380 そんなつもりじゃなかったのに!?
三百八十話 そんなつもりじゃなかったのに!?
無事終業式を終えて明日から春休み!
小五ラストの帰りのホームルームが終わり、オレがルンルンで教室から出ようとしていると後ろからドSの女王・小畑が「あ、待って福田」とオレを呼び止めた。
「ん、どうしたの小畑さん」
「いや、どうしたのって言うか……え、福田、言わなくても分かるよね」
「言わなくても分かる……何が?」
「5日後、私らオーディション第一次審査なんだけど応援くるでしょ?」
「ええええええええええええ!?!?!?!?」
◆◇◆◇
そういえば開催日とかまったく見てなかったぜ。
オレの感覚上、開催は去年のラブカツ同様に夏くらいなものだと思っていたのだが……結構早めのオーディションなんだな。
まさかのオレが知らなかった事実を受け、いつも小畑たちが練習をしている公園のベンチ……オレは小畑から軽い説教を受けていたのだが……
「あ、あのー小畑さん」
オレは隣で座りながら腕を組んでいる小畑に腰低めに話しかける。
「なに?」
「オレが覚えてなかったのは本当に申し訳ないんだけどさ、小畑さんはその……大丈夫なの?」
「なにが?」
「いや……それ」
オレはゆっくりと小畑の右足首……何重にも巻かれている包帯を指差す。
どうやら小畑はオレが休んでいる日の体育の時間に足を捻挫してしまったらしく、医者から安静を言い渡されていたとのこと。
なので現在、練習はエマと三好のマンツーマン。 小畑はそれを見ながらコツを掴む……という方法に切り替えていた。
オレの問いかけを受け、小畑が「あー、これ?」と包帯の上を軽く手で撫でる。
「うん」
「まぁ普通に激痛だけど……オーディション一次審査は別にジャージでいいんだから、別に隠せるくない?」
小畑がそれが何か的な表情をしながら逆にオレに尋ね返してくる。
「え、でもお医者さんからは安静って言われてるんだよね?」
「うん。 でもそれとこれとは話が別じゃん。 私はこのオーディションにかけてるんだから」
小畑のこの目……ガチだ。
さすがは女王の威厳を持つものと言ったところか……目標達成に向ける心構えが違う。
「でもさ、それで余計に悪化するなんてことは……」
「いやいや骨折でもあるまいし。 とりあえず私は何が何でも出るよ。 包帯をガチで巻いて固定したら巻いてないときに比べて遥かにマシだし……それにエマも私の右足首に負担がいかないよう、私だけフリを変えてくれてるんだから」
「えええ、そうなの!?」
オレたちの声が向こうにも聞こえていたのだろう。
手前で練習していたエマが「当たり前でしょ」と汗をハンカチで拭いながらこちらに歩み寄って来た。
「いや……いつの間にそんな」
「そんなのミナミが足首痛めたって聞いてすぐに決まってるじゃない。 アイドルだけじゃないわ、モデルにしろ何にしろ突然のハプニングなんてつきもの……それをいかに上手く回避し立ち回るかが重要なのよ」
なんかエマが言うと説得力がハンパないぜ。
小畑はエマに「本当エマには感謝しかないわ」とエマの手を取り小さく頭を下げる。
「まぁね。 でもミナミ、ちゃんと前にエマが言ったこと覚えてるわよね?」
「も、もちろんだよ」
なんだ? 急に小畑の勢いが落ちたように見えたが……
「エマが小畑さんに言ったこと?」
オレが頭上にはてなマークを浮かばせながら首を傾げていると、エマが「あぁそっか、ダイキには言ってなかったわね」と小さく呟く。
そして小畑に言ったことをオレにも教えてくれたのだった。
「少しでもエマが……ミナミの無茶を感じたら、パフォーマンス中でも関係なく中断するって言ったの」
このエマの言葉に小畑は「わ、分かってるよ」と視線を外しながら唇を尖らせる。
「本当? さっきダイキとの会話聞こえてたんだけど、ミナミ……何が何でも出るって言ってなかった?」
「ちょっ……、それはそう言う意気込みで挑んでるって言う意味じゃん」
「そうなの?」
「そうそう! そこはちゃんと文句言わないから安心してって!」
その後小畑はこの話題を早く終わらせたいのか、エマに「とりあえず今日のステップ、また家でイメージ練習しとくからまた何か変更あったら教えてよ」と声をかけてよいしょと立ち上がる。
「あら、ミナミもう帰るの?」
「うん、私のダンスパートは頭ん中入ってるし……今日も最後に確認の動画撮るでしょ? それ送ってもらっていい?」
「えぇ、もちろん。 送るのはいつも通り六時を過ぎたくらいにはなると思うけど」
「うんそれでいいよ、じゃあ私……帰って身体休めとくわ。 それじゃあお先に」
小畑が片足をぎこちなく動かしながら出口へと体を向け、三好たちに小さく手を振った後に慎重に歩き出す。
オレはその後ろ姿をジッと見つめていたのだが……
「ーー……なぁエマ」
オレは体を小刻みに動かしながらエマに話しかける。
そしてエマはオレの気持ちを見抜いたのか柔らかく微笑んで頷いた。
「いいわよ。 肩、貸してあげたいんでしょ」
「あぁ、すまん!」
おそらく三好も小畑に肩を貸してあげたい気持ちは山々なのだろうな。 でもまだ練習が足りないのを実感して……感情にムチを打って目の前の特訓を選んでいる。 それをエマも分かって付き合っているのだろう。
なら他のサポートはオレがするしかないよなぁ!!!
オレが勢いよく立ち上がると三好が「福田!」と声をかけてくる。
「なんだ?」
「あ、あのさ……私……」
「あぁ分かってるさ! 小畑さんはオレに任せて、三好はエマと思う存分練習しておけ!」
こうしてオレは小畑のもとへとダッシュ。
「肩貸すよ」と申し出ると、小畑は目を大きく見開いてオレに尋ねてきた。
「え、福田……いいの?」
「うん」
オレはすぐに小畑に肩を貸すと、すぐに小畑の重心をオレの方に寄りかからせる。
「その……重くない?」
「大丈夫。 それにこうした方が足首に負担少ないでしょ」
「ーー……ありがと」
それから大体1時間くらいだろうか。
小畑の歩幅に合わせて歩いたので当たり前なのだが、かなりの時間をかけてなんとか小畑の家の前に到着。
「ありがとね福田」
「いいっていいって」
オレは小畑が家に入っていくのを見届け、さて自分もダッシュで帰ろうと心に決めた……その時だった。
「ねぇ福田」
家に入ったと思っていた小畑が再び玄関から顔を出してオレの名を呼ぶ。
一体何の用だろうと無言で小畑の方を振り返っていたオレだったのだが、次に放たれた小畑の言葉にオレは耳を疑ったのであった。
「ずっと私に肩貸して疲れたでしょ。 お母さんがお茶でも飲んで休憩していきなさいって」
ーー……え?
「エエエエエエエエエエエエ!?!?!?!?!?」
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