438 特別編・揺れる少女
四百三十八話 特別編・揺れる少女
「今回の合格者を発表します」
模擬ステージを終えしばしの休憩を取った後、ホテルロビーに集められた美波たち参加者の前でスタッフが大きく声を上げた。
「とうとう来たね……」
美波はあまりの緊張から隣に立っていた鈴菜に声をかける。
すると鈴菜も緊張していたのだろう……両手を震わせながら「そ、そだね」とぎこちない笑みを美波に向けた。
とうとう発表の時間。
スタッフの隣にメイプルドリーマーの女マネージャーがゆっくり立つと、持っている紙に視線を向けながら小さく口を開ける。 そしてそんなマネージャーの次の言葉を聞き逃さないよう、美波たち参加者たちは固唾を吞んでその様子を見つめていた。
「まずは皆さん、お疲れさまでした。 さすがはここまで通過してきただけあって皆クオリティの高いものを見せてくれたと思います。 では今回のメイプルドリーマー・妹グループオーディション……我々としては2人組のユニットとして考えておりますので合格者は2名となります。 そしてその2名が……」
ゴクリ……
「橘奈央、小畑美波」
ーー……え。
それからのことはあまり覚えてはいない。
まさか呼ばれるとは思ってもいなかった自分の名前。 そして隣では大粒の涙を零しながら「おめ……でとう」と無理に笑顔を作って祝福してくれているチームメイト・鈴菜の姿。
自分が受かったというハッピーな感情と、鈴菜とは一緒になれなかったというショックな感情がぐちゃぐちゃになった美波は真顔のまま涙を零し、気づけば自分の部屋……事務所スタッフから所属するにあたっての説明を受けていたのであった。
「えーと、小畑さん、聞いてるかな?」
スタッフに顔を覗かれながら尋ねられた美波は慌てて我に返りながら「す、すみませんボーッとしちゃって」と頭を下げる。
「まぁそうなるのも無理もないけど……とりあえず書類を渡すから、絶対に親御さんと一緒に見るようにね」
「あ、はい。 そのプリントですね、わかりました!」
「それとこれも重要だから先に言っておくけど……小畑さんがうちの事務所のアイドルになるということで、当たり前だけど小畑さんには芸能活動が許されている学校への転入をしてもらうよ? そこも大丈夫だよね?」
「え……あ、はい」
まぁそれは仕方のないこと。
それはアイドルを目指す上で最初から分かりきっていたこと。
だったのに……
◆◇◆◇
翌日、急遽佳奈の取り計らいによって開催されたおめでとう会。
美波はいつその話……転校の件を切り出そうかとタイミングを計っていたのだが、気づけば会も終了し帰宅の時間。
今日言わなければ絶対に今後言えなくなる。
「でもこれから大変だね! 今から歌のレッスンとかダンスレッスンで忙しいんじゃないの!? 美波、勉強大丈夫?」
「え」
佳奈が「学校とかもう今までみたいに毎日来れるわけじゃないんでしょ?」と付け加えながら自分の顔を覗き込んでくる。
ーー……ここだ。 ここしかない。
「そのことなんだけどさ……」
美波は震える声を振り絞って伝えることに。
そしてここで「うん、頑張って!」とか「そっか、なら仕方ないね」と声をかけてくれればどれだけ楽だっただろう。
佳奈たちの反応はまさに美波の理想と真逆。
美波の目の前では無言で瞬きをして見つめてきている麻由香の姿と、目を大きく見開きながら静かに涙を零す佳奈の姿。
こんな2人の姿を見てしまってはもう……
「!!!!」
だめだ。 このままでは自分の気持ちがまた揺らいでしまう。
美波は急いで体を2人とは反対の方向へと向けると、全速力でその場を離れたのであった。
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