442 愛!
四百四十二話 愛!
雨の中、小畑家から帰還したオレ。
その途中でエマには【とりあえずなんとかなった。 詳細は小畑さんから聞いてくれ】とだけメールを送り、とりあえずのミッションを成功させたという達成感に満たされながら家のソファーでくつろいでいたのだが……
「あ、そうだダイキ、先週ウチに来た森本翠さん来たでしょ?」
夕飯準備中の優香が相変わらずの尊くも食欲をそそる香りをキッチンから漂わせながらオレに声をかけてくる。
「翠……さん? あーうん、週明けに来るって言ってたんだよね。 それがどうしたの?」
「ダイキが帰ってくるちょっと前に翠さんから電話があってね、お仕事長引いちゃってるらしくて……明後日の夕方くらいに来れるんだって」
「そうなんだ」
早く妹だった翠と久しぶりに話したかったオレだったのだが、一応あまり気にしていない様子を漂わせながら返事をする。
そして早く明後日にならないかなと心の中で呟いていると、「あ、それとね……」と優香が新しい話を切り出してきた。
「なに?」
「これは今さっきメールが来たんだけど……」
「うん」
「佳奈ちゃんが今ウチに向かってるんだって」
「へぇー……」
ーー……え?
「はああああああああああああああああああああああああ!?!???!??!?」
まさかと思い自分のスマートフォンの電源を付けてみると……これはオレがエマにメール送信した後に来てたらしいな。 まったく気づかなかったのだが三好からのメール受信通知が数件届いていた。
【受信・三好】美波から連絡きた! アイドルより私らといる時間を選んだって!
【受信・三好】美波と電話した! 福田や私らのおかげって美波言ってた! 泣ける!
【受信・三好】ちょっともうじっとしてらんない。 今から行っていい?
【受信・三好】行く!
ーー……まじか。
◆◇◆◇
「あぁーーっ!! 福田あああーーーー!!!!」
あれからしばらく。
インターホンが鳴り玄関の扉を開けると、そこには涙でぐちゃぐちゃな顔の三好の姿。
「ちょ、三好おまっ……! その顔で来たのかよ」
「だっで仕方ないじゃん……!! 美波とまだ一緒にいれるって思っだら、うれじぐで……うわああああん!!!」
「それでなんでわざわざオレのとこに来るんだよ! 他にもいるだろ、エマとか多田とか……それこそ小畑とか!」
とりあえず玄関前で号泣されても勘違いされると感じたオレは一旦三好を中へと入れることに。
優香に軽く事情を説明し、三好の話を聞くことにしたのだった。
◆◇◆◇
「ええー!? 美波ちゃん、アイドル審査合格したのに辞退しちゃったのー!?」
夕食の準備が終わり、三好の話を一緒に聞いていた優香が小畑のアイドル辞退話を聞いて驚きの声を上げる。
「そうなんです……! 美波、アイドルになりたいってのは変わらないらしいんですけど、小学校は私らと一緒に過ごして……卒業したいって」
「あ、ほんとだ。 『内定者が辞退したから1人繰り上げ合格した』って公式ホームページに書いてる」
優香が「ほら見て」と言いながら画面を見せてきたので覗き込むと、確かに小畑辞退の件は運営にも話が通ったらしく早速新内定者の名前を公表していた。
【繰り上げ内定】五條 鈴菜
「ごじょうすずな……へぇー」
オレが「なんか珍しい苗字だねー」と呟いていると、三好が「なんかその子、美波と一緒に踊ってた子らしいよ」と追加情報をオレに教えてくる。
「そうなの? あ、もしかしてあの……あれか! カチューシャの美人か!」
「ううん、その人は一緒に美波と合格してた橘奈央って子だよ。 もう1人いたの覚えてる?」
「もう1人……っていうと、あ、おでこ出してた髪がちょい長くて可愛かった子か!」
オレが記憶を辿りながら尋ねてみると、三好は前回の最終審査のステージ映像の動画を再生しながら「うん、そうそうその子。 え、福田よく覚えてたね」と感心しながら視線をオレに向けてきた。
「まぁな。 なんだかんだでガチで応援して観てたからな」
「それにしてもあれだね、福田はこういう鈴菜ちゃんみたいな子が可愛いって思えるんだ……」
三好が「ふーん、なるほどねー」と軽く眉間にシワを寄せながら新たな合格者・五條鈴菜の顔をまじまじと観察し始める。
「ん、なんだ? おかしいか?」
「別にー。 ただ、そうなんだって思っただけー」
なんなんだこいつ……面倒くせえええええええ!!!!!!
そんなこんなでなぜか三好もうちで晩御飯を食べてから帰ることに。
案の定三好は優香との話が盛り上がり、オレは無言で食べることを余儀なくされ三好に軽く嫉妬していたのだが、それは三好と優香のとある会話……
「まぁあれですよね。 美波、私らといる時間を選んでくれたのは嬉しいんですけど、ちょっとだけ責任感じちゃってるんですよね。 私らが美波の夢の邪魔になってんのかなって」
優香お手製の料理を口に運びながら三好が複雑な表情で微笑む。
まぁ……確かにそうだよな。
なんだかんだで小畑も今後絶対に他のオーディションで合格するっていう保証があるわけではない。
小畑がオレたちを選んでくれたことは心の底から嬉しいのだが、果たしてそれが小畑のためだったのかと聞かれれば即答で『はい』と答えれる自信はないんだよな。
ここは心を鬼にしてでも『いや、行け』と声をかけたほうが良かったのではないだろうか。
そんなことを考えながらもオレはあえてその会話には参加せず。
するとそんな三好の悩みを聞いた優香は「なるほどねー」と呟き、そしてその次に発した言葉にオレは衝撃を受けたのだった。
「まぁでもあれだよ、佳奈ちゃん。 もし私が美波ちゃんの立場になったとしても、多分そうしてると思うよ?」
「?」
そう言うと優香は視線を三好からオレに移動。
その後クスッと優しく微笑むと、ゆっくりと口を開いた。
「私ももし高校3年生になって……めちゃめちゃ頭のいい大学の推薦が貰えたとしても、それが地方とか……ダイキに寂しい思いをさせちゃうことになるんだったら、私はその推薦、今回の美波ちゃんと一緒で辞退するかなー」
「ーー……!!!!」
お姉ちゃあああああああああああん!!!!!!
その言葉に解説なんて必要ない。
ただただ愛に満ち溢れた言葉を受け、オレの目からは大量の塩水が頬を伝い落下。 それから口にした優香の料理にすべて塩辛さが追加されたのであった。
そんなオレの姿を見た三好がポツリと一言。
「ーー……シスコン」
「うるせえ!!!! 好きなもんは仕方ないだろ!!! そうだオレはシスコンだお姉ちゃん大好きだ文句あるか!!」
「ダイキがシスコン……お姉ちゃんのこと……大好き……? あはんっ!!!」
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