389 オーディション後の衝撃!!
三百八十九話 オーディション後の衝撃!!
オレの前で急に号泣し始めたドSの女王・小畑。
流石に泣いている女の子を前に「じゃあ帰りますバイバーイ!!!」とは……いかないよな。
「よいしょっと」
オレは何も声をかけずに小畑の隣に腰掛ける。
だってそうだろう、オレの女の子取り扱い経験値はレベル1……こんなときに使える言葉の引き出しなんて持ちあわせちゃいないんだから。
◆◇◆◇
あれから大体10分くらいは経っただろうか。
気持ちが落ち着いたのかようやく小畑は泣き止み腕で涙を拭う。
「結局福田……帰んなかった……ね」
顔を真っ赤にした小畑がゆっくりとオレに顔を向けてヘヘッと笑う。
「まぁね。 あんな泣いてるのにそこから立ち去ったら……なんかオレが悪いことしてるように見えるし」
「は? なにそれ、私が福田にフラれたように見えるって言いたいの?」
「いや、実際はそうじゃないけどさ。 そう見える人もいるんじゃないかなって」
「フン……前に私の部屋でおっきくしてたくせに」
「そ、それはまぁ色々あって……」
「色々ってなにさ」
小畑は小さくツッコミを入れると再び視線をオレから外し、「ふーー」と息を吐きながら空を見上げた。
「まぁいいや、泣いてスッキリしたから許してあげる」
「スッキリ?」
「うん。 だって最後の最後であんな失態しちゃって……後悔しない方がおかしいでしょ」
「やっぱり最後の動かなかったのって痛かったから?」
「当たり前じゃん。 ダンスを踊り終えるまでは気合いで動いてたんだけどさ、踊りきったって安心した途端に身体が言うことを聞かなくなって……もう私の意思じゃどうしようも出来なかったんだよね」
小畑の話曰く、痛み的にはパフォーマンス開始時から泣きそうなほどに強烈だったらしい。
それでも何とか痛みに耐えながら頑張れたのは、今まで努力してきた日々……そしてそれを一緒に乗り越えてきたエマや三好という存在がすぐ近くにあったからだそうだ。
しかし最後の最後で心にわずかな余裕が生まれてしまい、最後の1歩を踏み出すための足が言うことを聞かなかった……とのことだった。
「くそー、でもこれであいつらが受かってたら私一生後悔するわー」
小畑が左足で地面の石を蹴飛ばしながら唇を尖らせる。
「あいつら?」
「うん。 ほら、オーディション前……喫茶店に向かってる時に話したじゃん」
「あーー、4組の」
「あいつらだけには絶対負けたくなかったんだけどなー」
そう……これは小畑を背負いながら喫茶店に向かっている途中に聞いたのだが、小畑の足を悪化させた犯人は4組の……名前は忘れたがモブ女2人組らしいのだ。
オーディション説明後、小畑が部屋から出ようとしたところで突然そいつらに足を出され……バランスを崩した結果そうなったらしい。
小畑は「絶対あいつらには余裕で勝てる自信あったんだよ」と拳を強く握りしめてはいるが……
「いや、その2人なら受からないよ」
オレが首を左右に振りながら答えると、小畑が「え?」とキョトンとした表情でオレを見つめてくる。
「えっと福田……なんで分かるの?」
「だってその2人ならオーディションの運営さんに出場停止……退場させられてるし」
「え……えええええええええええ!!?!??!?」
小畑は先ほどの泣き声よりもはるかに大きく絶叫。
オレの腕を掴み自身の身体に引き寄せると、「ちょっとねぇ……どう言うこと!?」と興奮気味に尋ねてきた。
「実はさ、ほら……小畑さんを喫茶店に送り届けた後、オレまた会場の方に戻ったでしょ?」
「うん。 でもあれってトイレじゃなかったの?」
「まぁそれもあるんだけど、その時に【staff】ってTシャツ着てる運営さんにチクってみたんだよね」
「ーー……ええ?」
まったく小畑のやつ……オレが動いていないとでも思っていたのか。
さっき小畑にも説明したばかりだが、オレは小畑を喫茶店に送り届けた後に会場へ再び赴き……運営さんにこう聞いてみたんだ。
「参加者の待機部屋って監視カメラとかあるんですか?」ってな。
そしたら運営さんの答えは「更衣室にはないけど待機室には付けている」との回答。
なのでオレはその人に自分の知り合いが2人組の女の子に足をかけられ足を軽く痛めてしまったことを報告……するとすぐに運営さんは仲間を数人呼んで確認しに動いてくれたんだよな。
オーディション開始時は4組のモブ女どもがどうなったのかは分からなかったのだが、オーディションが始まってからそいつらはステージに出てきてはいなかった……ということは運営さんが証拠映像を見つけて速やかに対処してくれたということなのだろう。
そのことを簡単に説明すると、小畑は口元に指先を当てながら「確かにオーディション始まってから待機部屋にいなかったかも……」と小さく頷く。
「とりあえずそういうことだから。 あの2人は出場自体出来てないんだし、勝ち負けで言ったら小畑さんの勝ちだよね」
「でもなんで福田……そこまでしてくれたの?」
「そりゃあ決まってるでしょ。 オレは小畑さんに一次審査突破して欲しかったんだから。 やられた分はやり返さないとね」
「福田が……仕返し?」
「まぁね」
オレが自信満々に頷きながら答えると、小畑は「なにそれ……」とポツリと呟く。
ーー……あ、やっべ。
オレはここで自分の……先ほどの言葉の重大なチョイスミスに気づいてしまう。
そうだ、オレがそういう性格だと知ってるのは三好や多田であって……小畑は知らないんだったああああああ!!!!!
オレが心の中で頭を抱えながら叫んでいると、小畑がジッとオレを見つめていることに気づく。
あぁ……これで何もやり返しの出来ないオレの下僕キャラもここで終わりか。
もしかして今まで騙してきたってことで……嫌われてしまったかもしれねぇな。
「えっと……小畑さん? どうしたの?」
オレが恐る恐る小畑に視線を合わすと、小畑は大きく瞬きをしながらゆっくりと口を開いた。
「福田……」
「はい」
「えーなに!? 私のこと好きすぎじゃーーーん!!!!!」
「ウェエエエエエエエエエエエエエエエ!?!?!?!?!」
どうしてそうなったああああああああああ!?!?!??!
オレがあまりの衝撃に驚いていると遠くから「みぃちゃーーん」とこちらに向けて投げかけてきている声。
視線を移すと……なんとお早いご到着! 小畑の母親が小走りでオレたちの方へと駆け寄ってきていた。
「あ、ママ……じゃなかった、お母さん」
「探したじゃない。 メール送ってもみぃちゃん返事くれないし……ママ、心配したんだから」
小畑母が小畑の頭をワシャワシャと撫で回す。
「ちょっと恥ずかしいからやめてよ!」
「あら、もしかして福田くん、みぃちゃんを1人にしないように一緒にいてくれたの!?」
小畑母が嬉しそうにオレに尋ねてくる。
「え、まぁその……はい」
ぐぬぬ、なんかこの女王とは正反対の感じ……調子狂うぜ。
母親も来たことだしもう大丈夫だろう。 オレは「それじゃあオレはこれで……」と速やかにここから離れるべくベンチから立ち上がる。
「ありがとうね福田くん。 あ、でも家まで送るから一緒にどう?」
「いや……オレは別に電車で大丈夫なので、小畑さんを病院に連れてってあげてください」
このオレの返事に小畑母は「あら、そうなの?」と首を傾げ、「じゃあもう暗いし気をつけて帰るのよ」とオレを見送ってくれようとしていたのだが……
「ねぇ福田!」
オレが2人に背を向けたところで小畑がオレの名を呼ぶ。
「なに?」
「いーじゃん福田、車で帰ろうよ! そっちの方が私と一緒にいれて嬉しいでしょ!」
ーー……。
「「ええええええええええええええええ!?!?!?!?」」
◆◇◆◇
結果オレは小畑の謎のお誘いにより車に乗せてもらい一緒に帰ることに。
そしてその途中、オレのポケットに入れていたスマートフォンが震えていることに気づく。
取り出してみると……三好からの通話のようだ。
「あれ、三好からだ」
「え、佳奈? なんだろ……出てみ?」
「あ、うん」
オレは「ちょっとすみません」と運転中の小畑母に断りを入れて電話に出ることに。
すると興奮しているのか……息を荒げた三好の声が耳に入ってきた。
『ちょっと福田……美波まだそこいる!?』
『うん。 何で?」
『さっきから電話してるのに出ないからさ……ちょっとこれスピーカーにして美波にも聞かせて!』
「あー、何か知らんが分かった」
オレは三好に言われた通りに通話をスピーカーモードに。 そしてそれを小畑の目の前に持っていく。
「ん? どしたの福田」
「なんか小畑さんに聞こえるようにしろって……」
『美波!! 聞こえる!?』
「佳奈? どうしたの?」
『なんで電話出ないのさ!』
「あーごめんね、なんか電源途中で切れちゃってたっぽくて。 それで何?」
『さっき何となく公式ホームページ見たんだけどさ……受かってたの』
「ーー……え?」
「「え?」」
三好の声に反応してオレや小畑だけでなく、運転中の小畑母もセンターミラー越しにスマートフォンに視線を向けてくる。
『だから、私ら3人とも……1次審査通ってたんだって!!!』
「「「えええええええええええええ!?!?!?!?」」」
ていうか小畑母は運転に集中しろおおおおおおおおおお!!!!!!
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