429 特別編・最終審査・波乱の1日目②
四百二十九話 特別編・最終審査・波乱の1日目②
「あの子、凄いね」
移動中に話しかけてきた中学生・五條鈴菜の指差している女の子。 鈴菜の発言により美波は昨夜足を引っ掛けられそうになったことを思い出し激しく激昂した。
「えええ、美波ちゃんどうしたの急に!」
突然の美波のブチギレに鈴菜が若干引きながらも美波に尋ねてくる。
それを美波は待ってましたと言わんばかりに昨夜の出来事を鈴菜に報告……今後もしかしたらもっと厄介な妨害をしてくるかもしれないと話し、鈴菜も「そ、そんなことしてくる子本当にいるの?」と半ば半信半疑だったのだが……
それはそれから少し後……お昼休憩時に起こった。
◆◇◆◇
合同で参加してくれているメイプルドリーマーは歌番組の収録のためマラソンを終えるとすぐに離脱。
美波たち参加者はホテルに戻り再び豪華なお昼ご飯に舌鼓……もちろん美波は鈴菜と隣同士で仲良く食べていたのだが、気づけば高校生や大学生組の方から「え、何いきなり」とかなり低音のピリついた声が。
視線を向けてみるとどうやら大学生と誰かが言い争っている様子……その相手こそ鈴菜にも話したばかりのあの問題児・足を引っ掛けてきた高校生だったのだ。
話に耳を傾けてみると、どうやら話題は先ほどの10kmマラソンについてらしく、大学生が「何でそんなこと言われないといけないわけ?」と高校生に尋ねている。
一体何を言われたのか……美波は気になり耳を澄ませていたのだが、その答えはすぐに高校生の発言からわかることとなる。
「いや、だってあのタイムでイキってたらそりゃあ腹立つでしょ。 私より走り終えるの遅かったくせに何が『私マラソン得意だからね』なの?」
高校生がジトッと大学生を睨みつけながら鼻で笑う。
「な……何なのアンタ! 放っておけばいいでしょ、別にアンタには話してないんだから!」
「だったらもっと小さな声で喋りなよ。 別に凄くもないことを大声で自慢されたら不快なわけ」
「ちょ……え、はあああああああ?」
先ほどの高校生の発言には大学生と仲良く話していたのであろう他の参加者たちも大激怒。
「どうして君がそんなこという権利あるの!?」やら「別にあなただって1番にゴールしたわけじゃないじゃない!」やら次々と先端の尖った言葉を高校生に投げかけ始める。
「よーし、年上たちいいぞ! その賢い脳でもっとやっちゃえ!!」
美波は小声で大学生組を応援。
年齢的にも人数的にも圧倒的に大学生側が有利……これはもしかするとあの高校生、周りの圧力に負けて辞退するかもしれない。 そう期待した美波だったのだがその夢は儚くも散ることに。 まさかの劣勢だと思われていた高校生が急に反論を始めたのだ。
「外野うるさいよ。 私はこのお姉さんに言ってるのであって、君たちには言ってない」
「「が、外野ぁーー!?!?」」
高校生の言葉に周囲の苛立ちはさらにヒートアップ。
しかし高校生はそれにも動じず、声をさらに跳ね上げて「じゃあそれぞれ言うけどさ!」と周囲の参加者たちを1人ずつ指差し始めた。
「まず二つお団子の髪型のあんた。 ダンスレッスンのとき、ステップ練習手を抜いてたよね。 確かダンス経験者って言ってた気がするけど……経験者だったら手を抜いたらダメってことくらい分かるはず……あの『自分は出来ますけど』的な表情、あれも不快だから今後やめてくれる?」
「!?」
「そして隣のボブカット。 君も大学生っぽいけどさ、ダンスレッスンとマラソン中2回もトイレ休憩行ってたよね? まぁそれ自体は別に仕方ないことだと思うけど、何で戻ってきて皆やトレーナーに一言ないわけ? そんな常識ない人に偉そうに説教される筋合いないんだけど」
「!!」
皆高校生の言っていることが的を得ているのか、高校生の言葉に何も反論出来ずに黙り込む。
その後も高校生は自分に言葉の槍を向けてきた参加者に対して「オーディションだとしてもレッスン中のアクビとかあり得ない」やら「ホテルの人にタメ口とかどう言う神経?」やらと言葉のカウンターを雨のごとく浴びせていき、最終的にはとうとう敵勢力を鎮圧させてしまったのであった。
「ーー……あれ、何でこれ大学生たち負けてんの?」
予想していなかった結果に思わず美波は小声で鈴菜に尋ねる。
「わ、私にも分からないけど……よく見てるねあの子」
「いや、そう言うことじゃなくて……!」
「私あの場所にいなくてよかったよ……」
「そ、それは確かにそうだけど……!」
大学生組と高校生……あちらは未だピリピリムード。
鈴菜とのコソコソ会議の結果、これ以上関わらない方がいいという結論に至った美波と鈴菜は我関せず的な雰囲気を漂わせながら静かに昼食を続けることに。
しかしこれも神の悪戯……いや、高校生の悪戯なのだろうか。
参加者の大半に敵視されてしまっているであろう高校生が最後にとんでもない発言を残してしまったのだ。
それは高校生がレストランルームを去る寸前。
高校生はくるりと体の向きを美波たち参加者の方へと向けると、皆に聞こえるような声量でこう呟いた。
「しっかしみんな私の脅威になりそうにないな。 みんな欠陥だらけ……まだあそこに座ってる小学生と中学生の方が可能性あるわ」
「「え」」
高校生はそのまま静かにレストランルームから退出。
そして他の参加者からの敵を見るような眼差しは美波と鈴菜の2人へと向けられーー……
「「え……ええええええええええええええ!?!??!?」」
その後、午後のスケジュールから2人の肩身がより狭くなったことは言うまでもない。
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