435 特別編・最終審査・夢の扉
四百三十五話 特別編・最終審査・夢の扉
昨夜は緊張もあったけど疲れが勝ったのかよく眠れた。
「よしっ!」
メイプルドリーマー・妹グループオーディション最終審査・最終日。
目覚ましが鳴るよりも早く起床した美波は両頬をパチンと叩いて気合をいれると運動着に着替え、来たる戦いに備えるために早めの朝食を取ろうとレストランルームへと向かっていたのだが……
「ーー……ん?」
レストランルームへと向かっている途中、昨夜何も問題なかったのだが立ち寄った診察室から奈央が中にいる医師に頭を下げて出てくるのを発見する。
美波は一体どうしたのだろうと思いながらも、奈央のもとへと駆け寄り尋ねることにした。
「橘さんー!!」
「!」
美波の声に反応した奈央が視線をこちらへ。 その後美波が「どうしたの橘さん、どこか調子おかしいの?」と尋ねたところ、とんでもない返答が返ってきたのだった。
「まぁ……そうだね」
「えええ、大丈夫なの!?」
「とりあえず今からスタッフさんのところ行こうと思って」
「スタッフさんのところ? なんで?」
「辞退の話をしに」
ーー……え?
「えええええええええええええええ!?!?!??」
◆◇◆◇
まさかの急な展開に理解が追いつかない美波は一旦奈央の行く手を阻んで話を聞くことに。
どうやら奈央は顔には出てはいないが熱があるらしく、今もなお少し体がフラつくとのこと。 それで医師に相談した結果、今回は見送ろう……という結論に至ったとのことだった。
「ちょ、ちょっと待ってよ橘さん! それちょっと急すぎない!? どうにかならないの!?」
美波が食い気味に尋ねると奈央が静かに頷く。
「まぁそうだね。 1回くらいなら踊ったり歌ったりする分にはなんとか身体も持つと思うんだけど、このフラフラ具合じゃ体幹とかもあったもんじゃないしね。 それでステージに立って小畑や五條の足を引っ張るわけにはいかない」
奈央はそう答えると、持ち前のクールな部分は崩さずに美波の髪をわしゃわしゃと撫でる。
「で、でも……!」
「それに小畑もチームになった時に言ってたでしょ」
「何を?」
「私が『足引っ張んないで』って言ったら小畑も『それはこっちのセリフだ』って。 だからこれはお互いのため。 スタッフさんには言っておくから2人で……ダブルセンターで頑張ってよ」
そう言い残すと奈央は「じゃ、そういうことだから」と美波の横を通り過ぎてスタッフルームのある方へ。
もしこの状況で奈央が完全に妨害してきていた迷惑高校生のままだったならば、美波は『ザマァみろ』と思い喜んでいたのだろう。
しかし今、美波にとって奈央は親しみのある存在であり仲間……そして美波はこの時、オーディション1次審査の時のことを思い出していた。
そう……それは自分が足を痛めたことを知り、ギリギリまで休ませてくれていた福田の行動と、ステージ上で自分がもうどうしようもない……もう1歩も歩けなくなった際にフォローしてくれたエマや佳奈の行動。
それらすべてを何一つかけることなく覚えていた美波は拳を強く握りしめ、目の前でスタッフルームへと向かおうとしている奈央へ向かって全力ダッシュ。 奈央を背後から力強く抱きしめた。
「待って橘さん!」
「どうした小畑。 まだ何か用ある? ていうかバランス崩すから離して」
私が今まで皆からもらってきたものを……私もここで同じようにこの人にも。
美波は小さく息を吐いて自分自身を落ち着かせると、普段のテンションを保つよう心に決めながらゆっくりと口を開いた。
「いいじゃん橘さん。 それでも一緒に出ようよ」
「え」
美波の言葉に奈央は目を大きく見開いて美波を見つめてくる。
「小畑、あんた何を言ってるのか分かって……これは遊びじゃな……」
奈央が何か言おうとするも美波は持ち前の……かつ強化された度胸でそれを無視。
それよりも大きな声で奈央の言葉をかき消しながら話を続けた。
「橘さん、さっき言ったでしょ? 一回くらいならパフォーマンス出来るって。 じゃあ午前は復習と質問タイムだからその間薬とか飲んでベッドで休んでなよ。 それで少しでも体力を温存・回復させて本番に挑めばよくない?」
「それでも……ほら、だったら私もさっき言ったよね、体幹がブレブレだって。 今の私じゃ昨日みたいにセンターの小畑のタイミングに合わせづらい。 それに私がバランスを崩したらチームの評価も下がるんだよ?」
「そこは問題ないよ。 私と鈴菜ちゃんでフォローするから」
美波がニヤリと微笑むと奈央は「小畑と五條で……私をフォロー?」と眉をしかめた。
「なにさ橘さん」
「いや……これ言っちゃあれだけど、私の見たところ小畑も五條も誰かをフォローできる余裕なんてまったくない。 そんなことしたら自分パフォーマンスに集中出来ずに全滅の未来しか……」
「大丈夫。 まず、私が今まで以上に目立つ」
美波はそう宣言すると、目の前に立つ奈央の両手を優しく包み込む。
「小畑が……目立つ?」
「そう。 私がめちゃめちゃ目立ってセンターで踊ってたら、バックのちっちゃなミスなんて気づかないでしょ? それで鈴菜ちゃんには橘さんのタイミングに合わせて踊ってもらうの」
「五條が私に合わせて……」
「うん、鈴菜ちゃんなら出来ると思うな。 なんたって昨日、私のタイミングズレまくりのダンスに合わせて踊ってくれてたし橘さんも認めてたんだから。 私のズレまくりダンスよりも橘さんのダンスに合わせた方が逆に鈴菜ちゃんもやりやすいんじゃない?」
なんとしても一緒にステージに立つ。 そんな美波の意志が伝わったのか奈央は「じゃあ……五條が許可したらね」と渋々了承。
それから美波はすぐに鈴菜に連絡をとり、見事鈴菜からも「頑張って橘さんフォローしようね!」と返事をもらったのだった。
こうして当初の予定通り3人で最終審査・最終ステージに立つことが決定。
美波は奈央に付き添いながら再び診療室へと入り薬を受け取ると、奈央を部屋まで送り届ける。
「じゃあ橘さん、ちゃんと薬飲んで寝ててね。 時間前に迎えにくるから」
「ーー……ありがと」
「この午前の復習時間で私、めっちゃパワーアップするから! 本番驚いて振り付け間違えないでよー?」
「うん」
その後美波は鈴菜と合流して朝食をすませるとお互いに気合をいれるため、互いに固く握手を交わす。
「鈴菜ちゃん、絶対に成功させようね!」
「うん! 私たちだって出来ること、橘さんにも見せてあげないと!」
◆◇◆◇
午後。 内定に直結するであろう最後の模擬ステージ。
美波が鈴菜とともに部屋へと迎えに行くと、奈央はすでに運動着に着替えてベッドの上で腰掛けていた。
「橘さん、調子はどう? いけそう?」
美波が若干心配そうな表情で尋ねると、奈央は美波と鈴菜の顔をみてクスリと笑う。
「違う。 『いけそう?』じゃないよね……いくんでしょ?」
「へへ、そーだね! まぁ橘さん、私らにドーンと胸を貸すつもりできなよ!」
美波が自身の胸を張りながらポンと叩くと、隣で鈴菜が「美波ちゃん、それを言うなら『胸を貸してもらう』だよ。 私たちが借りてどうするの」とツッコミをいれる。
「あれ、私今なんて言った?」
「えっと……まぁいいや。 ううん、なんでもないよ。 それじゃあ橘さん、少しでもしんどくなったら私たちを頼ってくださいね」
「まったく小畑も五條も……。 逆に今の状態の私より出来てなかったら、許さないから」
後少しで運命の本番。
夢の扉はもう目の前。 少女たちは互いに顔を見合わせ頷きあうと、最終決戦の地へと向かったのであった。
「小畑、五條、大丈夫? 緊張してない?」
「もちろん!」
「はい! 今日も私、パンツなしで挑むんで!」
「すごい自信だね。 じゃあ今日は私も2人と同じようにして挑もっかな」
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