388 女王のお願い
三百八十八話 女王のお願い
ダンスのラスト……決めポーズから動かなくなった小畑。
オレや多田はヒヤヒヤしながらその姿を見ていたのだが、結果……小畑の異変に気づいたエマが先行してアドリブを開始。
小畑の代わりに最後の挨拶をし、小畑にワザとらしく声をかけた。
「ちょっとミナミー、踊る前に緊張するなら分かるけど、なんで終わってから緊張してるのよー! ほら、もう終わったんだからステージからはけるわよー」
これにより観客たちからは「可愛いー!」「よく頑張ったねー!」と拍手喝采。
足の負傷に気づかれることなくエマと三好に支えられ、なんとかパフォーマンスをやり終えたのだった。
◆◇◆◇
今回のメイプルドリーマー妹グループオーディション。 運営はかなりガチで選考しているらしく、第二次審査に進める参加者の発表は本日の夜から翌日中に公式ホームページにて発表するとのこと。
全ての参加者のパフォーマンスが終わり、オレと多田・エルシィちゃんは観客席を出て参加者専用出入り口前で待機することにした。
ーー……気づけばもう夕方か。
しばらく待っていると、エマと三好……それと2人に肩を支えられながら小畑が片足をつきながら出口から出てくる。
「ちょっと美波、大丈夫なのー!?」
「おばちゃーん!」
多田とエルシィちゃんが小畑のもとに駆け寄る。
「あはは、麻由香……ごめんね色々と今日のために手伝ってもらってたのに。 私、やっちゃったわ。 あとエルシィ、おばちゃん言うな。 せめて小畑ちゃんにしてよ」
右足を浮かせた小畑が寂しそうに笑いながらツッコミを入れていると、その隣でエマが小さく息を吐いた。
「ほんと最後のアレはびっくりしたわよ。 ミナミ、動かないんだもの」
「でもありがとエマ。 私もう中断させられるヤバイって思ってたのにアドリブきかせてくれて」
「パフォーマンス自体は終わってたからね。 それにそんな状況で最後まで踊り切ったんだもの……エマもそこまで鬼じゃないわよ。 でもまぁ多分今回は……」
エマが何か言いにくそうな表情をしながら口籠る。
「わかってるよ。 ステージって出てきてから帰るまでが審査なんでしょ? 最後ちょっともたついちゃったし……覚悟は出来てるよ」
「そう……ならいいけど」
その後オレたちは小畑の介抱をしながらゆっくりペースで会場の出口へ。
しかしその途中、小畑が「あ、あのさ」とオレたちを見渡した。
「ん? どうしたのミナミ」
皆の視線が小畑へと向けられる。
「あの……皆はこのまま帰ってよ。 私はこの足じゃキツいから親に連絡して迎えにきてもらうから」
「そうなの?」
「うん、できればそのまま病院連れてってもらいたいし」
あー、なるほどな。
確かに親に車で迎えに来てもらう方がここから駅まで歩かずに済むし、電車内で座れるか座れないかのギャンブルに遭遇ぜずに確実に座れる……今の小畑にとってはそれが一番ベストな選択だろう。
小畑の言葉を聞いたエマや三好・多田たちもオレと同じことを考えたようで「確かに」と頷きながら各々小畑に声をかけた。
「え、じゃあウチ、美波のママが来るまで待ってるよ?」
「私も! そっから私らは別で帰れば美波も寂しくないっしょ」
「そうね、エマも2人の意見に賛成よ」
「エッチーもー!!」
あぁ、なんと素晴らしき友情かな。
もちろんオレもエマたちと同じ考えなので「オレも待つよ」と声をかける。
しかし何故だろう……小畑は小さく首を横に振ると、「いいよ、私1人で待てるから皆は先に帰って」と優しく微笑みかけた。
「えぇ!? 美波……なんで!?」
三好が目を大きく見開きながら小畑に尋ねる。
「だってもう夜になるし。 流石にこんなに小学生いたら目立つっしょ」
「それはそうだけど……」
「それに私も1人で色々と考えたいこととかあるからさ。 お願い」
こうして小畑の意思を尊重した結果、オレたちは小畑を残して帰ることに。
とりあえず小畑の足首が重症化していないことを願いながらエマたちとともに会場を出ようとしていると、目の前を歩くエマがくるりとオレの方を振り返った。
「なんでダイキも来てるの?」
「え? なんでってみんなと一緒に帰るため……」
「いや、ダイキは残るに決まってるじゃない。 女の子1人残して帰るなんてありえないでしょ」
「えええええええええええ!?!?!?!?」
◆◇◆◇
三好・多田・エマ・エルシィちゃんを会場出口まで見送ったオレが小畑の座っていたベンチに戻ると、小畑は驚いた表情でオレを見上げる。
「え、福田……帰ったんじゃないの?」
「あーいや、まぁその……ね、女の子1人残して帰るなんて危ないというか……そうなったというか……」
オレは頬を指先でかきながらそう伝えると、小畑はクスリと笑う。
「ん? 小畑さん?」
「あのさ福田、ここ……ちょっとうるさいよね」
「まぁそうだね、出口付近だし……オーディション帰りの人でいっぱいだしね」
「ちょっとさ……静かなところ行かない?」
小畑が「どこか良さげな場所ないかな」とキョロキョロと周囲を見渡す。
「え、静かなところ?」
「なんかちょっと心を落ち着かせたいっていうか……」
「うん、まぁいいよ」
オレは小畑を背負い、どこか小畑が落ち着けそうな場所がないものかと会場敷地内を軽く散策することに。
そして出口とは反対側……ようやく人の少ない場所を見つけたオレはそこにあったベンチに小畑を座らせたのだが……
「うん、もう帰ってもいいよ福田」
小畑がヘラヘラと笑いながらオレに手を振る。
「ええええ!?!? なんで!?!?」
「だってちょっと時間はかかるけど親迎えにくるし。 その時に福田がいたら、もうこれ完全に勘違いされそうなやつじゃん」
小畑が母親とのメールのやり取りをザッとオレに見せてくる。
【送信・ママ】足痛めちゃってさ、迎えに……とか来れる?
【受信・ママ】ええ、痛めちゃったの!? 着いたら電話するから……またその時にどこにいるか教えてね!
確かに迎えに来てくれるっぽいけど、電車でもここまで結構かかったし……車だと早くても1時間以上はかかるんじゃないか?
オレがそんなことを考えていると、小畑が「だから大丈夫。 ほら、帰って帰って」と手を伸ばしてオレの体を軽く押してくる。
「ええ!? でもその……結構時間かかりそうじゃない?」
「いいから。 ほら、佳奈たちがいるときにも言ったじゃん、色々考えたいって。 考えてたら時間なんてすぐだしさ」
「いやいや、そしたらオレがエマに怒られ……じゃない、小畑さん1人だと危険でしょ」
正直小畑のことは心配だけど、このまま小畑の言う通りにここでオレが帰ったとして、それが仮にエマにバレたとしたら想像しただけで恐怖だからな。
オレが頑なにその場から動かずにいると、小畑はオレを押していた手でオレの服を掴み「お願いだから……帰ってよ」と、ゆっくりと顔を俯かせる。
「じゃないと私、……じゃん」
小畑が聞き取れないほどに小さく何かを呟く。
「え、なんか言った小畑さん」
「福田がいる前でまた泣いちゃうじゃん!!!」
そう叫びながらオレを見上げた小畑。
その目には涙で溢れており、頬をものすごい勢いで伝い落ちていたのだった。
「ええええええええええええええ!?!?!?!?!?」
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