425 異色の食卓
四百二十五話 異色の食卓
ウォシュレッター女ことエロマン……ゲフンゲフン、江良麻子にネクストステップのミッションを与えた数日後の夕方。
自宅で江良とのメールをしていたオレは「マジか」思わず声を漏らす。
そのやりとりがこんな感じなのだが……
【受信・江良麻子】福田さ、私に虐められてる子がいたらチクれって言ってただろ? なんかあれ必要ないっぽいぞ。
【送信・江良麻子】必要ないとは?
【受信・江良麻子】なんかまだ私のクラスだけかもなんだけど、私がここの生徒だった子と仲良くしてるのを見て、それきっかけで結構他の奴らも仲良くしていってるみたいなんだよね。
【送信・江良麻子】え、てことは……いじめなし?
【受信・江良麻子】そーいうことだな。 今日もなんだかんだで放課後、ここの生徒だった子と私らで遊びに行ってるし。
ーー……まさかこんな形で平和になってしまうとは。
ちなみにその後聞いた話では、江良のクラス・5組の隣にある6組にもその仲のいい空気が伝染していっているということ。
平和に近づいたこと自体はいいことだとは思うのだが……
「これじゃあ結城の隣のクズ女……オツムちゃん殲滅作戦が上手くいかないじゃねーか」
なんだかんだで校長の『大きな問題は許さない』発言と最近の褐色男の出席停止の件でオツムちゃん自体おかしな行動には出ていないのだが、いつまた結城に毒牙がかかるか分からないからな。
それにオレはあの初日の結城をバカにした発言をまだ根に持っている……絶対に許さん。
オレはスマートフォンの電源を切りポケットの中に戻すと、「どうしたもんかなー」と小さく息を吐いたのだった。
◆◇◆◇
「ダイキー、ご飯だよー」
「ーー……ん」
いつの間にか眠っていたらしい。
オレは優香の声で目を覚ますとゆっくりと体を起こす。
「あー……寝てた」
「うん、気持ち良さそうだったからお姉ちゃん、全然起こせなかったよ」
あぁ……オツムちゃんの件では頭を抱えるけど、家の中は癒ししかねーなぁ。
この目の前にある優香の笑顔……これを拝めるだけで幸せな気持ちにさせてくれるぜ。
「じゃあご飯よそうから、まだ眠たかったら顔洗っておいで」
「んーー」
この天国とも呼べるこの空間……守りたい。
そう思いながらオレは未だ重たい瞼を擦りながら洗面所へ。
冷たい水で意識をスッキリとさせた後に「あー、お腹空いた」とお腹をさすりながらリビングに入り、テーブルに視線を向けたのだが……
「おはよー。 ていうか夜だったね、こんばんはー。 ダイきちくん」
「え」
そこにいたのは見覚えのあるパンツスーツ姿の大人な女性。
オレは脳内を真っ白にしつつもその女性を見つめていたのだが、だんだんと脳も少しずつ覚醒していき、そして……
「えーと……スイ……さん?」
まさかこの福田ダイキの生活に慣れすぎていたせいか、パッと出てこなくなっていたとは。
そう、その女性こそオレの前世……えーと確か……そうだ、森本真也だ。 その女性はオレの前世・森本真也の妹だった森本翠。 でもどうして翠がオレの家の中に……!?
オレが混乱してその場で立ち尽くしていると、翠がそれを察したのか「あ、驚かせてごめんねダイきちくん」と謝ってくる。
「ーー……え」
「実はお仕事の都合でこっちに出張に来ててさ。 それで陽奈ちゃんに連絡先と住所を聞いてたからダイきちくんのお姉ちゃんに連絡入れてちょっと寄らせてもらったんだよね。 久々にダイきちくんとお喋りしたくて」
翠が上手く話してくれていたのだろう。
優香も「そうなの。 最初はお姉ちゃんも『誰?』って思ったんだけど……ダイキ、向こうで知り合った人なんだってね」と翠の前に料理を置きながら微笑んでいた。
「あー……そうなんだ……ですか」
「うん。 それで優香ちゃんが『晩御飯一緒にどう?』って言ってくれたからさ、その時間だけでも一緒に過ごしたいなって思って」
「え、ご飯だけ?」
「そうだよ。 私まだお仕事残ってるからさ。 週明けまでは忙しいんだよ」
「ーー……なるほど」
「え、なにダイきちくん、寂しいの?」
翠が嬉しそうに微笑みながらオレを見てくる。
「は……はああああああああああ!?!?!??」
こうしてオレは元妹と現姉という異色の2人と食卓を囲むことに。
優香と翠は何やらオレの見ていないドラマの話で盛り上がったりしていたのだが、オレは変に口を滑らせて空気を悪くしないよう……基本無口で優香の美味しい手料理を口に運んでいたのだった。
そして晩御飯後、翠は「ご飯ご馳走様でした。 また来たいなー」と感想を述べながら玄関へ。
オレと優香が見送っていると、靴を履き終えた翠が「あのさ、ダイきちくん、優香ちゃん」とオレと優香に交互に視線を向けてくる。
「ん、なに? ……何ですか?」
「翠さん?」
「そのさ、週明けに私お仕事終わるんだけど……その時また寄ってもいいかな。 特にダイきちくんとはお話したいことももっとあるし」
この翠の表情……何か悩んでいるのだろうか。
オレが心配しながら優香を見上げると、優香は「今ここでお話できないような内容なんですか?」と翠に尋ねる。
「まぁ……そうだね。 ダイきちくんは年も離れてるからそんな重く受け止めずに聞いてくれて……話しやすかったりするんだ」
「そうですか」
「そうなの。 だからもし優香ちゃんとダイきちくんの都合が合えば……でいいんだけど、ダメかな」
「あぁ、そういうことですか。 なんとなくですけど分かります。 そういうことでしたらまた事前に連絡頂ければ大丈夫ですよ」
おお、まさかのOK。
優香がニコリと微笑みながら「是非またいらしてください」と翠に頭を下げる。
「え、いいの?」
「はい。 翠さんなにか悩んでるようですし、確かにうちのダイキ、そういうの軽くしてくれるんですよね」
「うちの……」
翠が小さく呟く。
「ん? 翠さん何か言いました?」
「あ、いやいやなにも! じゃあその……また週明け、いける目処ついたら連絡するね!! それじゃ!!」
こうして翠はまだ仕事が残っているからなのか、若干慌てながら予約しているらしいホテルへと帰宅。
その後オレはどこか懐かしい気持ちに満たされつつも、先ほどの現象……前世の記憶が少しずつ消えていっているのではないかという不安感に襲われながら眠りについたのだった。
まさか妹の名前もさることながら、自分の前世の名前すらも忘れかけていたなんて……
これ、結構やべーよな。
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まさか424話……更新ボタン押せていなかったなんて……不覚!




