447 【結城編】どうしてここにいる【挿絵有】
四百四十七話 【結城編】どうしてここにいる
「ーー……あれ、ダイきちくん?」
その声を発した人物を見てオレはその場で固まる。
だって仕方ないだろう? そこにいたのはなんと……
「え……えっと、美香……じゃなかった、茜……なのか?」
そう、そこにいたのは神様が創造した『与田美香』という身体に魂を転生させてもらった元中学生の女の子……堀江茜だったのだから。
オレが目を大きく見開きながら茜を見つめていると、茜が「そうだけど……え、どうしたのダイきちくん、そんなに固まっちゃって」と不思議そうに首を傾げる。
「いや……ていうか茜、どうしてここに?」
そう尋ねると茜は「あ、そっか。 引っ越すってことは教えてたけど、詳しくどこに引っ越すかは教えてなかったね」と小さく舌を出して微笑んだ。
「てことは……」
「そうだよ。 私、ここからちょっと離れたところに引っ越したの。 もしかしたらダイきちくんいるんじゃないかなーって6年生の男子を観察してたんだけど……私の小学校、制服じゃなかったから別の学校だったんだね、残念」
「マ……マママママジか! なんで連絡してくれなかったんだよ」
「いや、ちょっと前にダイきちくんあっちで会いにきてくれたことあったじゃない? ほら……お守りのとき」
「あ、うん」
「あの後少ししてからそうだ、もしかしたら同じ学校かなって思って電話してみたんだけど……なんか電話越しから『クヒヒ』って人じゃないような声が聞こえてきたから番号変えちゃったのかなって思って消しちゃったんだよね」
「ええええええええええええ!!!!!」
それってちょうどオレが階段から足を踏み外して……天界に『お久しぶりです』していた頃じゃないか!!
その頃の記憶を一気に思い出していく。
「えっと茜……今お前、電話から『クヒヒ』って聞こえたって言ってたよな」
「うん」
「オレ確かそいつに驚いて階段で足踏み外したんだよ!! 最近見ないから安心してたんだけど……茜との連絡を遮断しやがったのか許さねええええええ!!!!」
なーんかこのダイキの体に天界からダイブした時にクヒヒの霊と話したような気もするが、覚えてないから仕方ねぇ!!
オレはクヒヒ野郎に怒りを覚えつつも、「とりあえず今は」と再び連絡先を茜に教えながら当時のことを簡単に話すことにしたのだが……
「へぇー、ダイきちくん、あれからそんなことあったんだ」
オレの話を聞いた茜が「大変だったね」とオレを労う。
「そうなんだよ、あのクヒヒ野郎許さん……もう今はいなくなってるだろうけど今度会ったら覚えとけよ」
「え、多分それダイきちくんの後ろにまだ……」
「エ」
◆◇◆◇
ちなみに先ほどの茜の発言はスピリチュアルジョークとのこと。
茜は「ちょっとダイきちくんを驚かせてあげようかなって思って」と笑いながら若干顔の青ざめたオレの頭をヨシヨシと撫でてくる。
「ほ、ほんとなんだな?」
「もちろんだよ。 それにもしさっきの私の言葉が本当だとしても、気づいてないのなら別になんの害もないし」
「どっちだよ!!!」
実際のところは本当かどうか分からないのだが……とりあえずは茜を信じておくことにしよう。
しかしそれよりも……
オレは改めて茜をジッと見つめる。
「ん? なにどうしたのダイきちくん」
「あのさ茜、聞いていいか?」
「なに? 幽霊ならさっき冗談だって……」
「違う。 それはまぁ今は置いといて……なんでここに茜がいるんだ?」
「え?」
「もしかしてまた変な病気が……」
オレは以前、茜と一緒に読んだ神様からの手紙の内容を思い出す。
茜宛に書かれた内容にはーー……
『美香の体はとても神聖だから、今後病気になることもなければ大きな怪我をすることもない』
そうだ、確かそんな感じで書かれていたはずだ。 それを読んでオレは茜の今後を安心したんだからな。
なのになんで……
そんな感じで茜の体調のことが急に心配になりだしたオレだったのだが、茜もそんなオレの表情を見て気づいたのだろう。
「あー、そういうこと? 私がまた病気になったのかもって心配してくれたんだね。 大丈夫、元気だよ」と顔を左右に振り否定し始める。
「いやいや嘘つくなって。 じゃあなんで茜病院いるんだよ。 不調じゃなかったら来るわけないだろ」
結城の引越しにブルーになっている時にこれかよ!!
オレが新たな闇で更に押しつぶされそうになっていると、茜は「本当に違うの、聞いてダイきちくん」と目の前でしゃがみ込んだオレの背中をさすってくる。
そして茜はオレの返事を待たずに、何故茜がここにいるのかを話しだしたのだった。
「実はね、私は見ての通り元気なんだけど……お母さんたちが心配性になっちゃってて。 私を定期的に健康診断に連れてきてるだけなんだよね」
「ーー……え?」
「ほら、その証拠にこれ……」
茜がスマートフォンを差し出してきたので視線を向けてみると、そこに表示されていたのは本日茜の母親から茜宛に送信されたメールの内容。
オレはそれに目を通していく。
【受信・お母さん】今日は健康診断行くから、学校終わるくらいに校門近くで待ってるね。
「おお……本当だ」
「でしょ? 心配しすぎだよダイきちくん。 でもありがと、嬉しかったよ」
どうやら茜の母親は診療室で医師に茜の健康状態の話を聞いているとのこと。
オレは心底ホッとして胸をなで下ろしていると、後ろから「あ、いた。 福田……くん」とオレの名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あ、そうだった」
茜の件で忘れかけていたぜ……振り返ってみると買い物を終えた結城がオレを見つけ駆け寄ってきていたのだった。
◆◇◆◇
「あれ、福田……くん、この子は?」
まぁそうなるわな。
オレは結城と茜にお互いのことを軽く紹介することに。
「2人とも共通で陽奈の友達」と説明しただけで2人は納得し、互いに小さく頭を下げて挨拶。 数分ではあるが陽奈トークで少し盛り上がっていたのだが……
「それで……ダイきちくんはそちらの結城さんとどうしてここに?」
そう茜が尋ねると結城が「あ、それは私のママがここで入院しててお見舞いに……」と答える。
「そうなんだ。 あ、じゃあ少しでいいから私も一緒について行っていいかな」
「「え?」」
「もしかしたらだけど……力になれると思うんだ」
力になれる……?
茜は一体何を言っているのだろう。
ともあれ結城も茜のことはこの少しの時間で安全だと認識したのか同行を許可。 3人で結城母の病室へと向かったのだった。




