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396 オレならどうする?


 三百九十六話  オレならどうする?



 三好を家まで送った後。 のんびりと家へと帰っていると、その途中、買い物帰りなのだろう……中くらいの大きさの買い物袋を持っていた結城と鉢あった。



「あ、福田……くん」



 オレに気づいた結城があまり距離も離れていないのにも関わらずオレのもとへと駆け寄ってくる。



「結城さん、買い物の帰り?」


「うん。 ママに会いに行ってた帰りにお夕飯のお買い物だよ」


「そうなんだ」


「うん、もうすぐもう1人のママもお仕事終わって帰ってくるから……ご飯作って待ってようかなって」



 結城がニコリと微笑んで「ほら……」と買い物袋の中身をオレに見せつけてくる。

 まぁ中身を見せられたところで料理をしないオレにとっては何を作るのか……とかは皆目見当もつかないのだが。



 オレはそれを誤魔化すために結城に「重そうだしオレ持つよ」と買い物袋を結城の手からヒョイっと持ち上げた。



「え、いいの?」


「うん。 結城さんも疲れてるだろうし」


「あ、うん……ありがとう」



 こうしてオレは結城と並びながら同じマンションへと帰ることに。

 別に話す内容もあまりなかったため、オレは無言のこの空気感を楽しんでいたわけなのだが……



「あのさ、福田……くん」



 オレが結城との2人の時間を懐かしみながら歩いていると、結城が視線を前に向けたままオレに話しかけてくる。



「ん? なに?」


「あのさ、福田くんってその……ママ……いないじゃない?」



「え」



 あまりにも唐突な話題振りに驚いたオレは思わず口から声を漏らす。



「えっと……結城さん? どうしたの突然」


「あ、その……ごめんねこんな話急にしちゃって。 福田……くんには言っちゃダメなことっていうのは分かってるんだけど……」



 なんだか深刻そうな雰囲気。

 ていうか別にオレからしたら気にしてることでもないんだけどな。

 


 ここは話しやすい空気にした方が良さそうだ。



 結城自らが話を振りづらい内容だと確信したオレは逆にこっちから聞いてあげてみることに。

 ちょうど目の前に自販機を見つけたので、飲み物を渡してゆっくりと話を聞いてあげることにした。




 ◆◇◆◇




「え、結城さんのお母さん……そんなにヤバいの?」



 オレの問いかけに結城が表情を曇らせながらコクリと頷く。



 そう、先ほどオレが聞かされたのはもうみんなもこの流れから分かる通り……結城の実の母親の容態についてだったのだ。

 どうやら症状が少しずつ悪化しているようで、高槻さんとお医者さんが話している内容を偶然聞いてしまったらしい。

 その会話こそ……



『このまま進行が進めば半年持たないでしょうね』


『そう……ですか。 何か……方法とかってもうないんでしょうか』


『残念ながら。 こればかりは移植や手術でも完璧には治らないので』


『ーー……そのことは、お母様ご本人には?』


『伝えてあります。 「娘さんには言わないで」と言われておりますので私どもの口からは言えませんが……私個人の考えとしましては、母親代わりのあなたには是非伝えてあげてほしいと思っております。 何事も心の準備は必要ですので』



 どうやら結城は前に不動明王の身代わりお守りを買った際、こっそりと母親用のお守りも買っていたらしいのだが効果はあまりないとのこと。

 


「それで私、もしママが病気に負けちゃったときのことを考えてみたんだけど……まったく想像出来なくて」



 負けちゃった時……亡くなった時か。



「なるほどね。 それでオレにどんな感じなのか聞いてきたってわけか」


「うん。 ほんとごめんね、不謹慎なこと聞いちゃって」


「あーいや、そこはあまり気にしてないから大丈夫だよ」


「こんなこともう1人のママには心配させちゃいそうで聞けなくって……」



 そんな感情を抱えたまま今日まで黙って耐えていたのか。

 そりゃあ毎日お見舞いに……会いに行きたくもなるよなぁ。 結局陽奈が遊びに来てた時も会えずじまいだったし。


 結城に視線を向けると結城は目に涙を溜めながら両手で持っている缶ジュースを強く握りしめている。


 こういうときオレはどう声をかけてあげればいいのだろう。

 少し前に小畑が目の前で泣いた時もそうだったのだが、それ以上にかけてあげる言葉が見当たらない。



 頭でも撫でてあげればいいのか?

 それともギュッと抱きしめて……?



 オレが脳内で行動すべき選択に悩んでいると、結城がオレを見つめていることに気づく。



「ん? 結城さん?」


「もし……なんだけどさ」


「うん」


「もし、福田……くんが私の立場だったら……どうする?」


「え」



 オレが結城の立場だったら?



「えっと……それはオレが今の結城さんだったら何をするかってこと?」



 オレの問いかけに結城はコクリと頷く。



「うん。 私は何も気づかないフリして、少しでも多くの時間をママと一緒に居ようって決めてたんだけど……福田くんだったらどうするのかなって気になっちゃって」


「なるほどね。 だったらオレは……」



 オレは自らを結城の状況に当てはめて考えようとしたのだが……



「あーー……」

 


 いや、考えるだけ無意味だな。

 


 オレは想像することを中断。

 まっすぐ結城を見据えた。



「福田……くん?」



 うん……考えるだけ無意味。

 だってオレ、似たような状況に最近あったばかりじゃないか。

 それは車に轢かれた優香の事案ではなくもう少し前のこと。



 茜だ。



 オレは茜が入院してるときにどうしてた?

 


 そう、オレは茜が少しでも元気になって希望を持ってもらえるよう……メールとか色々頑張ってたじゃないか。

 そして茜もそれを喜んでいた……となればオレが答える言葉はこれしかないだろう?

 


「オレならお見舞いはもちろんなんだけど、お母さんが喜びそうなことをとりあえず全部やるかな」



 このオレの回答に結城は大きく目を見開く。



「ママの……喜びそうなこと?」


「うん。 例えば一緒に思い出を作りたい……とかだったら一緒に編み物とかで1つのものを完成させたりとか、逆にお母さんの欲しいものとか知ってたのなら、頑張ってそれを手に入れてプレゼントする……とか。 とりあえずお母さんは結城さんに会えるだけでも嬉しいと思うんだけど、それに何かプラスするだけでもっと心から元気になるんじゃないかな」



 結城が「そんなこと……全然考えれてなかった」とポツリと呟く。



「私、間違ってたかも」



 結城の中で何かが変わったのか、結城の表情から曇りがほんの少しだが消える。



「えええ、別に結城さんの行動は間違ってないと思うけど」


「ううん、間違ってた。 だって私、ママのためじゃなくて……自分のために会いに行ってた」


「あ……なるほど」


「でもね、福田……くんのおかげで私……ママの為に何かできそう!」



 その後結城は手にしていたジュースをオレに押し付けると、「早速ママに聞かなきゃ! ありがとう福田……くん!」と家の方へと走り去っていく。

 オレはそんな結城の後ろ姿をただただ眺めていたのだが、結城の姿が見えなくなるとその視線をゆっくりと下へと下ろしていった。



 いや……こんな貴重な飲みかけジュース、オレに渡していいの!?

 吸っちゃうよ!? ペロペロしちゃうよ!?



「残して捨てるのは勿体無いからね!!!!」



 オレはそれからしばらくの間尊い結城成分をこっそりと摂取。

 その後すっきりして帰ろうとしたその時……オレは気づいてしまったのだ。



「あ、結城よ。 買い物袋忘れて帰ってどうする」



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― 新着の感想 ―
[良い点] ひさびさの結城ちゃん回! とてもとても尊い……。 やはりかわいいぜ! 今度は母がヤバいか……! ダイキの助言でどうにか良い方向にいくと良いな! そして、相変わらずのダイキに安心するたかし…
[一言] とりあえず、買い物荷物は、家に持ち帰って先生帰ってきたら渡してやりな?
[良い点] >福田くんってその……ママ……いないじゃない お前がママになr・・・ ・・・ 結城ちゃんがママになってくれるという方法もありますよ?(紳士) [一言] タイムリミットが・・・ 早いところ…
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