410 たまたま①【挿絵有】
四百十話 たまたま①
目の前には傘を高く振り上げた結城の後ろ姿。
そしてその奥では腹部を押さえてうずくまっている隣町出身の男2人がいることからオレは結城が天使の裁きを下したものとばかり思っていたのだが……
ーー……いや、違う。
再び結城に視線を戻し顔の辺りを見てみると、結城の視線は目の前にいる男2人に向けられていない。
何故あいつらじゃなく右を向いているんだ?
オレは一体何事かと思い結城の向けている先に視線を向けてみることに。
そしてその先にいた人物を瞳で捉えた瞬間、全身の鳥肌が激しく逆立った。
そこにいたのは明るめの茶色の長髪をなびかせた……
「さ、西園寺!?!?」
そう、そこにいたのは西園寺。
西園寺が怪物のオーラを纏わせながら片脚を上げているではないか。
ーー……パンツを履いていないところは今は突っ込まないでおこう。
ということは西園寺が蹴り飛ばしたのか?
オレが西園寺の名を叫ぶと西園寺は「スゥー……」と小さく息を吐き、上げていた脚をゆっくりと地面につける。
「大丈夫だった? 桜子、福田くん、先生」
西園寺が殺気に満ちた目を男たちに向けながら結城の前へ。
「ーー……希?」
「福田くんと桜子がここに走って行く姿が見えたからどうしたのかなって思って行ってみたら……怪我はない? 桜子」
「う、うん。 私と福田……くんは大丈夫。 でもママが……」
「そう」
西園寺は結城やその後ろにいるオレや高槻さんを守るよう、腕を組みながら男たちの前に立つ。
「お、お前……何組だよクソ女!」
お腹を押さえた日焼け男がゆっくりと立ち上がりながら尋ねるも、西園寺はそれを無視。
日焼け男を静かに見つめたまま小さく口を開いた。
「どっちが先生に手を出したの?」
「ーー……!?」
西園寺から発せられる怪物的なオーラを察したのか日焼け男の喚きがピタッと止まる。
「え、えーと西園寺さん? 私……先生は大丈夫ですよ?」
「いえ。 手を出されたことに変わりはありませんよね。 それもよりによって桜子の大事な人……」
西園寺は一瞬後ろを振り返りそう答えるも、すぐに視線を男2人へと戻す。
「ーー……で、どっちがやった?」
西園寺の全身から発せられる凶暴的なオーラが男2人を包み込んでいく。
「お、お前何言って……俺らは別に誰にも……!」
「うそ」
そう短く答えた西園寺は目の前に立つ日焼け男の股辺りに強烈な蹴りを真下からお見舞い。
パァン!!!とまるで紙風船が勢いよく潰れたような音が周囲に鳴り響き、その後日焼け男は白目を剥き崩れ落ちた。
「さて……」
西園寺はその隣でビビり散らかしているもう1人の男に視線を移す。
「ご……ごめんなさい!!!」
そりゃあもう謝るしかないよな。 日焼け男の失神を見たからなのか腰を抜かして立てないのであろうもう1人の男が、体をガクガクと震わせながら西園寺に頭を下げだす。
「何が?」
「えっと……何がって言われても……!」
「君もそのお友達みたいに蹴られたいの?」
「ひ……ひぃいいいい!!!!!」
隣町出身男が瞬時に股間辺りを両手で覆い隠す。
「何をそんなに怯えてるの。 さっきの……そこに倒れてるお友達はたまたま当たっただけだよ? わざと狙ったわけじゃないの」
た、たまたまタマt……ゲフンゲフン。
そういえば西園寺って柔道か空手か……なんかそっち系習ってるって言ってたよな。
てことは蹴りにも相当磨きがかかっているはずであってそれがダイレクトアタックしたと考えると……おおおお、なんか何処とは言わないけどキュッとしちゃうぜ。
隣町出身男はあまりの西園寺の恐怖に限界を超えたのだろう……股の間から地面を濡らしながらワンワンと泣き始める。
しかしそんなことで怒りが収まらない西園寺が「泣いて済むと思ってるの?」と一歩隣町男へと近づいた……その時だった。
「こらーーーー!!! そこで何をしてるんだーーーーーー!!!!!」
突然遠くから聞こえてきた怒鳴り声。
それは正面玄関の方からで、視線を向けてみるとこの状況を見た誰かが知らせたのだろう……そこには教頭やら他の教員やらが鬼の形相でこちらに全速力で向かってきていたのであった。
ーー……え、これって今の展開的にヤバくね?
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