452 【西園寺編】全てが謎【挿絵有】
四百五十二話 【西園寺編】全てが謎
それは6年生生活にも平穏が訪れてしばらく経った夏の始まり頃。
帰りのホームルームを終えて今日も平和だったなーと感じながらオレが教室から出たのと同じタイミング……1組の多田がかなり焦った顔で「大変だよ福田ー!!」と飛び込んできたのだった。
「ん、どうした多田。 そんな焦った顔して。 三好と喧嘩でもしたのか?」
「違うよ! 佳奈とウチはずっと仲良しだし!」
「じゃあどうしたってんだ」
そう尋ねると多田は周囲を見渡した後にオレの耳に顔を近づけてくる。
「お、なんだキスか?」
「ちっがうよ!! とりあえず聞いて!」
オレは意味が分からないながらも一応多田の話を聞いてみることに。
そしてそこから聞いた話はオレの想像を遥かに超えていたものとなっていたのだった。
「西園寺さんが昼休みに……他のクラスの女子をボコボコにしたんだって」
「えぇえええ!?!?」
◆◇◆◇
あれから約1時間が経過。
多田は塾のためあの後すぐに帰ったのだが、オレは西園寺が放課後になるなり職員室に連れて行かれたことを聞いていたので西園寺が出てくるのを待つことに。
いつになったら西園寺のやつ解放されるんだ? と若干オレも時間に焦りを感じていると、ようやく西園寺が教師に背中を押されながら職員室を出てくる。
「とりあえず手を出した2人には後日ちゃんと謝るように」
「ーー……」
西園寺がどうしてそんなことを。 もしかしたら誰かの罠……冤罪をかけられているのかもしれない。
そういう考察に至ったオレは教師が職員室に戻ったのを確認して西園寺に歩み寄ることにした。
「あ、福田くん……」
「西園寺、ちょっといいか?」
「えっ?」
◆◇◆◇
向かった場所は確実に人目に付きづらい……以前西園寺が1人コソコソと自分の際どい自撮り写真を撮影していた屋上へと続く階段の踊り場。
オレはそこで自分の推理が合っていることを確かめようとしたのだが……
「ーー……ううん、私が実際に手を出したの。 ごめんね、期待を裏切っちゃって」
階段に腰掛けた西園寺が悲しそうな顔でシュンと俯く。
「いや、オレは別に気にしてないから大丈夫なんだけど……その、西園寺は大丈夫なのか?」
「え?」
「とある人から聞いたんだけどよ、お前が手を出したこと……クラスの皆にも知れ渡ってるんだろ? オレはお前がクラスで孤立してないかが心配でさ」
「あー、うん。 まぁ正直に言うとちょっとなりかけてたかな。 前まで仲良くしてくれてた子たちもちょっと怯えた顔してたし」
「ちなみに手を出した理由って……?」
それを聞いた途端、急に西園寺は口を閉じる。
「ん? 西園寺?」
「ーー……言えない」
「なんで」
「特に福田くんには」
「はぁ?」
これは完全に何かを隠しているな。
何故オレに言えないのかは気になるところではあるが……まぁその辺は置いといて、西園寺には何か気分転換が必要だろう。
今のような暗い顔、西園寺には似合わないしな。
「そのー、あれだ西園寺。 とりあえずその話は置いといて、今週末でも気晴らしにどこか行かないか?」
オレが明るめに提案すると、西園寺は若干オレを見上げながら「どこか……?」と尋ねてくる。
「あぁ。 例えば……そうだな、西園寺が落ち着くところでも楽しめるところでも。 あ、前行った遊園地なんてどうだ?」
そうだ。 西園寺のやつ、前に一緒に遊園地に行った時も結構楽しんでくれてたみたいだしそれが最適解かもしれない。 それかもしくは映画とか……
オレはそんなプランを脳内で描き出していたのだが、西園寺の口から出た答えはまったく真逆のものだった。
「ーー……だめ」
「え」
まさかの否定。
オレは思ってもみなかった結果に言葉を詰まらせ西園寺を見つめる。
「えっと、西園寺……なんで?」
「だって今回の件でたくさんの子に怖がられた」
「だからなんだってんだよ。 それとこれとは関係ないだろ」
「ううん、ある。 そこを改善するまでは私……福田くんと出掛けないって決めてたから」
「ええええええ?」
あー、なんか理由こそ分からないけど、前に似たようなこと言ってたような気もしなくもないんだけどなー。
それじゃあこの状況をどうすればいい?
オレが何もできずに黙り込んでいると、なんだろう……下の階の方から猛烈な勢いで階段を駆け上がってきている音が聞こえてくるではないか。
それはドタドタと激しく荒く、しかし体重の軽そうな……
女子たちが鬼ごっこでもしているのかなと考えたのだが明らかに走っているのは1人だけ。
そしてその足音は確実にこちらに向かってきていて……
「ああああああ!!! やっと見つけた西園寺ーーーーー!!!!!!!」
「ーー……綾小路」
そう、そこにいたのは額から滝のような汗をかきながら息を切らしている綾小路の姿。
かなりの時間探し回っていたのだろう、綾小路は西園寺をようやく見つけた安堵感からか若干表情を緩ませながら西園寺に歩み寄っていく。
「はぁ……はぁ。 西園寺、探した」
「なんでここが分かったの?」
「ランドセル……まだ教室に置いてたから」
「それでなんでここだって?」
「アプリ。 前にこっそりお互いの位置情報が分かるようになるアプリを西園寺のスマホに入れといたから。 ただこれ使ったら相手にも通知が行くから出来るだけ使わないようにしてたんだけど……」
「ーー……そうなんだ」
おいおい『そうなんだ』で済ますんじゃねええええええええ!!!!
ていうかこいつ……上級者だああああああああああああ!!!!!
西園寺気づいてくれ! 今のお前は病んでるから会話を流してるだけなのかもしれないが、綾小路……こいつ犯罪ギリギリのラインを攻めてんぞーー!!!!
とはいえオレも心の中で叫んでいるだけなので西園寺にはもちろん伝わらず。
そしてそんなオレのことなど気にもとめず、綾小路は西園寺に顔を近づけ……こう囁いたのだった。
「西園寺……」
「なに?」
「ちょっと数日学校休んで。 それをどうしても伝えたくて」
「「え」」
オレと西園寺の視線が綾小路へと注がれる。
「それは綾小路……なんで?」
「内緒」
そう端的に答えた綾小路は西園寺の肩をポンと叩くと、「分かった? 絶対来んなよ?」とだけ伝え、帰っていってしまったのだった。
お読みいただきましてありがとうございます!!
下の方に星マークがありますので、評価していってもらえると励みになります嬉しいです!!
感想やブクマ・レビュー等、お待ちしております!!!




