397 特別編・エマの結果!
三百九十七話 特別編・エマの結果!
【受信・カナ】私オーディション落ちちゃった。 さっき美波に連絡したら美波は通過したんだって。 エマはどうだった?
夜。 小畑美波を手伝うため、メイプルドリーマー妹グループオーディションに共に参加した三好佳奈からのメール。
エマは自室で佳奈からのメール内容に目を通しながら小さく息を吐いた。
先日受けた第二次審査。
受かった落ちたで答えられたならどれだけ楽だっただろう。
エマは深く息を吐きながら佳奈からのメールを一旦閉じ、少し前に届いた運営からのメールを再び開き目を通す。
【受信・運営事務局】お久しぶり、メイプルドリーマー・マネージャーの今井です。 面談の際に提案した話、どうかしら。
「はぁ……なんでこうなるのよ」
エマはベッドの上でポツリと呟くと、先日の第二次審査・面談での出来事を思い出していた。
◆◇◆◇
面談当日。
面接部屋に通され中に入ると大体教室と同じくらいの広さとなっており、奥には今回の面接官らしき人物が5人。
その中には以前お世話になった鬼マネこと今井夏帆の姿もあった。
「えー、ではエマ・ベルナールさん」
「はい」
「先にお伺いしておくのですが、エマさんはどうやらフランス出身とのことですが……日本語の方は問題ありませんか?」
やはりきたかこの質問。
大体何を聞かれるかの予想をしていたエマはすぐに「はい、問題ありません」と即答。 「なんなら少しくらいなら難しい言葉を使って試していただいても構いません」と追加する。
「なるほど、その様子だと本当に大丈夫そうですね」
「ですな」
「うむ」
エマの受け答えを見た面接官たちは日本語が通じることに安心したのだろう。
安堵の表情を浮かべながら互いに笑い合い、いい雰囲気の中面談が始まったのだが……
今回の面談はどうやら第1次審査のパフォーマンスの映像を流しながらするというものらしく、エマの右側の壁に設置されていたプロジェクターに先日のパフォーマンス映像が流れ始める。
「あぁ、このチームの子か!」
「パフォーマンス最後のセンターの子の印象が強かったからあれだったけど、君、かなり輝いてたね」
そんな感想が飛び交う中、1人の男性がエマにこう質問を投げかける。
「この振り付けは誰が?」
「あ、それはエマ……私と仲間たちとで考えました」
ーー……あれ、佳奈から聞いてた話と違うな。
というのもエマは事前に……先に面談を受けた佳奈からどんな感じの内容だったのかを教えてもらっていたのだ。 佳奈の場合はアイドルの印象とどうしてこのオーディションに参加したか……の質問だけだったっぽいのだが。
それにプロジェクターに映像を流しながら……というのも聞いていない。
佳奈の時とは全く違う展開にエマはわずかに首を傾げる。
しかし結局は面談……やはり情報共有対策でもしているのだろうとエマは考え、続く質問に対応するべく脳を切り替えた。
ーー……のだが。
気持ちを切り替えるのは得意だったはずのエマだったのだが、それは次の質問で一気に崩壊する。
その質問をしてきた人物こそ……小山楓の頃に相当お世話になったあの鬼マネだったのだ。
「エマさんに質問があります」
そう言うと鬼マネは席からスッと立ち上がりプロジェクターの前へ。
するとちょうど画面にはパフォーマンスを終えたタイミングのエマたちの姿。
そこで鬼マネは動画を一時停止させ、画面中央に映る……小畑美波を指差した。
「この子……小畑美波さん、後にスタッフから聞いた話によると別の参加者に妨害を受けて足を痛めてしまっていたようですけれど……」
鬼マネが美波を指差しながら視線をエマへと向けてくる。
ーー……舞台裏とかで肩かしてたりしたから流石にスタッフにも見られていたのだろう。
「どうしてエマさんたちはそこでパフォーマンスを中断しなかったのかしら」
「それに気づいたのはエマだけです。 同じ参加した三好佳奈はステージから降りるまで気づいてませんでした」
「いいえ、私はどうして中断しなかったのかを聞いています」
久々に感じる鬼マネのオーラ。
エマはそのピリついた空気を肌でヒシヒシと感じ取りながら、この鬼マネには何を隠しても無意味だ……そう悟り本当のことを話すことを決めたのだった。
「足を痛めてるのに苦しい表情1つせずにここまでやり切ったんです。 台無しにするなんて選択エマにはありませんでした」
「台無し? それは小畑さんの努力がかしら」
「そうですね。 ですが、それだけではありません」
エマは首を左右に振りながら立ち上がると、面接官に「少しだけ動画を巻き戻してもえらえませんか?」とお願いし、プロジェクター前……鬼マネの隣に静かに移動した。
映像が約30秒ほど巻き戻されたことを確認したエマは目の前にいる鬼マネを見上げる。
「この歓声……聞こえますよね」
「えぇ、そうね」
「私の中ではかなり盛り上がっていたと思うのですが、この盛り上がりで止めてしまうと私たちのステージのみならず……このオーディション自体が台無しになると考えました」
エマは挑戦的な目で鬼マネから他の面接官へと視線を移動。
「そうは思いませんか?」と逆に質問で返す。
「そ、そうだろうか」
「はい。 もしここで盛り上がりを無視して中断したとしましょう。 そしたら私たちの今までの努力も台無しですが……この会場の空気、一気に冷めて今後の参加者さんたちのパフォーマンスを純粋に楽しめなくなりますよね」
そう問いかけると面接官たちは「確かに……」と小さく呟き出し、「よくもまぁあの状況でそこまで君は考えられたね」やら「その状況把握能力、実に素晴らしい」と次々に拍手が起こり出す。
しかし勿論そう……鬼マネを除いて。
エマが席へと戻ろうとすると、鬼マネが「ちょっと待って」とエマに声をかける。
「なんでしょう」
「それでももし……今後の小畑さんの人生を考えるなら、会場の空気なんか無視して止めてあげるべきじゃなかった?」
ーー……うん、流石は鬼マネ。
そういう気遣ってくれてるところ……大好きだったよ。
エマは小山楓時代……彼女にお世話になった日々のことを思い出しながら後ろを振り返ると、優しく微笑みながらゆっくりと口を開いたのであった。
「あの子が本気なのは……パフォーマンス見てたら分かるでしょう? もしマネージャーの担当の子が大事なステージで美波と同じ立場になったとしたら……止められますか?」
こうしてエマの面談は終了。
どうせこのまま進んだとしても最終内定までには落ちるだろうし、今回結構言い返してしまったんだ。 ここで自分も落ちるだろう……そう思いながら席を立ち扉に手をかけたのだが……
「エマさん」
鬼マネが静かに立ち上がるとエマの名を呼ぶ。
「はい」
「私、あなたをどうしても今回のメンバーに入れたくなったんだけど……皆さんはどうでしょう」
鬼マネが落ち着いた声で他の面接官に提案し始める。
ーー……え?
「ええと今井マネージャー、それはもう彼女……エマさんを選考せずに直接メンバーに入れるということですかな?」
「はいそうです」
「それは……大丈夫なのかね」
「はい。 おそらくうちのユウリ……松井ユリも賛成すると思いますよ」
「なっ……! どうしてユウリが!?」
「実はユウリを復帰に導いたのって彼女……エマさんとの出会いがきっかけなんです。 ユリもエマさんの実力は認めてますし」
「「「「な、なんだってェエエエーーーーー!?!?!?!」」」」
「ちなみにエマさん、高校でバスケ部に所属していたユリといい戦いをしたそうですよ。 先ほどの周囲のことを考える洞察力やメンバー想いの面もそうですが、体力面でも問題ないかと」
「「「「い、逸材だああああああああ!!!!!!!!」」」」
この鬼マネの一言により他の面接官のエマに向ける視線が一気に変わる。
「なんだ、先に言ってくれればいいものを!!」
「ユウリって確かバスケ部でレギュラー入りもしてたんだよな!?」
「そんな年の差をものともせずに……これは各ジャンルでいける!!!」
なんか勝手に話が進んでるみたいだけど……
エマは「あのー、私別に入るつもりは……」と恐る恐る手を伸ばしたのだが……
「「「君、合格!! 内定!!!」」」
「えええええええええええええええ!?!??!?!?」
その後エマが「いや……そんなことするのは他の参加者に悪いし、誘われてやっただけなので辞退します」と否定するも面接官たちはそれを全力で阻止。
「最終審査まで仮内定という形をとるからそれまでゆっくり考えて」と連絡先を渡されて帰宅したのであった。
◆◇◆◇
「ああああもう!! どうすりゃいいのよ!!!」
エマはスマートフォンをベッドに叩きつけると顔を枕に埋めて「ヴゥーーッ」と唸る。
「こんなことになるなら断ってれば良かった……」
そう小さく呟いたエマは気持ちを落ち着かせるべくリビングでアニメを見ていた妹・エルシィのもとへ。
後ろからぎゅっと抱きしめて心を安らげていったのだった。
「エマおねーたん、どしたぁ?」
「なんでもない。 エルシィ……エルシィはエマの味方よね」
「うんー? エッチー、エマおねーたんの、みかたよぉー?」
「ありがとうエルシィ」
「エマおねーたん、きょーは、あまえんぼーさん、なのねぇー。 エッチーが、ヨチヨチして、あげゆのよぉー?」
「ふ……ふにゃあ……」
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