411 たまたま②【挿絵有】
四百十一話 たまたま②
「この状況は……説明してもらえるかな」
なんというバッドタイミング。
白目で失神している日焼け男とその隣で漏らしながら泣き喚いている男……そしてその前に立っているのは圧倒的オーラを発している西園寺。
この状況から西園寺が元凶だと決めつけた教頭たちが物凄い剣幕で西園寺を囲み出す。
「ちょ、待ってください教頭先生! 悪いのはこいつらで西園寺さんはオレたちを……!」
「そ、そうです先生! この男子たちが私のマ……先生を叩いたから……!」
オレと結城が必死に声をかけ、その後ろから高槻さんが「そうです、西園寺さんは何も悪くありません!」と発言するも教頭たちは聞く耳持たず。 「ではこの男児たちの姿はどう説明するんですか?」とボロボロの日焼け男とおもらし男を指差し尋ねてくる。
「えっと……ですからこれは……!」
そしてこれを勝機と見たのだろう。
おもらし男がここぞとばかりに被害者演技を開始。 「この女に突然ボコボコにされた」と再び泣きながら西園寺を指差し睨みつけた。
「なるほど。 この子はそう言ってますけど……どうなのかね、えっと……西園寺さんだったか」
教頭が西園寺の目線に高さを合わせるように腰を落としながら西園寺に顔を近づける。
しかし西園寺もそんな圧に一歩も引かず、教頭の目に視線を合わせた。
「教頭先生。 この男子、嘘言ってますよ」
「嘘? ならこの子の横で倒れてる子はどう説明するんだね?」
「そこのおもらし君と喧嘩してたからじゃないですか?」
流石は去年前半まで女子のドンを張っていただけのことだけはある。
西園寺は一切感情を乱さずに冷静に対応……その甲斐あってか数人の教師が「確かに女の子にここまでのことが出来ますかね」とこちらサイドに肩を持つような言葉を教頭に投げかけはじめる。
「そう言われればそうかもしれませんが……では他の先生方はなんで2人が喧嘩していたのに2人とも負けたような姿になってると思います?」
この教頭の言葉に味方になりかけていた教師たちが一斉に黙る。
これは西園寺……絶対絶命のピンチか?
ーー……仕方ねぇな。
教師たちが味方になってくれないのならばもう方法は1つだけ。
ここはオレがやったことにしてまずは西園寺をこの件から外す……その後にオレ自身うまく切り抜けるしかないよな。
もし何かしらのペナルティを課せらそうになったとしても、まだオレには望みがある。
それこそ今朝トイレで聞いた校長の通話相手……もしあの話し相手が優香で校長が優香国の民だったとしたら、オレの処分は無くなる……最低でも一番軽い処分になるはずだ。
西園寺、今助けるからな。
オレは「ふぅ……」と小さく深呼吸。
ゆっくりと結城の前に出て西園寺の隣に並び、小さく手を上げようとした……その時だった。
「オレがやり……」
「私、見てましたよ」
ーー……!!
突然教頭たちが来た方向とは逆……教員用の駐車場がある場所から声が聞こえてくる。
そこに視線を向けるとあれは……水島だ。
今回のクラス替えで別々のクラスになってしまったが、そこにいたのは学年の現マドンナ・水島花江が校舎の影からひょこっと顔を出していた。
「君は確か……水島さんだったね」
「はい、そうです6年2組の水島花江です」
教頭の声に反応した水島が見た目とはかなりギャップのある……久々の真面目モードでゆっくりとオレたちの前へと歩み寄ってくる。
そして西園寺の手を握り男2人を指差すと、再び教頭たちに「私この一部始終見てましたよ」と話を切り出した。
「そ、そうなのかね?」
「はい。 西園寺さんが声をここで大きくして言えないのも、高槻先生が言葉を濁しているのも仕方ないんです」
そう言うと水島は西園寺を優しく抱きしめ、「もう大丈夫だからね」と耳元でワザとらしく優しく囁く。
「どう言うことだ?」
教頭たちの視線が水島に一気に集中。
しかし水島も流石はマドンナといったところか……注目を浴びることに慣れているのか、その堂々とした姿勢で男2人に視線を向けたままこう発言したのだった。
「実はこの2人、西園寺さんを襲おうとしてたんです。 それで止めに入ろうとしていた高槻先生に手を出してました」
「「な、なんだってええええええ!?!??!??」」
水島の言葉にオレや結城・西園寺・高槻さんは心の中で。 教頭たちは声に出して大きく叫ぶ。
ちなみにお漏らし男は……これでもかというほどにアゴを外して驚いているぞ。
「そ、それは本当かね!!!」
「はい。 高槻先生に手を出したところでそれに気づいた福田くんと結城さんが駆けつけて止めに入って……それで隙を見つけた西園寺さんが2人の後ろに回って大事なところを蹴り上げた……それが真相なんです。 私は怖くて止めに入ることが出来なかったのでさっきまであそこで隠れてました」
おおお、この短時間でここまでの嘘情報を構築できるなんて……!
そういや水島がまだこっちサイドじゃなくて敵だった頃、エマが水島のことを『知能は高校生並みかそれ以上』って言ってたもんなぁ。 いやぁ流石だ!!!
水島の言葉はかなり的を得ていたのか教頭たちのヘイトが一気に男2人へと向けられる。
「確かにそれなら2人が倒れているのも納得がいく……それに西園寺さんの行為は正当防衛ですしね」
「そうですね、それに許されざるべきはこの男子生徒2人の行為……女の子を襲うなんて……到底許されることではありません」
「そりゃあそんなこと、こんな大人がたくさんいる場で言えるわけないよね。 ごめんなさいね西園寺さん」
おおおお……おおおおおおおおお!!!!
マドンナ水島の降臨により一気にこちら側が優勢に。
高槻さんが少し困った表情をしていたのだが、そこは愛しの娘・結城が手を握ってきたことにより全てを理解したのだろう……何も言わずに黙ってくれていたのであった。
そして締めは西園寺の一言。
「実は……そうだったんです」
これが決め手となり男2人は教頭たちに捕らえられ職員室へと連行。
教頭たちの姿が見えなくなったことでようやくオレたちは安堵の息を漏らした。
「ねね、どーだったぁ!? 花ちゃんの久々の真面目モードー!」
一気にホワホワ状態に戻った水島がクルリとオレに体を向けてきて柔らかく微笑んでくる。
「おお、助かったぞ水島。 流石だな」
「エヘヘー。 でもビックリしたよー。 なんか先生たちの怒った声が聞こえたからどうしたのかなーって思って覗いたらあんなことになっててー」
「でもお前校舎裏で何してたんだ?」
「え? たまたまあそこに隣町の男子に呼び出されて……告白されてただけだよ?」
水島が「なんで?」と不思議そうに首を傾げる。
「こ、告白……!?」
「そだよー。 昨日に続いて今日もだよー。 もう花ちゃん、断り疲れちゃったー」
水島が大きく口を開きながら「ふぁあ」とあくびをする。
もうあれか? 告白されすぎて人に言うのも恥ずかしくない域に達しちゃってるのか!?
これには結城も驚いた表情で水島を見ている。
「す、凄いんだね……水島さん」
「へへー、ありがとー。 結城さんにも隠れファンはいるんだから気をつけるんだよー」
「えっ?」
なん……だと……。
水島は結城の肩をポンと叩くと「それじゃねー」と再び正面玄関とは反対方向……教師用の駐車場の方へと駆けていく。
「お、おい水島。 そんなことよりも聞きたいことが……てかそっちにまだ用があるのか?」
「そだよー、花ちゃんモテるんだから♪」
水島はニコリと微笑んでピースサイン。
「それじゃ、今日の残り断ってくるねー」とポケットからラブレターを取り出し、「次は……あっちか」と呼び出された場所へと向かっていったのだった。
「え、そんなモテるもんなの?」
オレが小さく呟くと西園寺が「まぁたくさん男子も入ってきたからね」と隣で頷く。
「そうなのか?」
「うん。 私も昨日2人に告白されて……今日も昼休みに1人に告白されたもん」
「えええええええええええええ!?!?!?!?!?!?」
あまりの衝撃にオレは数歩下がり尻餅をつく。
「ち、ちなみに結城さんは……ないよね?」
「え、私?」
「うん」
「私はないよ。 私、水島さんや希みたいに可愛くないから」
結城が「2人とも凄いよね……」と呟きながらエヘヘと笑う。
「でも桜子、さっき水島さんが言ってたけど……桜子にも隠れファンがいるって言ってなかった?」
「う、うん。 それに私ビックリしちゃってる。 誰なんだろ」
いやああああああああああ!!!! その話題をそれ以上広げないでええええええええええ!!!!
この西園寺と結城の会話によりまったくモテていないオレのメンタルは完全崩壊。
その後2人が話していた会話はなるべく聞かないよう……両手で耳を塞いでいたのだった。
すると背後から……
「ごめんなさーーい!! どこのクラスの男子か分からないけど引きとめられて告白されて遅れちゃったぁー!! ていうかダイキも桜子もなんで校門にいないのよ、探したじゃないーー!!!」
「エマァアアアアアお前もかぁあああああああああああ!!!!!!!」
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久々登場マドンナ花江ちゃん!!
なんだかんだ作者お気に入りの1人でございますっ!




