451 【共通】なよ竹の○○
四百五十一話 【共通】なよ竹の○○
「なぁエマ、ちょっと気になったことがあったんだけどさ」
平和な6年生生活を過ごしはじめたある日の休み時間、オレはフと頭を過ぎった疑問をエマに尋ねることにした。
「なに?」
「なんだかんだでオレらの学年って平和になったわけじゃん? 隣町出身の奴らとも仲良くするようになって」
「そうね」
「そこでオレ思ったんだよ。 他の学年ってどうなんだ?」
そう……どうして今まで気にならなかったのだろう。
それはもちろん『自分たちの学年のことで精一杯だった』と言えば済む話だが、逆に他の学年で起きた問題とか全然耳にしていなかったのだ。
オレらの学年では初日から暴動が起きたというのに……。
そんなオレの疑問点を聞いたエマは「確かにそうね……」と頷く。
「エルシィはいつも通り『たのしー!』って言ってたからあまり気にしてなかったけど……それが本当なのか気になるわね」
「だろ?」
気になったオレたちは給食前に直接聞いてみることにした。
◆◇◆◇
「まず5年生だが……5年の生徒たちはあれだ、2組の小畑の件で一気に沈静化したぞ」
「「おぉ……」」
どうやら5年生は年齢も1つ違いということで、辞退はしたもののアイドルオーディションに見事合格したドSの女王・小畑のファンがかなりいるらしい。
5年生の間では小畑はこの学校で1番のアイドルとのことで、その姿を近くで拝めたり会話をしちゃった日には自慢話で溢れかえり……それはそれは出身校関係なく盛り上がっているそうだ。
ーー……これ聞いたら小畑、喜ぶだろうな。
ちなみに4年生・3年生はまだ悪ガキに染まっておらず少し怖めの教師を挟んだことで沈静化に成功しているとのこと。
逆に1年生は純粋なスタートなので全く問題なく平穏な時間を過ごしているらしい。
「へぇ……なんか意外でした」
オレが小声で感想を述べると担任が「そうか?」と尋ねてくる。
「はい。 だってオレ……僕らの代はかなり荒れて大変だったじゃないですか。 なんだかんだでどの学年も争ってるのかと思ってましたので」
「まぁ基本荒れるのは高学年からって感じだからな。 6年生まではいかなくとも5年生も最初は色々と大変だったらしいぞ。 学年主任の先生は小畑に感謝してたしな」
「なるほど」
ということはもうこの学校全体が平和の空気に包まれてるってことじゃないか。
オレが「よかったよかった」と安心しているとエマが「え、それで2年生は?」と尋ねている。
「どうしたエマ。 さっき先生が全学年平和って言ってたろ」
「ううん、思い出して。 先生が言ってたのはエマたち6年生を除いて5・4・3・1年生の話しかしてないの。 エルシィのいる2年生の話をしてなかったじゃない」
「ん? あ、確かに。 でもあれじゃないか? 結局同じ内容だから省略しただけじゃね?」
だって毎回毎回同じ内容を説明するのも面倒だもんな。
ゲームのチュートリアルをスキップするように、担任も『もう2年生言わんでも分かるか』くらいのノリで飛ばしただけだろう。
オレはドヤ顔で担任に「ですよね?」と同意を求めてみることに。
しかしどういうことだろう……担任はオレの問いかけに首を縦に振らず、「んーー」と何か言いづらそうな表情をしながら腕を組み出したのだった。
「え、先生?」
「どうされました」
オレとエマの視線が担任へと注がれる。
そして担任もこのまま話から逃れるわけにもいかないと思ったのだろう、「ここだけの話……いや、これは伝えといた方がいいか」と視線をオレではなくエマ単体へと向けゆっくりと口を開いた。
「そのな、エマ。 2年生全体としてはまぁ平和……なんだが、お前の妹のいるクラスのみ、ある意味平和である意味争いがあるんだ」
「え……どういう意味ですか?」
エマが緊張の面持ちで尋ねると担任は再び「んんーー」と唸る。
「ちょっと先生!」
「んー。 こればっかりはな、俺の口からどう説明すればいいか……」
結局担任はそれ以上のことは話さず。
「気になるのなら……昼休みにでも見に行ってみろ」とだけオレたちに伝えると、ワザとらしく「あ、午後の授業の準備どうだったカナー」と足早に職員室へと去っていったのだった。
「ーー……エマ、どうする?」
「そんなの決まってるじゃない。 先生の口から言えないなんて、よっぽど面倒なことになってるはずよ! もしエルシィが嫌なめにあってるのだとしたら助けにいかないと! こうしちゃいられないわ!」
こうして給食後の昼休み、オレとエマはエルシィちゃんの教室の偵察に行くことに。
しかしまさか、そこであんな光景を目の当たりにすることになるなんて……
◆◇◆◇
オレとエマが目にしたもの。 それは……
「それでは次の算数の授業では必要なものがあるので、算数係は昼休みの間に職員室まで取りに来てくださいね」
2年生のとある教室。
偶然覗いたクラスが運よくエルシィちゃんのクラスだったようで、担任の高槻さんが「分かりましたかー?」と声をかけると算数係なのであろうエルシィちゃんともう1人の男子が「「はーい」」と返事をしている。
そして高槻さんが教室を出て職員室に向かったのとほぼ同時……事件は起こったのだった。
「エルシィさんボク行きます!!」
「いやいや僕が代わりに行ってきます!!」
「邪魔しないで! エルシィさんの代わりは隣の席の俺が行くんだ!!」
「フザケンナ俺だ!!」
「オレ」
「僕!」
「僕!」
「オレ!!」
な……なんという光景だろう。
エルシィちゃんを争って男子たちの戦いが繰り広げられているではないか。
これにはエマも驚きを隠せないようで口元に手を当てている。
「なぁエマ……エルシィちゃん、めっちゃモテてんぞ」
「そうね……これはエマも意外だったわ」
オレとエマはとりあえずまだ手出し等の暴力はないのでこの場を見守ることに。
男子たちの言い争いは徐々にヒートアップしていき、それに比例して女子たちがそんな男子たちの姿を見て明らかに嫌な顔をしながら距離をとりはじめる。
これが続くと女子たちが萎縮しすぎちゃうのではないか……? そんなことをオレが心配していると、男子たちに囲まれていたエルシィちゃんが「はーい、みんな、おりこーすゆのよー」と立ち上がった。
「「「「!!!!」」」」
皆がエルシィちゃんの言葉を聞き漏らさないよう一斉にお口をチャック。
先ほどまで騒がしかった教室内は一気に無音の空間へ。 そしてそんな静寂に包まれた中でエルシィちゃんはゆっくりと口を開いた。
「じゃあ、エッチー、いってくゆのよー」
「待ってエルシィさん、ここは僕が!」
「いやオレが!」
「おれが!!!」
男子たちの中でも飛び抜けてエルシィちゃんガチ勢みたいな連中がエルシィちゃんの目の前へ。
「どうかオレに行かせてください!」と頭を下げる。
「んー、でも、まいてんてー、さんすーがかり、いってたのよー?」
「そんなの僕らが勝手に立候補したって言うから!」
「そうそう!! だからエルシィちゃんは俺たちの中の誰かにお願いしてくれるだけでいいの!」
「ウンウン! それでその嬉しい役をぜひ僕に!」
なんか見ている自分が情けなく思えてくるぜ。
オレは隣で観察しているエマに「なぁ、ほんとにエルシィちゃん……向こうでイジメられてたの?」と尋ねる。
「そうよ。 だから日本に来たんじゃない」
「でもさ、あれ見ろよ。 めっさモテモテで……イジメられる要素まったくないぞ」
「まぁ海外の子供は日本よりもかなりマセてるからね。 日本の小学校でも3・4年生あたりからイジメの数が増えていくのと一緒よ」
「なるほど、そういうもんなのなー」
しかしエルシィちゃんはこの状況、自分がモテていることに気づいているのだろうか。
男子たちはエルシィちゃんのお願いをどうにか自分が受けるために必死……これは最終的にエルシィちゃんが自ら動いて終わるのか? そう考え始めていたオレだったのだが、その結末はまさにエルシィちゃんらしいものだったのだ。
再び騒がしさが戻ってきたあたりでエルシィちゃんが「あ、じゃあエッチー、いいこと、おもいちゅいたのよー!」と満面の笑みで周囲を見渡す。
「「「いいこと!?!?」」」
これは後から聞いたんだけど、この『いいこと』。 オレもそうだったのだがエマもジャンケン等で決める結果になると思っていたらしい。
しかしエルシィちゃんの思いついた『いいこと』とはオレたちの想像を遥かに超えたもの……皆が改めてエルシィちゃんに視線を集め出すと、それを確認したエルシィちゃんはこう高らかに宣言したのだった。
「エッチー、さいきん、おもしろいホン、よんだのよー? もういっかい、よみたいから、それを、もってきたヒトに、おねがいすゆー」
「!!!!!!」
パァン!! というおそらく男子たちにしか聞こえないのであろうスタートの合図が鳴り響き、男子たちが教室の扉というゲートから一斉に図書館めがけて駆けていく。
「よっしゃ!!」
「待っててね!!」
「オレが勝つ!!!」
まさに最近リリースされたマラソンゲームさながらの大迫力。
しかし男子たちがいなくなったことを確認したエルシィちゃんはそんな男子たちのことなどお構いなしに、もう1人の算数係の子に「じゃあ、いっしょに、いくのよー」とニコニコしながら職員室へと向かったのだった。
「な、なんつーか……エルシィちゃん、無茶振りにもほどがあるだろ」
「そうね、我が妹ながら恐ろしいわ」
「実はエルシィちゃん、めっちゃ頭いいんじゃね?」
「それエマも思った。 もし仮にあれが無意識なら……将来が末恐ろしいわ」
こうしてエルシィちゃんが中心で成り立っていると知ったオレとエマはエルシィちゃんの力量に驚きながら教室へと戻ることに。
そしてその途中、エマが小さく「いや、でも流石にあのエルシィの発言は恐いわね」とつぶやく。
「ん、どうした改まって」
「あのね、エルシィさっき『最近読んだ面白い本持ってきて』って言ってたでしょ」
「うん」
「エルシィ……確かに家でもたまに本は読んでるんだけど、それはフランスから持ってきたものや日本語だと幼稚園レベルの昔話やおとぎ話。 学校で借りてきた本なんて1冊もないはずよ」
ーー……え。
「てことはあの男子たち、あるはずのない正解を探しに図書館という本の海原へ向かったってことなのか?」
「そういうことになるわね」
「なんかそれ……あれに似てるな。 ありもしない物を要求して持ってこないと結婚しませんってやつ」
「あぁ、かぐや姫?」
「それだ」
まさに現代に蘇った洋風の金髪ロリかぐや……いや、KAGUYA姫。
オレはそんな光り輝く姫に魅了され、恋してしまった男子たちを不憫に思うのであった。
お読みいただきましてありがとうございます!!
下の方に星マークがありますので、評価していってもらえると励みになります嬉しいです!!
感想やブクマ・レビュー等、お待ちしております!!!




