428 特別編・最終審査・波乱の1日目①【挿絵有】
四百二十八話 特別編・最終審査・波乱の1日目①
金曜日の朝・オーディション最終審査当日。
流石はホテルでの宿泊……朝から豪華な朝食を終えた美波たちが集められたのはホテル近くに建てられた広めのダンスレッスン場。
そこには結構ガチめなトレーナーの女性が立っており、美波たち参加者はそこから約2時間基礎から細かい部分までを叩き込まれたのだが……
「さ、流石は現役アイドル……全然息切れてないね」
次のスケジュール・マラソンに向けて場所移動している際、一番美波と年の近そうな中学生くらいの女の子が共にレッスンを受けていたメイプルドリーマーのメンバーたちに視線を向けながら美波に話しかけてくる。
「!!」
いきなり何!?
美波がその中学生を見ながら固まっていると、中学生も何かを察したのだろう。 すぐに「ごめん、名乗るの忘れてたね」と手を差し伸べながら微笑んだ。
「私、五條 鈴菜。 よろしく」
「ごじょう……すずな……ちゃん」
「うん、中2だよ。 昨日は周りみんな高校生や大学生ばっかりで怖かったんだけどさ、自分と同い年くらいの子がいて安心したよ。 だから早いうちに話しかけて仲良くしたいなって思って」
ーー……この人、見た目そこまで派手じゃないし、一見普通の感じがするけど実際のところはどうなのだろう。 やっぱり自分を蹴落とすために近づいてきたのだろうか。
美波は若干疑いつつも差し出された手に視線を向けながら「よ、よろしく」と握手で返すと、中学生……五條鈴菜が「それで君の名前は……」と尋ねてくる。
「え、あっ……そうだった。 私、小畑美波……小6ですっ!」
どうせこの人も自分の年齢聞いて下に見てくるのだろう。
そう予想していた美波だったのだが、目の前の中学生・五条鈴菜の反応は美波の思っていたものとは全く真逆のものだったのだ。
「えぇー!! 小6で最終審査!? すごいね!」
鈴菜が目を大きく見開きながら握手している手を強く握ってくる。
「え……え!?」
「もしかしてこういうオーディションとかって結構受けてるの!?」
「いや……まぁ数回程度だけど……それも全部1次落ちとかで……」
「じゃあ今回は今までの努力が実ったんだね! 私も何回も他のオーディション落ちててさ、美波ちゃんと同じで最終まで行けたの、このオーディションが初めてなんだ!」
ーー……あれ、なんだろこの反応。
もしこれが演技なら人間不信になりそうな程に純粋な顔をしていて声も明るい。
美波がそんな鈴菜の反応に戸惑っていると鈴菜が「えっと……美波ちゃん?」と不思議そうにこちらを見つめてきている。
「あああ、ごめんなさい!! ちょっと意外で!」
「意外?」
「うん、今までのオーディションで皆から敵視されてばっかだったからさ、鈴菜ちゃんみたいに話しかけてくれる子とかいなかったからビックリしちゃって!」
そう答えると鈴菜も同じ経験をしたのだろう、「あー、それ分かるかも」と美波の言葉に頷いた。
「え、分かるの?」
「多少はね。 例えば……」
そこから美波が聞いたのはこの鈴菜が受けたオーディション話。
鈴菜は地方出身で別会場だったため美波と同じステージには立っていなかったのだが、1次オーディション時には多くの年上から身体をぶつけられ、3次審査では直接何かをされたというわけではないらしいのだが、『こんな子供が遊びにくるところじゃないよ』と聞こえる声量でコソコソと言われたりしたらしい。
「うわああああああ!!! 分かる!! 私もそんな感じだった!!!」
鈴菜のエピソードを聞いた後、美波の中で勝手に鈴菜への親近感が湧いてくる。
「そうなんだ! ちなみに美波ちゃんはどんなことされたの?」
「えっと私はねー!!」
この人……鈴菜は自分の気持ちを分かってくれる。
それが何より嬉しかった美波は移動の間ずっと鈴菜との会話に熱中。
そして移動場所・マラソン用競技ドームに着き軽くストレッチをしていると、鈴菜が「そういえばさ……」と美波に話を切り出してきた。
「なに?」
「美波ちゃんはその……アイドルになるって夢を応援してくれる人っているの?」
「え?」
一体どうしたのだろう急に。
美波は頭上にはてなマークを浮かばせながら「うん、いるけど……」と答えると、鈴菜が「そうなんだ、いいなぁ」小さく呟く。
「え、なんで?」
「ううん、なんとなくだよ。 じゃあ美波ちゃん、一緒に頑張ろうね!」
「えっと……う、うん」
こうして美波は鈴菜と再び固い握手を交わし、「じゃあマラソンがんばろ!」と整列場所へと向かったのだった。
◆◇◆◇
マラソン用のコース中央。 美波たち参加者とメイプルドリーマーのアイドルたちの前にマラソン用のトレーナーが立つ。
「はい、それではマラソン10km今から走ってもらうわけですが……小畑美波さんと五條鈴菜さん」
「は、はい!」
「はい!」
突然名前を呼ばれた美波と鈴菜が若干声を裏返しながらもトレーナーに返事をして視線を向ける。
するとトレーナーも2人の顔を確認し認識したのだろう。 後方に立っていたスタッフに目配らせすると、そのスタッフがそれぞれ美波と鈴菜のもとへと移動して隣に立った。
「え、え?」
突然のことで意味がわからない美波だったのだが、そんな美波のことなど無視するようにトレーナーはこう言葉を続ける。
「高校生以上は皆10kmですが、小畑さんは小学生なので5km、五條さんは中学生なので8kmとします。 ですが中学生以下の2人はまだ身体が出来上がっていないので……こちら側でこれ以上無理だと感じたら止めますが、自分でも無理だと感じたらすぐに中断するように。 いいですね」
「はい!」
「はい!」
その後一斉にマラソンが開始。
はじめこそ緊張していた美波だったのだが、これは1次審査練習時のエマの特訓……公園周りの持久走が効いたのだろう。
流石に汗や息は切らしたものの、美波は途中中断することなく定められた5kmを見事走破。 自分を見ていたスタッフからは「おぉー」と驚きの声が上がっていたのだった。
そしてその少し後に何とか走破したのだろう……今にも倒れそうな程に疲弊した鈴菜が美波の隣に。
「お、終わったぁー!!」と言いながらその場でへたり込む。
「鈴菜ちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様美波ちゃんー。 ていうか美波ちゃん、体力あるんだねー、私もうヘトヘトだよー」
「あはは、まぁ練習中にめっちゃ特訓させられてたし、私は皆と違って距離が短いから」
「それでも凄いよぉー……」
あぁ……このお互いに叩き合わないこの感じ、いいな。
美波たちがそんなことを話している間にも続々と10km走破をしていく参加者たちの姿が。
もちろんトップは現役アイドルの皆だったのだがその中で1人、現役に引けをとらない速さの女の子が1人。
美波はメイプルドリーマーしか見ていなかったのだが、その女の子を見ていた鈴菜が「あの子、凄いね」と指差しながら呟いた。
「え、誰?」
「ほら、あのメイプルドリーマーの皆さんの真ん中らへんで走ってたあの子」
「えーと……どこ……あ、いた」
美波は目を細めながらその人物の姿を確かめることに。
するとどうだろう……先ほど鈴菜が指差した女の子の姿こそ、昨夜、美波に足を掛けようとした高校生だったのだ。
「あああああああ!!! あいつーーー!!! 忘れてたああああああああ!!!!!」
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