419 これは波乱の予感!!
四百十九話 これは波乱の予感!!
オレの家。
玄関を開けるとちょうど優香が買い物から帰ってきたところらしく、そこで女の子の日な小畑を優香に引き渡してなんとかオレは肩の荷を下ろしたのだが……
◆◇◆◇
「ほら美波ちゃん、お口に合うかはわからないけどいっぱい食べてね」
夕食中。 オレの隣に座っている小畑と対面の優香が楽しそうに女子トークで盛り上がっている。
ーー……ていうか何でまだいるんだよ。
どうやらあの小畑の腹痛は別に女の子の日でもなんでもなかったらしく、ただただ皆がたまに経験する程度の腹痛だったとのこと。
その波も完全に治ったのか、小畑は優香お手製の料理を「美味しいですー!」とパクパクと食べていた。
「へぇー、美波ちゃん、あのテレビでやってたオーディション受けてたんだ」
優香もやはり女の子。 アイドルというものには少なからず関心があるのか、小畑が今回のアイドルオーディションに参加していると聞くや否や興味津々で小畑に色々と尋ね始める。
「そーなんです! 私、昔からアイドルになるのが夢で!」
「いいねぇ。 やっぱりキラキラしてるから?」
「ううん、違います! 私、ニューシーの小柴くんと付き合いたいんです!!」
はい、きました。 小畑のアイドルになりたい本音の志望理由。
小畑が目を輝かせながらニューシーの……その中でもそのメンバーの小柴くんのことを熱く語り始めた。
「優香さんは知ってますか!? 小柴くん!」
「うん知ってるよ。 ニューシーだよね。 手毬くんたちのいる」
「そーですそーです!! え、もしかして結構詳しい感じですか!?」
「うーん、人並みかな。 でも小柴くんいいよね、優しい雰囲気が滲みでてて」
「うわあああ!! 分かってますね優香さん!!! そうなんです小柴くんは背も高くて足も長くてスタイルも良くて優しくてかっこいいんです!!」
へええ、優香もなんだかんだでそういうの知ってるんだな。
そこもやはり女の子……やはり女子はイケメンが好きということなのか……クソっ!!!
そこからも夕食中はなぜかずっとニューシーの話題で持ちっきりに。
まぁオレはなんだかんだで楽しそうに話している2人を眺めながら優香の料理を楽しんでいたわけなのだが……
「あ、そうだ美波ちゃん。 それで今日のオーディションはどうだったの?」
元の話題を思い出したのか、優香が本日の小畑のオーディション・第3次審査について尋ねる。
すると小畑はさっきの勢いは何処へやら……急にシュンとしたかと思えばテンポよく口に運んでいたお箸の手も止まり、「あー、思い出しただけでもイライラしてきたぁ……」と小さく呟いた。
「ん? どうしたの美波ちゃん」
「もぉー、聞いてくださいよぉーー!!!!」
そこから小畑が話した内容は本日あったオーディション第3次審査での出来事。
どうやらパフォーマンス自体はうまくいったらしいのだが、その後に女の戦い・頭脳戦に敗れてあのユウリと並んで踊る羽目になったらしい。
そこでユウリに圧倒的な力の差を見せつけられ、いかに自分ができてないのかを審査員たちの目の前で晒してしまった……ということだった。
「あああああ!! なんで私はあの時断らなかったんだぁーー!! やるかやらないかだったら、絶対にやらないを選択した方がリスク的には小さかったはずなのにーー!!!」
小畑が小さく絶望しながら分かりやすく頭を抱える。
ていうか小畑、大学生にハメられたのか……そりゃあ大学生と小学生では考え方も全く違うし……頭脳戦では勝負にならないよな。 女の戦い……色々とドロドロだぜ。
その後小畑はそんな女の戦いの愚痴をしばらく述べた後、少しスッキリしたのか徐々に顔色を戻していきながら料理に手をつけ始める。
食べ終えた頃には笑顔もまた戻っていて……聞き上手な優香がいてくれてよかったぜ。
ーー……とまぁ、そこまではまだ良かったんだよ。 なんだかんだで小畑も腹痛治って良かったし、オーディション疲れも優香の手料理で心も少しは癒されただろうからな。
問題はここからだったんだ。
夕食が終わり、優香がキッチンでお皿を洗っていると充電中のスマートフォンを弄っていた小畑が「えー、マジー!?」と声を出した。
「どうしたの美波ちゃん」
「あああ、すみません大声出して。 マ……親とメールしてて迎えに来てもらおうって思ってたんですけど、どうやらシャケンってやつで今車がないっぽいんですよね」
「あー、車検? そうなんだ」
「はいー。 だから歩いて帰らなくちゃいけないっぽくてー。 タクシーで帰ってもいいよって言われたんですけど、そこまでお金持ってきてなかったんですよ……」
小畑がおもむろに財布を取り出して中身を数え出すと財布の中の全財産は653円。
「最悪だ……」と言いながら小銭を再び中へと戻すとゆっくりと立ち上がった。
「え、だったら美波ちゃんにタクシー代出すよ?」
「いやいやそんな大丈夫です!! お腹痛いの介抱してもらったうえにご飯までご馳走になったんですから!! 元気になったんで走って帰ります!!」
小畑はスマートフォンをポケットに突っ込むと壁に立てかけていた小さなリュックを「よいしょ」と背負う。
「えええ、でももう暗いし……危ないよ?」
「そん時は走って逃げるんで!」
「いやいやいや美波ちゃん、さすがに危ないって。 あ、そうだ、ちょっとスマホ貸してもらえる?」
「え?」
優香は何かを思いついたのか手を小畑へと差し出し、小畑は頭上にはてなマークを浮かばせながらも優香のもとへ。
言われた通りにスマートフォンを渡すと2人で何やらコソコソと話しだし……小畑のスマートフォンで誰かに電話をかけ出したのだった。
小畑は「え、いいんですか?」とか言ってるけどなんの話だ?
ちなみにオレは『どうせオレが送っていく展開になるんだろうなー』とか予想しながらソファーの上でテレビをボーッと眺めていたのだが……
「はい、美波ちゃん今夜はうちに泊まりまーす」
「ええええええええええええええ!?!??!?!?」
◆◇◆◇
なんと優香が話していた相手は小畑の母親で、もう外は暗いし今夜はウチで泊めても大丈夫かという内容だったとのこと。
小畑も今日は母親にオーディションの話を聞かれたくなかったらしく、小畑が真っ先に優香の提案に同意。 その後優香が小畑母に許可をとり、正式にお泊まりの許しが出たらしい。
「ほんっとうにありがとうございますー!!!!」
小畑が満面の笑みで優香に頭を下げる。
「いいのいいの。 美波ちゃんにその気がなかったら無理にでもタクシー代を出してたところだったんだけどね。 まぁウチに一晩泊まってくれるならお互い何の不都合もないし」
「もう私、優香さんが神に見えますー!」
「そんな神だなんて。 私からしたら美波ちゃん、キラキラしてて可愛くてお姫様に見えるよ?」
「そんなそんな!! 私がお姫様で優香さんが神様じゃなかったら……優香さんは一体何なんですかあー!!」
いや、大体あってるぞ小畑。
正確には優香は神……というよりは優香国の姫、それか女神だな。 たまにスイッチが入ると邪神化するけどその例えはかなり的を得ているぜ。
こうして急遽小畑のお泊まりが決定。
はじめこそ優香も「ゆっくり休んでいってね」とこのお泊まりを気楽に考えていたのだが、それはお風呂が沸いたメロディが聞こえた時のこと。
「ーー……そうだ、美波ちゃんのお洋服どうしよ」
優香が「服のこと完全に忘れてたよ」と言いながら小畑に尋ねる。
「あー、私別にこのままでもいいですよ?」
「ううん、そういうわけにもいかないよ。 明日には乾くから、ちゃんと洗わないとね。 まぁ服はダイキのを使うとして、下着どうしよっか、流石に夜は冷えるから履かないと風邪引いちゃうよね」
「あ、いや別に私、今日はパンツ履いてな……」
「え?」
「あ」
ん?
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