433 特別編・最終審査・課題①
四百三十三話 特別編・最終審査・課題①
模擬ステージ終了後、本来のスケジュールならこの後ボイストレーニングからのマラソンが待ち受けていたのだが、小畑たち参加者が次のボイストレーニングへと向かおうとしていると、突然スタッフたちから『待った』がかかった。
「「「??」」」
皆頭上にはてなマークを浮かばせながら運営スタッフのもとへ。
そこで受けた言葉に一同驚愕の声をあげたのだった。
「あー皆さん、先ほどのステージとても素晴らしかったです。 なので明日の最後の模擬ステージをより良いものにしてもらうため、只今より先ほどと同じチームで……』
◆◇◆◇
「まさか……今から予定前倒しでチームで明日の課題を始めるなんてね。 ていうか、ちょっといい?」
美波は一旦深呼吸して目の前にいる鈴菜と奈央に視線を向けた。
「ん? どしたの?」
「なに」
「なんで……なんで話し合いする場所が私の部屋なのおおおおお!?!?!?」
明日の課題は最終審査にも直結する……メイプルドリーマーの曲を1つ選択して歌とダンスを暗記するというもの。 その話し合いをするために皆が集まった場所こそが美波の宿泊している部屋だったのだ。
美波がツッコミを2人に入れると奈央が「いや、当たり前じゃない」と静かに答える。
「なんで!?」
「曲選択は周囲にバレたくないでしょ? だからこういう密室でやったほうがいいの」
「でもなんで私の部屋なわけ!? 別に密室でよかったら鈴菜ちゃんの部屋とか……橘さんの部屋とかでもいいじゃん!」
「こういう時って一番年下の部屋が犠牲になるんだよ」
「そうなの!?」
一応確認のために鈴菜に視線を向けてみるも、鈴菜も自信はなさそうだが小さく頷いている。
まったく知らなかった……これが大人のルールってやつなのか。
美波は「そ、それなら仕方ないか」と呟くとベッドに腰掛け改めて視線を2人へ。
「それで……課題曲どうしよっか」とメイプルドリーマーの曲の書かれたプリントに目を通しながら尋ねた。
「うーん、私はデビュー曲の『あなたがいたから』がいいかなー」
鈴菜が感慨深い表情で小さく手を上げる。
『あなたがいたから』……それはメイプルドリーマーのデビュー曲でもあり、人気のキッズアニメ『じゃんじゃかハムロック』の主題歌に起用されたことで一躍有名になったバラード曲だ。
「私、あの歌詞とメロディを聴いただけで感動しちゃって……一瞬で好きになったこと覚えてるんだ」
「あー分かる!! 私もあの儚げに歌うユウリちゃんにキュンキュンきたもん!」
「だよね、美波ちゃんも分かってるじゃん」
「へへー!! でしょー!!!」
こうして美波と鈴菜の間で突如始まったメイプルドリーマーのファン会話。
2人はすぐに熱を帯びて盛り上がり出したのだが、それは儚くも奈央の一言によってかき消されることとなる。
「ねぇ、明日落ちたいの? なら私抜けるけど」
「「!!!」」
そうだった、あまりにも同じテンションでその話題について話せる人がいて嬉しすぎて……ついつい当初の目的を忘れていた。
奈央の一言で気が引き締まった美波と鈴菜は奈央に謝った後に再び話し合いを開始。
その結果、先ほど鈴菜が提案していたデビュー曲『あなたがいたから』はバラードのため、ダンスではしなやかさとブレない体幹が……歌唱時にしても声の伸びが極めて長いことから却下となり、他にもカップリング曲等複数あったのだが美波たちは少し前に出た曲でアップテンポの『運命はEMMAージェンシー』に決定したのだった。
決定するやいなや奈央が「それじゃあ」と立ち上がると美波と鈴菜を見渡す。
「な、なに?」
「橘さん?」
「まずは課題曲決まったことだし、スタッフさんにその曲のデータを貰いに行こう。 それで進め方なんだけど、1時間から2時間で完璧に歌詞を覚えて、残りの時間はダンスの振り。 一通り踊れるようになったらダンストレーナーさんに細かいところを指摘してもらう……これでどう?」
「わ、分かった!」
「うん!」
それからはかなり濃密な時間。
幸い歌詞の暗記は皆大好きな曲だったため暗記はものの30分で終了。 その後ダンス映像を見ながら一通り踊れるようになった3人はダンストレーナーのもとへ。
細かい視線の位置やつま先の向き……ダンス中の表情等を叩き込まれたのだった。
「くっそおおおお、やっぱ形になるのは橘さんが一番かあああああ!!!」
目の前でしなやかに踊りきる奈央の姿を見て美波が「でも追いつくから甘く見ないでよね!」と奈央に挑戦的な視線を向ける。
「橘さんやっぱり凄い……。 美波ちゃん、私たちも頑張ろうね」
「だね!!」
◆◇◆◇
その日の夜。
まだそこまで暗くはなっていなかったものの、汗だくの3人はシャワーを浴びてから夕食をとることに。
美波の「どうせならこのまま私の部屋についてるお風呂で一緒に入ろうよ」発言により鈴菜と奈央は一瞬顔を見合わせるも仕方ないといった表情で承諾……3人揃って浴室へと向かったのだが……
「あー! 疲れたね鈴菜ちゃん橘さん! 私もう汗でびちゃびちゃだよ!」
「そうだね、私も汗だく……早くシャワー浴びたいかも」
2人がワイワイ話しながら服を脱いでいると、一歩引いたところから奈央が「え、ていうかさ……」と若干引き気味に声をかけてくる。
「ん?」
「どうしたの橘さん」
「まぁ……そこは個人の自由だと思うんだけど、小畑も五條も……パンツ履かない派?」
「「ーー……あ」」
2人は「そうだったね」と言いながら互いに笑いあっていたのだが、次の奈央の一言がこの場の空気を一変させることになったのだった。
「それに五條に至っては……なんか糸引いて……」
「え、糸? 鈴菜ちゃん、どこか服の糸ほつれてんの?」
美波が「どこどこ?」と鈴菜の太ももあたりまで下げられた短パンに視線を向けながら2人に尋ねる。
しかしどこにも糸のほつれのようなものは見当たらなく……
「ねぇ橘さん、どこも鈴菜ちゃんの短パン、糸ほつれてなくない?」
「いや小畑、ほつれてるんじゃなくて……」
「橘さんーーーーー!!!!」
それはこの2日間、鈴菜の声史上一番大きく張りのあった声。
そしてこの謎の会話が鈴菜のストッパーを外したのか、それ以降鈴菜は奈央にグイグイと話しかけるようになったのであった。
まぁその内容も美波には理解出来なかったのだが……。
「橘さんだって糸くらい引きますよね!? ていうかお昼に一旦落ち着かせたんですけど、こうなっちゃったんですー!! なんかいい方法あったら教えてくださいよぉー!!!」
「いやでも流石にそんなには……ていうか五條、お昼にしたわけ?」
「あふぅん!!!」
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