手を出したのは事実。
しかしその理由を話さないということはさっき結城もチラッと言ってたけど何か理由があるに違いない……そう、もう昔の常に凶暴化していた西園寺はいないのだから。
それからしばらくすると担任がきて朝のホームルームが始まる。
オレも多田たちに頼んで昨日の件についての情報を色々と収集しようと考えていたのだが、それは1時間目の休み時間のことだった。
隣のクラス……3組から何やら大きな音が聞こえたので駆けつけてみると、一体どうしたというのだろうか。 かなり怖いオーラを纏わせた綾小路が1人の女子の机をガツンと蹴り飛ばし、胸ぐらを掴んでいるではないか。
周囲の生徒が「ちょっと綾小路さん、何してるの!?」と声をかけるも綾小路はその生徒をギリっと睨みつける。
「ひっ……」
それは凶暴化西園寺まではいかなくとも結構な迫力。 綾小路に睨まれた生徒は怯えながら少しずつ後退りしている。
そしてそんな綾小路は目の前の女子に視線を戻すと静かに囁いた。
「西園寺西園寺うるせーんだよ」
静寂に包まれた教室の中、綾小路の声だけが響き渡る。
「な、なんでそんなこと言われないといけないわけ? 別に綾小路さんには関係な……」
「アァ?」
「ーー……っ」
綾小路の圧に心がやられたのか胸ぐらを掴まれていた女子の足の間には若干の水たまり。
怖さで号泣しだす女子を軽く突き飛ばして尻餅をつかせると、綾小路は怒りのオーラを継続させたまま教卓の方へ。 黒板をバンと叩き注目を集めると、その光景を見つめていた全員を見渡しながらゆっくりと口を開いた。
「西園寺を悪く言ったやつはアタシがぶっ殺す」
それは短くも迫力のある一言。
綾小路がそう発言をすると、数名の男女が気まずそうに視線をそらす。
そして綾小路もこのクラス内で誰が西園寺のことを悪く言っていたかは知っていたのだろう……視線を外したものたちの注意を再び向けさせるために教卓をガツンと蹴りつけると、先ほどよりも大きな声でこう警告したのだった。
「ちなみに今朝からお前らの話は大体聞いてるからな……誰が西園寺の悪口を言っていたのかも。 今、裏で……誰とは言わないけど西園寺組の子が頑張って真相を調べてる。 だから真実が分かるまで西園寺の株が下がるような真似は絶対にするな。 邪魔したやつは容赦しない」
この綾小路の発言はガチだったらしく、綾小路の耳は地獄耳なのだろう……授業中こそおとなしかったものの、休み時間になるたびに怒号や悲鳴が飛び交う始末。
隣町出身のヤンキー気質の女子が抵抗したらしいのだが、見事に返り討ちにされたらしいとエマから聞く。
ちなみにその抵抗には男子も若干いたそうなのだが、急所を蹴られ瞬殺だったとのこと。
「えぇ……綾小路って喧嘩も強いのか?」
「分からないけど、なんでもノゾミが通ってる道場に少し前に通いだしたんだって」
「な、なるほど」
いやもうストーカーじゃねぇか。
まぁでも確かに格闘技習ってる子にほとんどの女子が敵うわけないわな。
流石のオレも『おいおい綾小路……あいつやりすぎだろ』と心の中で思っていたのだが、それはその日の放課後……3組から聞こえてきた綾小路の声で一気に心変わりしてしまう。
「恐いんなら西園寺に連絡して助けてもらえば!? アタシを止められるのもう西園寺だけかもな!!」
お、おいおいおいおい綾小路!!! まさかお前、自分が悪者になって西園寺を……自己犠牲にもほどがあるぜ!!!!
このままではもし西園寺の件が上手くいったとしても、綾小路に向けられたヘイトは残ったままになる。
あそこまでして頑張ってる女子を見て静観しているだけなんてオレらしくもない。
オレはその日の放課後、西園寺の家を訪ねることに。 インターホンを押すと、西園寺の母親が玄関から顔を出した。
「えっと……希ちゃんのお友達?」
「あ、はい。 福田と言います」
今朝、西園寺からメールで西園寺母は昨日からブチ切れてるって聞いてるからな。 慎重にいかねば。
オレは緊張しながらも忘れかけている社会人スキルで丁寧に挨拶……すると西園寺母は「あ、福田くんね。 はいはいはい」と小さく呟く。
「ささ、入って」
ーー……あれ?
あまりキレてるような感じはしないのだが……なんでだ?
とりあえずオレは西園寺母に言われるがまま家にお邪魔することに。
しかし向かわされた場所は西園寺の部屋ではなくリビング。 西園寺母が「あそこ座って」とテーブルを指差す。
「えっと……あれれ?」
状況についていけず困惑していると西園寺母がオレの対面に。
「あのー、西園寺さんは?」
「うん、希ちゃんよりも先にちょっと話したいことがあって」
何やら思いつめたような表情。
え、なに? オレこれから説教されんの?
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綾小路、挿絵では2回目の登場☆第232話『招かねざる訪問者』以来です!!笑




