415 特別編・母の誓い【挿絵有】
四百十五話 特別編・母の誓い
それは結城桜子が福田ダイキとのお出かけをした後の夕方。
闘病生活のため病院で入院していた結城母のスマートフォンに娘からの連絡が入る。
【受信・桜子】今から行くね!! 福田くんとお出かけしてきたよっ!
「えええええええええ!?!?」
◆◇◆◇
「へぇー、桜子、プラネタリウムに行ったんだ」
「うん!」
娘・桜子の話を聞いた結城母は、桜子の嬉しそうに話す顔に癒されながらベッドの上からその様子を見つめる。
「どうだった?」
「とっても綺麗だったよ! 色んな星の話とか、星のこといっぱい知っちゃった!」
この声色と表情……本当に楽しかったのだろう。
そう感じた結城母は「よかったね」と言いながら桜子の頭を優しく撫でた。
「うん、今後はママと行きたいなぁ」
「ママと?」
「うん。 ママにも私と同じ気持ちになって欲しいもん」
「あぁ……そこは福田くんとまた行きたいな、とかじゃないんだね」
そう尋ねると桜子は「え? なんで福田……くんとなの?」と不思議そうに首を傾げてくる。
「なんでって言われても……」
「私、今日福田くんと行ったんだよ? 確かに福田くんと今日一緒に遊べて楽しかったし嬉しかったけど……ママは行きたくないの?」
「それは桜子がそんなに楽しいって言ってるんだもん、もちろんママも行きたいけど……」
結城母は胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えながら言葉を詰まらせる。
「ーー……ママ?」
言えない。
自分の余命……残された時間がもうあまりないということを。
結城母は一旦心を落ち着かせるために小さく深呼吸。 その後「なんでもないの、ごめんね」と笑いながら桜子の頬を撫で、「それにしても福田くんもロマンチックよね」とワザとらしく話題を変えることにした。
「福田……くんが、ロマンチック?」
桜子が再び頭上にはてなマークを浮かばせながら母を見上げてくる。
「なんで?」
「だってプラネタリウムだよ? 普通は映画館……とか遊園地とか……あとは水族館とかじゃない?」
「そうなの?」
「そうだよ。 プラネタリウムなんて大人な選択……普通あのくらいの年の男の子には出来ないと思うな」
結城母が他には小学生が遊ぶスポットといえばどこがあるだろうと考えていると、桜子が「多分……だけど、全部行ったことがあるからかなぁ」と小さく呟く。
「え、そうなの?」
「うん、それはまだママが前の彼氏といた時なんだけど、福田……くんやお姉ちゃんの優香さん、そのお友達の美咲ちゃんがお休みの日とかに私も連れて行ってくれてたんだ。 他にも色々……」
聞いてみると桜子は福田姉弟やそのお友達にたくさんのことを経験させてもらっていたらしい。
それは先ほどの遊園地や水族館……他には以前ご実家に連れて行ってもらった際には浴衣でお祭りや川遊び……それにハロウィンでは仮装衣装まで用意してくれて共に楽しんでくれてたとのこと。
自分はあれだけ強く当たってしまっていたのに、それを超える優しさや時間をこの子に注いでくれていたなんて……。
結城母は目に涙を溜めながらも、ここで泣いてしまってはせっかくの娘の楽しかった1日が無駄になってしまう。
そんなことを気をつけながら、なんとか桜子に「……よかったね」と返した。
「うん、私……福田……くんたちに会えて本当に良かった」
「そう」
「あ、そうだ! ママ、前に私と福田くんが遊んでる写真欲しいって言ってたでしょ!? だからいっぱい撮ってきたんだ! ほら見てよ!」
桜子が目を輝かせながら本日撮ったのであろう写真をスマートフォンに表示させながらこちらに画面を見せてくる。
「あら、ほんとだ。 でもこれほとんど桜子ばっかだね」
「うん、福田……くんが写ってるのは数枚かな。 なんか恥ずかしいんだって」
「そうなの?」
「うん。 『だってオレ、イケメンじゃないし写ってたら申し訳ない』って」
そう言うと桜子はダイキと共に写っている数少ない画像を拡大。 「そんなことないのにね」と小さく呟きながら拡大されたダイキのおでこの部分を指先でツンとつついた。
「え、桜子は福田くんのこと……カッコいいって思う?」
「うん、カッコいいと思うよ?」
「そうなの!?」
「だって真っ暗なところにいた私を引っ張ってくれたヒーローだもん。 カッコよくないわけないよ」
「じゃあなんでまたプラネタリウム……福田くんと行きたいとか思わないの?」
「んん? なんでそうなるの?」
あぁ……そうか、この子は最近やっと自分の人生を歩みだして……まだ恋をするにまで気が回らないのだろう。
ここは何としても私が生きているうちに、この子に『恋』という感情を教えてあげなければ。
虚空の心の中に必ず達成させなければならないという目標の旗が1本突き刺さる。
「これが私が……母としてこの子に残せるもの……」
そうポツリと呟くと、桜子が「ママ? なんか言った?」と純粋な目を向けてくる。
「ううん、なんでもないの。 それよりも桜子……」
「なに?」
これは長期戦になりそうだ。
でも……これを達成せずして死んではいられない。
母はベッドから手を出し桜子の手を強く握りしめる。
「ママ?」
「桜子、お願いがあるの」
「なに?」
「今度からママのところにお見舞いに来てくれる度に、福田くんとどんなことをして楽しんだのか……1つ1つ詳しく聞かせて欲しいな」
そうお願いすると桜子がジッとこちらを見つめてきていることに気づく。
「どうしたの桜子」
「別にそれはいいんだけど……そしたらママ、元気になる?」
「うん、桜子の楽しい思い出を聞いたらママまで嬉しくなっちゃうもん。 だから桜子と会う度にいっぱい聞きたいな」
「わかった!!!」
ここは病院。
もう春とはいえ外はもう暗く気温も下がり肌寒くなっているこの時間に、結城母と桜子……この2人のいる部屋だけはまるで別世界。
桜の花びらが舞い散るお昼時のような、温かな空気と幸せいっぱいの笑い声で包まれていたのだった。
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☆本日の挿絵高画質VERは後ほど作者twitter( @mikosisaimaria )にて更新してますので遊びに来てやってください♪ 作者はなんだかんだ気に入りすぎてスマホの壁紙にしちゃいました 笑




