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385 気合いの女王【挿絵有】


 三百八十五話  気合いの女王



 小畑たちが会場であるドームへと入ってからしばらく。

 オレや多田・エルシィちゃんがベンチに腰掛けながら雑談していると、突然エルシィちゃんが「あーっ! エマおねーたんとカニャちゃん、きたぁー!」とドームの方をまっすぐ指差した。



「え、マジどこ?」

「あ、ほんとだ。 福田、あそこ……周辺地図が載ってる看板のところ」



 多田に言われたところに視線を向けると確かにエマと三好の姿。

 2人ともどうしたのだろう……ここに到着した時よりも焦ってるというか……



「マユちゃ、ダイキ。 エッチー、あっち、いきたぁー!!」



 こうしてオレたちは人混みをかいくぐりながらも2人のもとへと向かった。

 


 ーー……のだが。

 



「ええええええええええ!?!? 振り付けを忘れただああああああ!?!?!?」




 聞かされたのは三好がダンスの振り付けを忘れたという情報。

 まったく意味が分からないオレは自身の髪を掻き毟りながら三好に顔を向ける。



「ちょ、三好……何やってんだよおい!!」


「そんな責めないでよ!! 元はと言えば福田のせいじゃん!!!」



 三好が半泣きの顔でオレを睨みつけてくる。



「エエエエエ!?!? オレのせい?!?」


「そうだよ! 福田があんなこと言わなきゃ……!」


「あんなことってなんだよ!」


「それは……!」



 三好が何かを言おうと大きく口を開く。

 しかし三好が声を出すより先にエマが「ちょっとごめんなさい」と、オレたちの間に割って入ってきた。



「な、なんだエマ?」


「時間がないの。 ごめんだけど3人とも……ここはエマとカナだけにしてもらえないかしら」



 エマの顔……ガチだ。

 この数時間で完璧に三好の記憶を取り戻させるつもりなのだろう。



「わ、分かったよ。 何かあったらいつでも呼んでくれ」


「うん。 ありがと」


「それと……小畑さんは?」


「ミナミなら足を労わりながら来るから遅れてるだけよ。 緊急事態だったからエマとカナだけ先に出て来たの」


「なるほど」



 なら今オレたちがここにいても出来ることはなさそうだな。



 それからエマと三好は近くの壁にもたれかかりながらスマートフォンを片手にダンスの復習を開始。

 オレと多田・エルシィちゃんはそんな2人の邪魔にならないよう……再びそこから離れ、先ほど座っていたベンチにも他の人が座っていたので仕方なく近くにあった喫茶店へと向かったのだった。



 ◆◇◆◇



 大体あれから1時間程が経過したくらいだろうか。


 店内のトイレが混雑していたためオレだけ一旦お店を出て会場に設置されていたトイレへと向かっていると、その近くですでにジャージに着替え終えていた小畑の姿を発見する。

 だいぶ集中しているのだろう……1人真剣な眼差しで会場を見据えていた。



 これは声をかけてもいいものだろうか。

 オレは心の中で【声をかける派】と【声をかけない派】の討論を開始させる。

 その結果……



「お、小畑さん!」



 受験でも大会でも「頑張れ!」って言いたくなるものだろう? ものの数秒で決着がついたのでオレは小畑に声をかける事に。

 すると小畑はすぐにオレの声に気づき、こちらに顔を向けてきた。



「あ、福田……」


「ごめんね急に声かけて。 邪魔しちゃったかな」


「まぁ……うん、別にそれくらいで気が散る私じゃないけどね」


「ここで何してたの? てっきりエマたちといるものだと思ってたんだけど」


「え? それはその……」



 ーー……ん、なんだ? 小畑の様子がどこかおかしい。

 なんというか内に潜む女王感がにじみ出ていないというか……いつもの小畑じゃないんだよな。



「えーと、小畑さん? どうかした?」



 オレが覗き込みながら尋ねると小畑の体がビクンと反応。

 その後「な、なんでもないなんでもない」と大きく首を左右に振った。




「ーー……そうなの?」


「うん! ほ、ほら、佳奈って覚えるの苦手じゃん? だからそんな佳奈の邪魔にならないようにここに1人でいただけなんだって!」


「えええ、ここで1時間も!?」


「ま、まぁね!」



 小畑はオレから視線を外しながら「別にそれくらい余裕だし、アハハ……」とワザとらしく笑う。

 いやいや、ていうかそれ全然良くないだろう。 だって小畑の足首って……


 

 ーー……喫茶店、席取っておいてよかったぜ。



「じゃあ小畑さん、オレや多田さんあそこの喫茶店にいるんだけど一緒に来ない? 4人席で1席空いてるからそこで座って時間潰しなよ」


「え、あ、でも……」


「いいって。 これはオレから誘ってるんだからお金はオレが出すし……あの約束の件とはノーカンにするから。 とりあえず今はその足に負担がいかないようにしておかないと」


「んー……」



 え、なんで小畑は来ようとしない……一体何がそうさせているんだ?

 ここまでの好条件……普通三好とかなら喜んでノッてくると思うのだが……



「え、行こうよ小畑さん」


「いや……私は別にこのまま立ってても問題な……」


「あるわけないじゃん。 ほら、行こうよ」



 もうこうなりゃ勢いしかないよな。

 オレは少しでも小畑に体を休めてほしい一心で喫茶店に連れて行かせるべく小畑の手を掴み軽く……本当に軽く引っ張っただけだったんだ。

 なのに……



「ーー……っ痛」



「え」



 小畑の足が一歩動いただけ……なのに小畑はその場でうずくまり右足首を強く押さえだす。



「え……ええええええ!?!?!? 小畑さんんんんん!?!??!?」



 オレ……もしかしてやっちゃったらダメな事やっちゃった系!?

 


 かなり慌てながら駆け寄ると、小畑が小さく首を左右に振りながら「いや……気にしないで」と小さく呟く。



「いや……いやいやいやいや!! でもそれ……痛むんでしょ!? ごめんオレもしかして変な感じに引っ張っちゃったみたいで……!」


「ううん、福田の……せいじゃない」


「と、とりあえず待ってて! 今エマに……!」



 オレがテンパりながらもスマートフォンをポケットから取り出そうとすると、小畑が焦ったようにオレの手首をガシッと掴んでくる。



「え、小畑さ……」

「ーー……だめ」


「え」


「お願い。 エマにも……誰にも言わないで」



 小畑が額に汗を滲ませながらオレを見上げる。



「言わないでって言われても……」


「エマに知られたらオーディション……辞退させられちゃう。 それだけは絶対にイヤ」



 小畑のオレの手を掴む力がグッと増す。

 それほど本気……ということなのだろう。



「でもその状態で踊れるとは……それにエマとも約束したんでしょ?」



 このオレの問いかけに小畑は大きく頷く。



「だったら……!」


「でも福田、覚えてる? エマは『少しでもエマが私の無茶を感じたら中断する』って言ったの」


「うん、だから……」


「だから私はエマに、無茶してるように見せつけなければいい」


「ーー……!!!」



 小畑が苦痛に顔を歪めながらもニヤリと笑う。

 


「だから福田お願い……誰にも言わないで」



 こんなの言われて「いや無理だよ」とか言えるわけねーだろ。

 それにエマよ、これは一本取られたな。

 オレは小畑の必死の懇願に小さく息を吐きながら頷いた。



「分かったよ」


「あ、ありがとう福田」


「ただし……条件があります」


「?」



 ◆◇◆◇



 オレが小畑に出した条件……それは時間ギリギリまで喫茶店でゆっくり体を休ませ、そしてそこにいる多田やエルシィちゃんにも悟られてはいけないといったもの。

 2人にバレてるようではダンス中に隠せるわけないんだからな。


 小畑はオレの出した条件に「ありがと」と承諾。

 喫茶店の入り口ギリギリのところまで先に小畑を背負って送り届け、その後オレも軽く野暮用を済ませて喫茶店へと帰還したのだった。


 

「ちょっと遅くない福田ー。 トイレ長すぎでしょ」



 多田が唇を尖らせながら「ちょっとだけ心配したじゃん」とオレを軽く睨みつける。



「あーごめん。 なぜか男子トイレも混んでてさ。 ちょっと離れたところまで探しに行ってたんだよね」


「そーなの?」


「うん。 それでその途中で小畑さん見つけたからここのこと教えたんだよね」



 この感じだとどうやら小畑のやつ、まだ2人にもバレていないらしいな。

 


 それからオレたちは時間ギリギリまでそこに滞在。 あと少しで出ないといけないくらいになったところでオレは小畑にこっそりとメールを送った。


 

【送信・小畑さん】罰ゲームじゃんけんしよう。 負けたら小畑さん会場までおんぶする。 ちなみにパー出します。 提案して。



 そのメールになんとか小畑は気づいて内容を確認。

 一瞬上を向き……固く目を瞑った後に再びオレに視線を戻してこう提案してきたのだった。



「ねね福田、じゃんけんしよーよ! 私って今、足首労ってるしさ、負けたら私をおんぶする……いいでしょ!?」


「え、うん。 いいよ」




「「じゃーんけーん……」」




 ◆◇◆◇


 

 会場前。 




「っし、行ってくる」



挿絵(By みてみん)



 小畑はジャージのファスナーを首のあたりまでギュッと上げ、オレや多田・エルシィちゃんの応援を背に浴びながら中へと入っていったのだった。



 

 小畑……頑張れよ!!!!


 


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― 新着の感想 ―
[良い点] ぐ! 小畑ちゃんの足がああぁぁぁぁぁぁぁ!! ( ;∀;) あの女の子たちのせいなのね! そうなのね!! くそぉ!!! だけど、耐える姿は孤高の女王の風格を帯びている!! ダイキ…
[一言] やっぱり足、ムリしてた。 しかし、同級生の子達、怪我を悪化させるって将来大丈夫かな? ろくな大人にならねぇぞい。
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