409 天使の裁き!?
四百九話 天使の裁き!?
それは新学期2日目。 今日は安全に終わったなーと感じながら結城・エマと並んで正面玄関を出て……校門へと向かっている時のことだった。
「クッソー、結局雨降らなかったな」
今朝の天気予報では降水確率が80パーセントと言っていたのにも関わらず、空を見上げれば雲1つないこの快晴具合。
オレが「カサ邪魔だわー」とボヤいていると、隣でエマが「あ、やっちゃった」と突然立ち止まる。
「ん、どうしたエマ」
「エマ、教室に問題集忘れてきちゃった。 取りに戻るから先に帰ってて」
なんか今日のエマはかなりおっちょこちょいだな。
授業中当てられても気づかなかったり給食中、食べ物を口に入れたままフリーズしてたり……まぁ今朝の悩み事が原因なのは明らかなんだけど……。
「いや、別に教室まで取りに戻るだけだろ? だったらここで待っとくぞ?」
「いいの?」
エマが「でも……なんかそれは申し訳ないわ」とオレと結城を交互に見る。
「いいんだって。 それに今日のエマはかなり危なっかしいからな。 1人で帰らせて何かあったらたまったもんじゃねえよ」
そうエマに告げた後、「ねぇ結城さん」と結城に尋ねると結城も「うん、待ってるよ」と頷く。
「そう? じゃあちょっとごめんだけど行ってくるわね」
こうしてエマは小走りで校舎の方へ。
その間オレと結城はそんなエマを待つため、校門付近で突っ立っていたのだが……
「あら福田くんに桜子。 今から帰るの?」
「あ、ママ!」
結城がその声にすぐに反応。 そう……そこに現れたのは今結城の母親代行を務めている高槻さん。
オレと結城の姿を見つけるなり、嬉しそうにこちらに近寄ってきた。
「あれ、高槻さ……先生。 なんで職員室にいないんですか?」
「それはですねー、ほら……福田くんは今朝の全校集会で校長先生が仰ってた言葉覚えてます?」
高槻さんが人差し指を立てながらオレに尋ねてくる。
「全校集会で……あー、アレですか、見回りですか」
「その通り正解です」
高槻さんは「流石ですね」と優しく微笑みながらオレに顔を近づけてくる。
「先生も大変ですねー、お疲れ様です」
「ふふ、ありがとうございます。 まぁでもこれで皆が安心出来るのならお安い御用ですよ」
「ママ、頑張ってね!」
結城が満面の笑みで高槻さんの手を握る。
「ありがとう桜子。 今日は昨日よりは早く帰れると思うから、一緒にご飯食べようね」
「うん!!」
あぁ……親子愛、素晴らしきかな。
2人はもう血の繋がりなど関係ないほどにめちゃくちゃ親子じゃないか。
この空間を邪魔してはいけないと悟ったオレは静かに1歩下がり、2人のやり取りを眺めることに。
「ママ、今日の夜何食べたい? 私、作っとくよ?」
「そうー? じゃあ桜子の得意な肉じゃが食べたいかなー」
「分かった! お仕事終わったらメールか電話してね! 帰ってくる頃には温めて待ってるから!」
「ありがとー桜子ー。 じゃあママ、お仕事頑張ってくるねー」
「うん!」
あぁ……尊いんじゃあ。
高槻さんは「じゃあママ、また行ってくるね」と再び見回り活動へ。
小さく手を振りながら校舎裏の方へと向かって行ったのだが……
「あーこらそこー! 喧嘩しないのー!! 離れなさーーい!!!」
突然高槻さんが何かを見つけたのか大きな声を出しながらその先へと走っていく。
オレと結城は互いに顔を合わせ、あくまで高槻さんが心配だったので行ってみることにした。
◆◇◆◇
向かってみるとそこで喧嘩していたのは隣町出身の生徒同士。 そのうちの1人は……あ、日焼け男だ。
お互いに取っ組み合いながら殴る蹴るを繰り返している。
そういや競技会の舞台になった廃校に行った時も、まだ始まってもないのに運動場でやりあってたなぁ……。
「お前が先に睨んできたんだろ!!!」
「ふざけるなお前だろ!!」
同い歳くらいのガキどもがまぁ元気なことで。
高槻さんが間に入り引き剥がそうとしているもののまったく剥がれる気配もない。
「こーらー! もうやめなさい!」
「うるせぇババァ!!!」
「こいつが悪いんだよ!!!」
ガキども2人は高槻さんの制止を物ともせずにバチバチを続行。
しかし高槻さんも負けじと2人を必死に引き離そうとそのバチバチの中に入っていく。
「ちょっと高槻さん、そこから離れた方が……!」
「そうだよママ! 危ないよ!!」
オレたちのそんな声も日焼け男たちの声でまったく聞こえていない様子。
これはもうオレが特攻して止めさせるしか方法はないのかもしれない。 そう思いオレがランドセルを下ろして地面を強く踏みしめた……その時だった。
「っち、邪魔だどけ!!!」
「きゃあっ!!」
日焼け男が振り払った手が高槻さんの顔面に直撃。
怪我こそしてなさそうだが顔にモロに直撃したんだ……流石に高槻さんも顔を手で押さえながら数歩下がり、その場で小さくしゃがみこんだ。
「ちょっ……!! 高槻さん!!!」
オレはすぐに高槻さんのもとへ。
日焼けたちの攻撃が更に当たらないよう日焼け男たちから守るように高槻さんの前に立つ。
「あ、福田くん……」
「いやいや高槻さ……先生! 大丈夫ですか!?」
「は、はい。 別に鼻血等も出てないようですし……当たったところがよかったみたいです」
「そうじゃないでしょう!! なんで1人で止めようとするんですかー!」
「それはやっぱり私が先生だから……?」
「そうじゃなくてですねぇー!!!」
あーこれはもう結城からも説教してもらうしかないな。
オレは結城がいるであろう方向に顔を向け、「ねぇ結城さんもそう思うでしょ!?」と同意を求めてみたのだが……
「ーー……あれ、結城さん?」
さっきまで立っていた場所に結城の姿がない。
ていうかそれ以前にさっきまでうるさかった日焼け男たちの声が止んでいるような……。
オレは一体何があったのかとゆっくりと後ろを振り向くことに。
するとどうだろう……これはどう説明したらいいのだろうか。
オレの目の前には傘を高く振り上げている結城の後ろ姿。
そしてその奥にお腹あたりを押さえてうずくまっている2人が見えたのだった。
もしかしてこれ、結城がやったのか?
仮にそうだとしたらこれこそまさに……天使の裁き!?!?
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