394 特別編・ネガティブとポジティブ
三百九十四話 特別編・ネガティブとポジティブ
福田ダイキと見知らぬ女の子とのツーショットを見てしまった日の夜。 西園寺家。
「あー……ダメだ、全然集中できないや」
自室で勉強していた希は本日購入した問題集をパタリと閉じた。
まさかあんな光景に遭遇してしまうなんて……。
見た感じそこまで仲睦まじそうな雰囲気もなかったので彼女……という訳ではなさそうなのだが、なんだろう、どこかお互いに安心しあっているような空気感。 それにあの女の子の呼んでいた福田ダイキへの呼び方も気になるところだ。
「ーー……ダイきち」
心で思っただけのはずなのに思わず口から溢れる。
そんな呼び方他の誰からも聞いたことがない。
「一体あの子は何者?」
何も手につかなくなった希はおもむろにスマートフォンを取り出し電話帳をタップ。
連絡先一覧の中から本日連絡先を交換した【三好さん】を選択し、今話せるかどうかの確認メールを送った。
【送信・三好さん】ごめん、今話せるかな。
【受信・三好さん】うわああああ!! 西園寺さん早速だね!! なになにどうしたの!?!?
◆◇◆◇
「あのさ、やっぱり私気になってあまり他のことが集中できないんだけど、やっぱりあれって……」
希が本日のことを一緒にいた佳奈に話そうとすると、佳奈が『え、ていうか……』と途中で話を遮ってくる。
「ん? なにかな」
『西園寺さんってさ、もしかして福田のこと……好きなの?』
ドキンッ!!
佳奈の純粋な言葉の矢が希の心に突き刺さる。
「え、なんでかな!」
『いや、流石に今更なんだけど……そこまで西園寺さんが気にすることなのかなって思って』
「あー、うん。 まぁなんとなくだよなんとなく。 やっぱり気にならない? あの子が何者なのか……とか」
本当なら先ほどの佳奈からの質問『福田のこと好きなの?』に対して「そうだよ」と答えたい。
しかし希も思春期真っ只中の女子小学生。 そう簡単に自分の恋心……想い人を人に話すことには抵抗があったのだ。
「それでさ三好さん、どうかな」
佳奈が少し黙っていたので希は再度尋ねてみる。
するとスピーカーの向こう側から佳奈の『フッフッフ……』と勝ち誇ったような声が聞こえてきた。
「えっと……三好さん?」
『西園寺さん』
「なに?」
『あれ私よくよく考えてみたんだけど、別にデートでもなんでもないって思うんだよね』
ーー……え。
「そうなの!?」
『そうそう! だってさ……』
そこから佳奈が話し出したのは、すれ違うギリギリに佳奈が確認したという福田ダイキの表情。
希は女の子と一緒にいることにだけ気を取られて他に目を向けられていなかったのだが、どうやら佳奈曰く……その時の福田ダイキの表情はかなり苦痛に満ち溢れていたらしい。
「すごいね三好さん、そこまでみてたんだ」
『まぁ偶然ね。 福田のやつ、お腹さすってたからどうしたのかなーって思って』
「へぇー。 三好さん、福田くんのこと良くみてるんだね」
希が佳奈の視野の広さに感心していると、突然佳奈が『は、はぁーー!?!?』と大きな声を上げてくる。
「え? ど、どうしたの三好さん」
『べ、別に私福田のこと見てたわけじゃないし!! さっきも言ったけど偶然……本当に偶然目に入っただけだったんだから!』
何をそんなにムキになることがあるのだろう……。
希が目の前の問題集に視線を落としながら首を傾げていると、少し前の佳奈の言葉に少し疑問点が浮かび上がった。
「あのさ三好さん」
『ん?』
「さっき三好さん、あれはデートでもないって言ってたけどさ、福田くん……お腹さすって苦痛の表情してただけなんだよね? それだけじゃデートではないって言い切れなくない?」
『あー、うん。 それと理由ってもう1つあるんだよ』
「もう1つ?」
そう聞き返すと佳奈が『プクク……』と何かを思い出したかのように笑いをこらえながら『うん』と答える。
「ちなみにそれって……」
『あれだよ、あの女の子の言ってた「ダイきち」って呼び方』
「え」
『もし付き合ってんならさ、ニックネームで呼ばないっしょ!』
「そう……なのかな」
『うん、だって……』
続けて佳奈が話し出したのは自らの兄の黒歴史。
どうやら佳奈には兄がいるらしく、福田ダイキの姉・優香と同じ学校同じ学年らしいのだが……
『お兄ね、優香さんのこと好きなんだけど、ことごとく振られてるってか相手にされてないわけよ』
「う、うん」
『でね、前にお兄の部屋の前通るときに聞こえてきたんだけど、なんか優香さんに電話してたみたいでね。 そのとき聞き耳立てて聞いてみたんだけど……プククク』
話の途中、当時のことを思い出したのか佳奈は再び『アハハハハ!!』と笑い出す。
「ええ? なにー? 早く教えてよー!」
『あーごめんごめん! そのとき聞こえてきたのがさ、お兄……優香さんに「優香って呼んでもいいかな」って!』
「ええええ!?!?」
『それでね、お兄ったらスピーカーで会話してるから優香さんの声も丸聞こえなんだけど……優香さんに「付き合ってもないのに名前呼びはちょっと……』って速攻断られてたわけなの!! アハハハハハ!!!!!!』
スマートフォン越しでもわかる。
佳奈はかなりその光景が面白かったのか足をバタバタさせて笑い出す。
「そ……そんなに面白いかな。 お兄さんちょっとかわいそうな気もするけど」
『全然全然!! お兄、私のこといっつもバカにしててほんとウザいんだから!! 自業自得だよ!!』
「自業自得……」
なんでだろう。
友達のお兄さんの話なのに先ほどの佳奈の言った言葉……『自業自得』が希の心に重くのしかかる。
自分も少し前まではかなり荒ぶっていた自覚がある。 だからこそ自分も佳奈のお兄さんみたいな結果に……
そんなことを考えていると、佳奈が『ん? 西園寺さん?』と希の無言を心配してか声をかけてくれていることに気づく。
「え、ああごめんなさい! ちょっとボーッとしてて」
希が慌てながら「それで、そのお兄さんの話が今日の福田くんと女の子の話とどう関係があるの?」と尋ねると、佳奈は自信満々にこう答えたのだった。
『だからね、ニックネームで呼んでるってことはまだ2人の間には壁があるってこと! お互いを名前で呼んだりしてたら怪しめばいいんじゃないのって話だよ!』
「あー、なるほどね」
少し腑に落ちないところもあるけれど、確かにずっと気にして立ち止まっていても先には進めない。
自分も佳奈のように前向きな考えにシフトしていかないと。
希は自身の頬をパシンと叩いて気合いを入れると、佳奈に「うん、なんかスッキリしたよ。 ありがと」とお礼を言ったのだった。
『いーよいーよ! 私もお兄の恥ずかしい話言えてスッキリしたし!』
「でもさ、三好さん。 ちょっと気になったんだけど……」
『なに?』
「三好さんはさっき、お互いに名前呼びしてたら怪しむべきって言ってたよね」
『うん。 言ったね』
「そしたらさ、エマと福田くんって……」
『ーー……あ』
「だよね」
その日の夜、2人とも夜遅くまで眠れなかったことは言うまでもない。
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