440 大切なもの
四百四十話 大切なもの
「す、すすすすみませんっしたああああああああ!!!!」
小畑家・玄関前。
インターホンを押し小畑母が家から出てきたと同時にオレは深々と頭を下げた。
◆◇◆◇
小畑母に訳を話してしばらく。
今回ばかりは小畑母の少し抜けたような性格に助けられたな。 オレは小畑母に「そんなそんな! こっちこそみぃちゃんをわざわざ家まで送ってくれてありがとうね!」と何故か激しく感謝され家に上げてもらうことに。
雨で濡れていて寒がっていると思われたのだろう……タオルを渡され髪を吹いていると、「これでも飲んで温まって」とミルクティーを出され飲んでいたのだが……
「ママ……ちょっといい?」
部屋着に着替えた小畑が表情を曇らせながら小畑母に声をかける。
「どうしたのみぃちゃん」
小畑……言うんだな。
小畑は「ちょっと話したいことがあって……」と言いながらオレの隣に腰掛ける。
そしてそれを見た小畑母は何かを察したのだろう……「あ、そうなのね……」と視線を小畑とオレへと向けた。
「もしかしてみぃちゃん……」
「うん。 多分ママももう分かってるかと思うけど……そういうこと」
「ええええええ!?!? みぃちゃん、福田くんとお付き合いすることになったのーー!?!?」
「「ええええええええええ!?!?!!?」」
どんな脳をしていればそんな思考にたどり着くのだろう。
そんな小畑母の発言に小畑が真っ先に否定。 「そ、そんな話じゃない!! アイドルオーディションの話!!」と机に手をつき体を前の乗り出しながら「なんでそーなんの!?」と母親にツッコミを入れた。
「え、あ……違ったの? ごめんなさい、ママ早とちりしちゃって」
「そもそもみぃ……私と福田、そんな関係じゃないし!!」
「でも前にみぃちゃん、『福田くんは私のこと好き』って……ねぇ福田くん」
「え、あ……」
何故オレに振る!!!!
「そうです」と答えた場合は小畑との関係に変な溝が出来そうだし、逆に「違います」なんて実の母親のいる前で言えるわけがないだろ!!!!
オレがそんな2択で迷っていると、痺れを切らした小畑が「もう、そんなことはどうでもいいから! みぃの話を聞いて!!!」と小畑母に詰め寄り、先ほどオレにも話した内容……オーディション内定を辞退しようと思っている旨を話しだしたのであった。
◆◇◆◇
「みぃちゃんが決めたのならママは別に構わないんだけど……本当にいいの?」
話を聞いた小畑母が優しい口調で小畑に問いかける。
「うん」
「今までダンス教室とか頑張って通って……オーディションも受けてやっと受かったのに?」
「うん」
「ずっとみぃちゃんが憧れてたアイドルになれるんだよ?」
「うん」
「それなのになんで?」
「それは……」
小畑はそう呟くとゆっくりと視線を小畑母からオレへと移動。
一体どんな理由なのだろう……それはオレも気になっていたことなので、オレも視線を小畑に合わせて静かに見つめていたのだが……
「多分みぃ、今回のオーディションも、1人で受けて受かってたら喜んでグループに入って……喜んで転校してたと思うんだ」
小畑が優しい表情でオレに微笑みかける。
「え」
「みぃちゃん……」
「でもね、なんて言うのかな……多分それがダメだったの。 みぃ、そこでみんなのこと今まで以上に大好きになって……でもそれでもアイドルにはなりたかったから転校は仕方ないって思ってたんだけど、今日佳奈たちにおめでとう会を開いてもらって……あぁ、みぃ、アイドルになるっていう夢を叶えるより、後1年っていう期間だけどみんなと一緒に過ごしたいなって」
小畑は「だからママもそうだけどその……ごめんね。 色々してもらったのに」とオレの手をとり小さく頭を下げた。
「みぃ、やっぱみんなのこと好きだわ。 中学になったら、例えば麻由香は私立行っちゃうし離れ離れになっちゃうって知ってるんだけど、だったらみぃはそれまでの期間みんなと一緒にいたいし、同じ時間を過ごしたい。 もちろんこれはみぃのわがままで、オーディションの人たちにも一緒に受かった橘さんにも迷惑がかかるって分かってる。 頭を下げろってんなら何度でも下げる。 でもみぃはみんなと一緒にいたい」
それはおそらく小畑の心からの言葉。
それからも小畑は涙ながらにいかに自分がアイドルになりたいという夢よりもオレたちと一緒に過ごす方が大事なことなのかをオレと小畑母に力説し、それを聞いたオレや小畑母もつられて涙目になっていたのだった。
「じゃあ……本当にいいのねみぃちゃん。 だったら事務所の方を待たせるのも悪いから今からママ、断りの電話を入れるけど」
小畑母の最終とも取れる確認に小畑は「うん」と迷わず頷く。
「分かった。 じゃあ、かけるわね」
「ごめん。 もしあれだったらみぃがかける」
「いいの。 娘が謝ってる姿なんてママ見たくないもん。 でもママも謝ってる姿を娘に見られたくないから……ちょっとごめんね」
そう言うと小畑母は大切に保管していたのであろう書類を食器棚から取り出すと、スマートフォンを耳に当てながら別室へ。
それから数分後、「事務所の方、分かったって」と言いながらリビングに戻ってきたのだった。
「ママ……ありがと」
「いいよ。 でも、これでみぃちゃんは転校する必要もなくなって……みんなと一緒に居れるわね」
「うん……ママ、本当にごめん……なさい」
緊張の糸が一気に解れたのか小畑はその場で机に突っ伏し大号泣。
ここはもう小畑母に任せた方が良さそうだよな……オレは静かに立ち上がると小畑母に「じゃあオレ、帰ります」とアイコンタクト。 小畑に気を使いながら静かに小畑家を後にしたのだった。
帰り道。 未だ雨は普通に降っていたのだがオレの心は何故か快晴状態。
だってそうだろう?
小畑は前々から言っていたアイドルになりたいって夢よりもオレたちを選んでくれたんだ。
もちろんそれを勿体ないとか言う人もいるだろうけど、それだけ大切に思われているってかなり幸せなことだよな。
小畑……残り1年の小学生生活、一緒に謳歌しようぜ!!!
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