382 特別編・誓い
三百八十二話 特別編・誓い
春休みに入りオーディションが近づいたある日。
右足首を捻挫していた美波は経過を医師に見せるため、母親同伴のもと再び病院へと来ていた。
「んー、若いってのもあるのかな。 結構いい調子で治っていってるね」
診察室。 医師が包帯を外した足首を優しく調べながらポツリと呟く。
「!!!」
その言葉に小畑は敏感に反応。 「てことは先生……私、少しだったら動いても大丈夫そうですか?」と医師に真剣な眼差しで尋ねた。
そしてその答えはーー……
「まぁそうだね、ちゃんと包帯で固定して……痛めている足首にあまり負担をかけすぎないようにするんだったら少しくらいは大丈夫だと思うよ」
「え、ほんと!? やったあああああああああ!!!!!!」
それからすぐに美波は一緒に参加してくれるエマと佳奈にメールを送信。
帰りに母親にいつもの公園の近くで車から降ろしてもらい、若干の駆け足で練習中のエマと佳奈……2人の仲間のもとへと向かった。
◆◇◆◇
「ええええええ!!! お医者さんからオーケーでたのマジーー!?」
医師から言われたことを報告すると、まだ美波が送ったメールは見れていなかったようで佳奈が目を大きく開かせて美波に詰め寄ってくる。
「そうだよ! 私完全復活!! これで無理ない程度になら練習にも参加できるぜぃ!」
美波は満面の笑みで2人にピースサイン。
やっと脳内参加だけじゃなくて一緒に合わせられる……美波はその日からオーディション前々日までの数日間、時間はあまり長くはないのだが内容の詰まった練習を2人とともに過ごし、他にも参加はしないが応援してくれている多田麻由香や福田ダイキのサポートのおかげもありなんとか形あるものが出来上がったのだった。
◆◇◆◇
オーディション前日。
この日は本番に向けての体調管理ということで練習禁止をエマから言い渡されていたので美波は素直に自宅で待機。 自室のベッドに腰掛けながら包帯を外した自身の足首を優しく撫でていた。
一次審査……今できることは全部やった。 後はこの足首にかかっている。
ダンスもここには負担が少ないようにエマが調整してくれたし、自分だって少しでもダメージが蓄積しないように痛めてからずっとカバーしてきたつもりだ。
明日乗り切れば……受かった場合次は二次審査の自己PR。
そしてそれを通過すると三次審査・用意された歌とダンス審査。 その次にメイプルドリーマーとの合同合宿を経て、それらすべてで認められた子がメンバー入り内定となる。
「明日は頼むよ……」
美波は足首にそう声をかけると再び明日に向けて包帯を巻き直し始めた。
「ーー……ん?」
包帯を巻いていると、横に置いていたスマートフォンが振動していることに気づく。
確認してみると着信通知……麻由香からだ。
麻由香も明日は応援しに来てくれるそうなのだが前日の激励なのだろうか……そう思いながら美波は画面に表示されている通話ボタンをタップ。 その後スピーカー設定にして自身の隣に置き、包帯を巻き直しながら通話を開始したのだった。
『あ、良かった美波出た……!』
スピーカーから麻由香の安心した声が聞こえてくる。
「ん? 麻由香……どしたの?」
『あのさ美波、ウチさっきまで塾いたんだけど、すごい情報聞いちゃったの!!』
「すごい情報?」
『うん!』
一体なんだろう。
美波は包帯をしっかりと巻きながら考えていると、待ちきれなくなったのだろう……麻由香の興奮気味の声がスピーカーから大音量で聞こえてきたのだった。
『美波……あのさ、堀田さんと野村さんっているでしょ!?』
「堀田と野村? ってあの……4組の?」
『そうそう!! あの2人!!』
ーー……そういえばいたなそういう人ら。
去年の私らのラブカツオーディションを邪魔しようとしてきてたやつだ。
結局あいつらはあのオーディションでは結果を残せず敗退……それからしばらくは近くを通り過ぎる度に勝ち誇った顔を拝ませてあげたのだけど……。
「ーー……で、そいつらがどうしたの?」
『あの2人も明日のメイプルドリーマーの妹グループオーディションに参加するんだって! 同じクラス……4組の子が話してるの聞いたの!』
「マジ!?」
『うん、なんか美波が出るって聞いてから見返すために参加したらしいよ』
「ーー……上等じゃん」
ちょうど包帯を巻きおえた美波は拳を強く握りしめる。
『ーー……美波?』
「麻由香、明日ちゃんと観といてね。 あいつらに実力の差を見せつけてやるし!」
そう……去年のラブカツオーディションもそれなりに本気で挑んだのだが、今回はメンバーこそ少し変更があったもののかなりの知識と実力を兼ね備えたエマと自分のことを良く知ってくれている佳奈がいる。
そして前回一緒に戦った麻由香や福田も……あいつらに負ける未来が微塵たりとも見当たらない。
麻由香との通話を終えた後、美波は4組のモブ女たちへの圧倒的な勝利……そして一次審査を絶対に通過してやるという強い誓いを立てたのだった。
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