431 特別編・最終審査・2日目午前
四百三十一話 特別編・最終審査・2日目午前
朝・最終審査2日目。
朝食をとるため美波がレストランルームに向かうと、すでに運動着に着替え終えた戦友・五條鈴菜の姿があった。
「おはよー、鈴菜ちゃん」
昨夜結構打ち解けたこともあり「ここ座るね」と言いながら鈴菜の隣に腰掛けると、なんだろう……鈴菜の様子がおかしい。
なにやら股の辺りを押さえながらソワソワしているような……
気になった美波は尋ねてみることに。 しかし鈴菜から返ってきた答えは美波にとってとても懐かしいものだった。
「ほら、昨日美波ちゃん……パンツ履かなかったら周りの視線なんか気にならないって言ってたじゃない? だから早速今日から試してみたんだけど……」
鈴菜が顔を真っ赤に赤らめながら周囲をキョロキョロと見渡す。
「あ、そうなの? どう? いいでしょそれー」
「それよりも余計に周りの目、気になっちゃうよぉー!!」
それは美波も初めの頃感じた懐かしの感情。
自分もそうだったなーと感じた美波はその後のメンタルについて鈴菜に教えることにした。
「それ私もそうだったなー。 でも……じきになれるよ?」
「じきに!?」
「うん。 ちなみに私は学校行ってる時もノーパンしてたからスカート捲れそうになった時とかヒヤヒヤだったけどさ、今は短パンとかパンツ系じゃん? だから見える心配ないからそこは安心してもいいと思うよん」
「ええええ!?!? 美波ちゃん……学校行くときにもやってたの!?」
鈴菜が目を大きく見開きながら美波に顔を近づけてくる。
「そだよー。 まだ寒かったからスカートの中に風が入ってきた時とかいろんな意味でヒヤッてしてたもん」
「そりゃそうなるよね! 直接肌に当たるわけだもんね!」
「うん。 だから本当に今回は見られる心配ないから」
美波は鈴菜に「そうでしょ? どう考えても見られる機会なくない?」と尋ねると鈴菜も「確かに……」と頷く。
「でも……でもさ、美波ちゃん」
「なに?」
「私一応……この最終審査に向けて3日間してなかったから敏感になっちゃっててさ。 短パンの生地が当たるたびにやばいんだけど……そこらへんはどうしてたの?」
「ーー……え、なにが?」
突然意味の分からないことを言ってきた鈴菜に対して美波は首をわずかに傾ける。
「え、なにがって……その、あれじゃない。 お、オ……ナ……え、知らない?」
「待って、なに言ってるの鈴菜ちゃん。 まったく分かんないんだけど」
そう答えると鈴菜は「あれ、おかしいな。 私は小5からやってたんだけど……」と小さく呟いていたのだが……
「え、なんて?」
「ううん、なんでもない、なんでもないの! そ、そうだよね、確かにこれ続けてたら嫌な目とか気にならないかもしれないね! 教えてくれてありがとう美波ちゃん!」
鈴菜は一体何を言おうとしていたのだろうか。
結局分からないまま朝食を終え、美波もノーパン状態で運動着に着替えると部屋の前で待っていた鈴菜とともに午前のスケジュールへと向かったのだった。
ちなみに課題曲の暗記は美波・鈴菜ともにパーフェクト。
一切詰まることなく歌いきりボイストレーナーから「よくここまで出来たね」と褒められ、2人とも調子を上げたままその次のダンスレッスンへと挑もうとしたのだが、ここで再び難題が美波たちに突きつけられることとなる。
それはダンスのレッスン場。
そこでトレーナーがとんでもないことを口にしたのだった。
「はい、それでは今日は先ほど皆さんが終えたであろう課題曲に合わせたダンスレッスンですが、午後には模擬ステージがあります。 そこで皆さんには今からグループを組んでもらいますね。こちらで事前に組み分けしましたので呼ばれた人から集まってきてください」
そこから名前が呼ばれていき各々3人1組のチームが出来上がっていく。
美波は運よく鈴菜と同じ組で名前を呼ばれ、互いに「やったね頑張ろうね」と励ましあっていたのだが……
「あ」
そこにやってきたもう1人の姿を見て美波の口から声が漏れる。
それもそのはず、そのもう1人のメンバーこそ美波に足をかけようとしてきたり昨日大学生組と口論をしていた問題児・あの高校生だったのだから。
「あ、五條鈴菜です、初めまして」
昨日の修羅場を見ていたからだろう……鈴菜が軽くテンパりながらも頭を下げて高校生に自己紹介を始める。
その後鈴菜と目があった美波は自分もしなければいけない空気を察し、不本意ながらも「小畑美波です」とペコリと一瞬頭を下げた。
「ふーん、挨拶できるんだ」
「は……はああ!?」
元から嫌いだった相手に煽られ美波の心が一気に燃え上がるも鈴菜がそれを制止。
「美波ちゃん、流石にトレーナーさんいる場所でそれはマズいよ」と耳打ち。 美波はプルプルと固く握った拳を震わせながら自らを落ち着かせるため深く息を吐いたのだった。
「そ、それでお姉さん、私たちは自己紹介しましたし、お名前は……?」
鈴菜がそう話を振ると、高校生は「へぇ……なかなかやるね」と小さく呟く。
「え? なんでしょうか」
「ううん、なんでもない。 私は橘 奈央」
「たちばな……なおさん」
「うん。 よろしく。 ただ先に言っとくけど、足引っ張らないでね」
この相手をイラつかせる言動……かなりムカつく。
このまま上から言われるだけなのも我慢できなかった美波は「それはこっちの台詞ですよーだ」と絶対にこの高校生よりも上手く踊って見返してやると息込んでいたのだが……
◆◇◆◇
「や、やばい……なにアイツ」
昨日のマラソンの時もそうだったけどこの人、言葉だけじゃない。
ダンスの振りもタイミングもこの高校生・橘奈央は誰よりも最速完璧で覚えきり、美波たちの練習を腕を組みながらジッと見つめていたのだった。
「五條、そこ振り逆」
「は、はい!!」
「小畑、前に出るタイミングずれてる」
「は、はいいい!!!」
く、クッソおおおおおおおおおおお!!!!!!
なんとしてでもこの人より上に行ってやる!!
ダンスレッスンを終えた美波は皆が休憩している間にこっそりとダンストレーナーの元へ。
午後の模擬ステージでは絶対にあいつよりも輝いてみせる……
美波はトレーナーにダンスの振りが入ったデータをスマートフォンで受け取ると、飲み物片手に1人黙々と復習に励んだのであった。
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