400 振り回され天使!!
四百話 振り回され天使!!
春休み最終日。 普通ならこの日の行動って基本的に2択だよな。
1つは連休ラストだし遊びまくるぜー派。 そしてもう1つはラストだしゆっくりする派。
そしてオレはというと……
「ーー……ねぇ、ここにオレ必要?」
オレは大きなため息をつきながら目の前で立っているエマに尋ねる。
「当たり前じゃない。 ダイキもサポートとはいえメンバーでしょう?」
「それはそうなんだけど……」
そう、オレは今メイプルドリーマー妹オーディション第1次審査の練習場所としてかなりの頻度で利用していた場所……いつもの公園に来ていたのだ。
ベンチに座っているオレの隣には足をプラプラさせながら天使の笑顔を振りまいているエルシィちゃん。
そして目の前にはエマの他にも三好……それと今回の第2次審査を見事通過した小畑の姿があった。
「それでミナミ、三次審査のための歌とダンス動画が送られてきたんだって?」
「うん、ちょうど昨日ね。 三次審査は今週の土曜みたい」
「なるほどね。 とりあえず見せてくれる?」
「うん」
小畑……足の調子、好調みたいだな。
ここに来る時ももう足を引きずってはおらず、包帯も巻いていない……普通に歩いたりしても痛みは全く無いようだ。
こうして小畑は運営事務局から送られてきた動画を流しているスマートフォンをベンチの上に置き、オレたちはそれを囲むようにして画面に視線を向けたのであった。
◆◇◆◇
運営事務局が指定してきた歌とダンスの動画を視聴後。
三好が「いやこれ無理じゃん」とポツリと呟く。
「なんか私……二次審査で落ちてよかったかも。 こんなの私の頭じゃ数日で覚えられないわ」
うん、三好がそう言うのも納得できるぜ。
確かにオレも送られてきた第三次審査用の動画を見た率直な感想としては、これはアカンやつ!!!って印象だ。
アップテンポなリズムに合わせて身体を激しく動かしながら歌っているのだが、オレからしたら『これ息持つの!?』レベルだからな。
小畑もどうやら昨日この動画を見た時は三好と同じ台詞を呟いてしまったらしく、それから夜通しリピートして1人練習していた模様。 そしてその結果をエマや三好、オレに見て欲しいということだったのだ。
「ええええ!?!? 美波、これ一晩で覚えきったの!?」
三好が目を大きく見開きながら小畑に尋ねる。
「まぁね! 時間ないんだからこれくらいはしとかないとって思って!」
「頭の中どうなってんのさ!」
「ふふん! そこは私って案外記憶力いいからね! やろうと思えばこうして出来るってことよー!」
三好の反応で気を良くした小畑は「じゃあ一回踊ってみるから見ててよ」とスマートフォンをエマに渡してオレたちの前へ。
エマの「それじゃあ再生するわよ」のカウントダウンとともに、小畑のファーストテイクが始まったのであった。
ーー……のだが。
「ちょ、ちょっとミナミ! ストップ!! ストーーップ!!!!」
華麗な滑り出し……と思っていたのだが、エマが序盤で焦ったように手を前に出して小畑の動きを止めに入る。
「ん、どうしたのエマ。 私速攻ミスってた?」
「いや……ミスってたって言うよりも……」
「え、なに?」
「ミナミ、動画見ながら練習してたのよね」
「うん」
小畑がコクリと頷くと、エマが「ちょっとこっちきて」と小畑を呼び寄せる。
その後スマートフォンの画面を見せた。
「あのねミナミ、これちょっと説明するの難しいから実際に見せるけど……ねぇカナ、そこに立ってもらえる?」
エマが三好に目の前に立つよう指示をする。
「え? いいけど……ここ?」
「そう。 それで右にジャンプしてもらえるかしら」
「右ね。 はい」
三好はエマに指示された通り、ポニーテールを弾ませながら右にピョンと飛んだ。
「ーー……分かった? ミナミ」
「え?」
「ミナミから見て、カナはどっちにジャンプした?」
それに対し小畑は「え、こっちだよね?」と三好の飛んだ方向を指差す。
「そうね。 ミナミから見たら左方向……でもカナが実際に飛んだ方向は?」
「ーー……あ」
その声とともに小畑の顔が一気に青ざめる。
しかしまだオレと三好はあまり理解しておらず頭上にはてなマークを浮かべていたのだが……
「ねぇミナミ。 エマの言ってる意味……分かってくれた?」
「ーー……やっちゃった。 そういうことか」
「「?」」
「私……全部振り付けを左右逆で覚えちゃってたってことだよねえええええええ!!!!!!」
「「えええええええええええええええええええええ!?!?!!??!?!?」」
そこからはもはや熱血スポーツ漫画並みの猛烈な練習。
エマ教官指導のもと小畑は間違って覚えた振り付けを強制的に覚え直していく。
そして一方蚊帳の外になってしまったオレや三好、エルシィちゃんはというと……
「はぁい、カニャちゃん、ごはんなのよぉー」
エルシィちゃんがエアーでお茶碗を持ちながら三好の前に「どうじょー」と渡す。
「あ、ありがとう……ママ」
「いっぱぁい、あるからねぇー? しゅききらいは、ダメなのよぉー?」
「う、うん……いただきます」
三好は顔を真っ赤にさせながらエアーで渡されたお茶碗を手に取ると、「うん、美味しいよ」と言いながら中に入っているのであろうご飯をモグモグと食べ始める。
「ーー……プククッ」
思わずオレの口から声が漏れる。
そう……見てもらえば分かる通り、熱血指導のすぐ隣ではエルシィちゃん主体のおままごとが開催されていたのであった。
それに付き合わされてしまった三好はオレの笑い声を聞いてキッと睨みつけてきた。
「カニャちゃん、がっこーは、どーなのー?」
「が、学校? うん、えっと……まぁその、楽しい……よ?」
「それは、よかったのねぇー。 ママは、カニャちゃんが、たのしいのが、いちばん、なのよー?」
「ーー……あ、ありがとう。 マ……ママ」
「ぷクス……あははははははははは!!!!!!!」
これは我慢しようと思ってたけどもう無理だ!!!!
あのうるさい三好がこんなロリッ子ママにタジタジで……それに今にも逃げ出しそうなくらいの真っ赤な顔が実に面白い。
オレがお腹を抱えて笑い転げていると、三好が「ちょっと福田、うるさい!!!」とオレにブチ切れてくる。
「なんだよカニャちゃん、そんな言葉遣いは良くないぞー?」
「カ、カニャちゃ……!?」
「そうだぞカニャちゃんー。 そんな言い方してたらお友達できなくなっちゃうぞ? ねぇエルシィちゃん」
ここはもうこの状況を利用して三好を完全に辱めてやるぜ!!
そう思いオレはエルシィちゃんに話を振ってみたのだが……まさかあんな展開になるなんて。
「んー? ダイキ、どしたぁ」
エルシィちゃんがキョトンと首を傾げながらオレを見上げる。
「あのねエルシィちゃん、カニャちゃんがオレに怒ってくるんだよ? これダメなことだよねー」
「そーなん? カニャちゃん、おこてゆのー?」
そうエルシィちゃんが純粋な視線を向けて三好に尋ねると、三好が「え!? だってほら、それは福田が笑うから……!」とオレを指差す。
「カニャちゃん、プンプンは、メッなのよー?」
「ほら見たか三好! そう言うことだ!」
「ダイキは、あかちゃんなのよー? あかちゃんには、やさしくしないと、ダメなのねぇー?」
ーー……え。
オレは一瞬固まった後に一度三好に視線を向けてからエルシィちゃんにその視線を戻す。
「えっと……エルシィちゃん? 今なんて言った? オレ、赤ちゃんなの?」
それに対しエルシィちゃんは「そうよー? ダイキは、エッチーの、あかちゃんなぁー」
「ええええええええええええええ!?!?!?!?」
これによりオレと三好の立場が一気に逆転。
今度は三好がオレを指差しながら「アハハハハ!!!!」と涙を流しながら笑い出す。
「う、うるせえぞ三好!!!」
「ほらダイキちゃん!! 赤ちゃんなんだから大人しくしまちょーねぇ!!! あれかな? もしかしてお腹空いちゃってるからご機嫌斜めなのかなぁー!?」
「ぐっ……この……このやろおおおおおおおおおお!!!!!」
エルシィちゃんの決めた設定に文句を言えるはずがない。
オレが三好の煽りに必死に耐えていると、三好がトドメと言わんばかりにエルシィちゃんに「ねぇママー!」と話しかける。
「どしたぁカニャちゃん」
「ダイキちゃん、お腹空いてるんだって! ダイキちゃんにも何かご飯作ってあげたら!?」
「なっ……!」
三好の言葉にエルシィちゃんは「そうなんかぁー」と大きく頷き体をオレに向ける。
「エ……エルシィちゃん?」
「ダイキ、いまは、エッチーは、ママ、でしょおー?」
なんだろう……自分の中の何か大事なものが壊れていく気分だぜ。
オレは崩壊していく自分の心を感じながらエルシィちゃんに「わ、分かったよ。 マ……ママ」と頷いた。
「じゃあ、ダイキにも、ごはん、あげましょーねぇー」
エルシィちゃんが気を取り直してオレにエンジェルスマイルを直に向けてくる。
これはもう三好同様付き合うしかねぇ……そう悟ったオレは心を決めて「そうだね、お腹空いたなー」と話を合わせようとした……のだが……
「ねぇママー、ダイキちゃんのご飯ってなんなのー?」
そう三好がエルシィちゃんに尋ねると、なぜだろう……エルシィちゃんは自身の胸のあたりをポンポンと叩き始める。
「そうねぇー、ダイキは、まだ、あかちゃん、なのよねぇー。 じゃあ、ダイキは、エッチーの、おぱぁ、あげゆのよー?」
「「ーー……!?!? お、おぱぁあああああああああ!?!?!?」」
オレと三好が声を合わせて驚くと、エルシィちゃんがおもむろに自分の上着をめくる動作に入りだす。
「ちょ、ちょっと待ってエルシ……ママぁーー!!!!」
即座に危機感を覚えた三好が必死にエルシィちゃんの上着を抑えてそれを阻止。
エルシィちゃんは頭上にはてなマークを浮かべながら三好を見上げた。
「なんなーカニャちゃん」
「な、なななな何やってんのさママ!」
「んー? ダイキ、あかちゃんだから、おぱぁ、あげゆのよー?」
「おぱぁってなに!?」
「どしたぁカニャちゃん。 おぱぁは、おぱぁなのよー」
「いやいやなんでそこだけエアーじゃないのさ! それにエルシィ、そもそも出ないでしょ!!」
ーー……何が出ないんだろうね。
純粋なオレにはさっぱり分からないナァ。
オレがそう心の中でツッコミを入れながら見守っていると、エルシィちゃんが「そうねー、こまったわねぇー」と指先を唇に当てながら考え出す。
これはもしかしたらオレだけおままごと離脱出来るんじゃないか……そんな淡い期待を描いた、その時だった。
「そだぁ、カニャちゃんが、エッチーのかわりに、おぱぁ、あげればいいんだぁー」
「「!!!!!!!!!!」」
うん、エルシィちゃんには何も悪気のないことは分かっているさ。
でも……でもな。 その発言の後、オレと三好の顔が隣で激しく体を動かしていた小畑よりも赤くなっていたことは言うまでもない。
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さぁ次回、とうとう新学期!(の予定!!)




