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437 名誉と代償


 四百三十七話  名誉と代償



 月曜日・朝。


 前日発表された小畑のアイドルオーディション合格の結果を受け、オレは今日小畑にどんなお祝いの言葉を送ろうかと考えながらエマと教室へと向かっていると、何やらそんな小畑の教室……6年2組の教室前にはかなりの人だかりが。

「おいおいなんだなんだ?」と言いながら様子を見に行ってみると、その理由はすぐにわかる事となった。



「小畑さーん!! 昨日のオーディション最終審査見たよー!!! おめでとー!!!」

「小畑さーん!! こっち向いてーーー!!」



 そう……昨日のオーディション配信を見ていた人たちの渦。

 皆あれを見ていて同級生、または同じ学校の生徒だと分かったのだろう……事前に対策を打っていたのか教室の扉は前後ともに教師が固くガードしており、窓の外から大量の生徒たちが小畑にエールを送っていたのだった。



「うーわ、すごい人気だな」


「そうね。 そりゃあ自分と同じ学校の子があの有名なアイドルの妹グループに入ることが決まったんだもの。 生で見たくなるのも分からなくもないわ」


「そういうもんか……」



 くそ、これじゃあ小畑に直接おめでとう系を言いづらいじゃねーか。

 

 

 オレは人だかりにイライラしながらもエマとともに教室へ。

 するとどうだろう……オレたちが教室に入ってまず視界に入ってきたのは結城の隣の席のクソ女ことオツムちゃん。

 前までは見た目もギャルギャルしく態度も悪かったのだが……



「結城さん、スカートに糸くずがついてるよ」


「え、あ……ありが……とう?」



 一体何があったというのだろう。 髪型もおとなしくなりギャルギャルしさを一切無くしたオツムちゃんが結城の制服についていたのであろう糸くずを優しく掴み上げると、結城にニコリと微笑みながらわざわざゴミ箱にまで捨てに行っているではないか。



「「ーー……え?」」



 この光景にはオレもエマも絶句。

 自分たちの席に着いてからも目の前のオツムちゃんと結城のやりとりの様子を観察していると、なんとここにも小畑のオーディション合格の影響が出ていたのであった。



「ど、どうしたの急に。 ま、前まで私に対してそんな感じじゃなかったよね?」



 結城が若干動揺しながら尋ねるとオツムちゃんは「えー、それ言うー?」と全く棘のない笑みを結城に向ける。



「う、うん。 だって前に私のこと『芋っぽい』って」


「そーんなそんな。 冗談に決まってるじゃーん! なんたって結城さんはあの2組の小畑さんと仲が良いんでしょー? 小畑さんと仲のいい子に芋っぽい人なんているわけないじゃーん!!」


「え……ええええ……」



 な、なんつー手のひら返し。

 おそらくは小畑とお近づきになりたいのであろう……オツムちゃんは結城に「ねね、今度小畑さん紹介してよ」とまるで猫のように擦り寄っている。



「え、でも紹介してどうするの?」


「そんなの仲良くなりたいに決まってるじゃーん!! だからほら見てよ、変なヤツって思われないように髪の色も元に戻したし、嫌われたくないからここの学校の子たちとも仲良くして行こうって決めたんだからー」



 おそるべし人気者の影響力!!



 オレがエマに「え、こんな簡単に性格とか変えられるもんなの!?」と小声で尋ねると、エマも「まぁ……そうね、女子はね」と苦笑いで頷く。



「そ、そうなのか!?」


「そうよ。 女の子って好きな男の子のタイプに合わせて性格も雰囲気も変えられるんだから。 ほら、よく聞かない? 真面目だった女の子がガラの悪い男の子と関わり出した途端に一気にグレだすみたいな話」


「あー、聞いたことあるかも」


「それと一緒よ。 あとこれはエマの予想なんだけど、ミナミの一件で隣町出身だった男子も女子も一気にミナミのこと好きになるでしょ? そしたらこのままだと自分の立場も危うい……だからどうしようもなくなる前に、ミナミに擦り寄っておこうって考えもあると思うわ」


「な、なるほどなぁ!!」



 その後オレはウォシュレッター女ことエロマン……江良麻子に『そっちのクラスでも何か変わったことなかったか』とメールで尋ねてみたところ、どうやらあっちのクラスでも小畑人気が凄まじいらしく、元からいた生徒たちに隣町出身の生徒が小畑のことについて色々質問……たくさん話しているうちに前以上に打ち解け合い仲良くなっていると返信が届いたのだった。



 まさか小畑1人の力で学校全体の空気を平和に変えてしまうなんて、さすが女王様やでええええええ!!!



 これで結城も何の問題もなく学校生活を楽しむことが出来る。


 オレは心を満たされながらその後の授業を過ごし、『小畑おめでとう会』を開催しようと三好から提案されたのでそれに賛成。 放課後、超絶人気者となった小畑を連れ出してエマ・エルシィちゃん、三好、多田とともにファミレスで小畑に「合格おめでとーー!!!」と声を揃えてパーティーを始めたのだが……



「それにしても美波すごいねー!! まさか合格者2人の中の1人に入っちゃうなんて!!!」



 三好が自分のことのように喜びながら小畑に「さぁ飲んで飲んで!」とオレンジジュースを勧める。



「ありがとう佳奈。 まぁでもサインまだしてないから完全に入ったってわけじゃないんだけどね」



 どうやら小畑曰く、チームに入るということは事務所にも入ることにもなるらしく、そこにも親の同意サインが必要になるとのこと。

 ちなみにその期限は1週間後で、小畑の親はすでにサイン済み……いつでも提出できる状態にあるらしい。

 それを聞いた三好は「いや、もうそれ入ったのと同じことじゃん!」と改めて小畑におめでとうと伝えた。



「んー、まぁそうだね。 なんで私が合格したのかわからないんだけど」


「え、美波なんか言った?」


「ううん、何も」



 小畑が小さく何かを呟くもオレたちにはまったく聞こえず。

 その後、小畑の合格おめでとうパーティは三好やエルシィちゃんの盛り上げもあり無事成功。 しかしその帰り道、三好が「でもこれから大変だね! 今から歌のレッスンとかダンスレッスンで忙しいんじゃないの!? 美波、勉強大丈夫?」と尋ねると、小畑はその場で立ち止まり……若干表情を曇らせながら「そのことなんだけどさ……」と顔をオレたちへと向けた。



「ん? なにどうしたの美波」

「美波?」



 あまり明るくない表情に違和感を覚えた三好と多田が首を傾げながら尋ねる。

 そしてその後口にした小畑の言葉にオレたちは声を失ったのだった。




「その……さ、だから私、芸能活動出来る学校に転校しなきゃダメなんだよね」




 ーー……え。




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― 新着の感想 ―
[良い点] パーティだぜ! にしても、性格変わりすぎ問題! そういえば、芸能のために転校云々って話があった記憶。 ダイキ……どうするんじゃあ。
[一言] あ、これは蹴りそうな気がする。 なんか、3人でデビューしたいとか言い出しそうだし。
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