375 IF・輪廻転生を選んだ場合の未来②
三百七十五話 IF・輪廻転生を選んだ場合の未来②
背後から近づいてきてボクが押し倒された場所は通学路途中の空き地前。
ボクが力なく尻餅をつくと、いじめっ子たちは次々にボクに罵声を浴びせ始める。
「xxx! ちゃんと宿題やったんだろうな」
「もしやってないと今度はもっと酷い目に遭わせるぞ」
はぁ……絶望のあまり自分の名前が呼ばれているのに上手く聞き取れないなんて。
学校を出てもこれか……とボクが心の中でボヤいていると、彼らはボクに無視されたと思ったのだろう。
怒りの感情を剥き出しにしながら「おい!」とボクを恫喝……胸ぐらを掴まれてグイッと持ち上げられた。
「あっ……え?」
「お前俺らのこと無視しただろ」
「し、してないよ」
「嘘つくなって! そういう奴にはお仕置きしてやる!!!」
その時ボクの視界に入ってきたのはいじめっ子の1人が持っていた傘。
いじめっ子はそれを大きく振りかぶりながらボクの顔めがけて勢いよく振り下ろし、ボクは痛みに耐えるよう力強く目を閉じた。
「!!!!!」
ーー……あれ、どうしたのだろう。
傘は振り下ろされたはずなのに一向に顔に当たる気配がない。
不思議に思ったボクはゆっくりと目を開けた。
◆◇◆◇
「ーー……え、だれ」
そこにいたのは大学生らしき女の人が数人。
その中の1人がため息をつきながら傘の少年を見下ろしている。
「な、なんだよお前ら!!」
いじめっ子たちが大学生たちに怒りの矛先を向けるもそこは流石は大人……大学生たちは彼らの言葉にまったく動じる様子もなく、冷静な態度で彼らに声をかけた。
「あんさー、忠告しとくとそういうの……公共の場でやるもんじゃないよー?」
「は!? 何言ってんの!?」
「そーだよ!! かんけーないじゃん!!!」
この大学生たちはボクを助けてくれたのだろうか。
別の女性がボクの前に歩み寄り、「大丈夫?」と声をかけてくる。
「あ、はい……大丈夫です」
「そっか。 じゃあとりあえずこの子らがいなくなるまでウチらと一緒にいよっか」
「え……」
知的そうな大学生がボクを支えて立ち上がらせると、「とりあえずここは嫌でしょ?」と言って傘を防いでくれていた人の後ろへと手を引っ張り誘導。
ボクはただただその女の人の手を強く握り、この状況から早く抜け出したいと強く願った。
「どけよババー! お前らには用はないんだよ!!」
いじめっ子の言葉にボクの体がびくりと反応。
しかしそれを察してくれたのか傘を防いでいる女性がゆっくりと視線をこちらに向け、ニコリと優しく微笑む。
「あ、君。 大丈夫だから安心して。 すぐに追い払ってあげるからね」
なんだろうこの心に響く温かさは。
そしてその女性の言葉通り、彼らはすぐに追い払われることとなる。
それはまるで魔法のような言葉だった。
女性が彼らにとある言葉を言い放った途端に彼らは一気に顔を青ざめその場から逃走、一瞬にしてこの場からいなくなったのだ。
そう、その言葉こそ……
『私、君らがこの子をいじめてた動画撮っちゃったんだけど……どうしよっかなー。 中学受験の時とかにさ、この写真を受験先の学校の人に聞かせたらどうなるかな』
◆◇◆◇
いじめっ子たちが消えてしばらく。
安心からか腰が抜けて歩けなくなったボクが回復するまでその大学生たちも側にいてくれたのだが……
知的そうな女性に背中を擦ってもらっていると、先ほど傘から守ってくれた女性がポツリと呟く。
「なんかさ、あん時の福田みたいじゃない?」
その言葉に一緒にいた2人も反応。
「確かにー」
「ぽいわー」
2人は「あはは」と笑いながら傘の女性の言葉に頷いている。
どうやらそこで軽く話が弾みだしたようなので、ボクは彼女たちの邪魔にならないよう気配を消しながら話に聞き入ることにした。
「福田って言えばさ、私最後に会ったの小学校卒業以来だわ」
3人の中で一際美人な女性が「約9年前かな」と指折り数える。
「あーそっか。 美波は芸能いける学校選んだんだもんね」
「そうそう。 だからそれからの福田のことは佳奈からのメールの内容でしか知らなくてさ。 確か麻由香も私と同じでそれ以来じゃない?」
美波と呼ばれる美人女性がボクの背中を擦ってくれている知的女性に話を振る。
「だねー。 ウチは私立の進学校に行ったからなー。 佳奈が中学まで一緒だったんだよね?」
さっき傘から守ってくれた女性……佳奈さんっていうんだ。
佳奈さんは麻由香さんの言葉に「そだよー。 もう腐れ縁だわ」とアハハと笑う。
「でもさ、私あれびっくりしたわ! 小学校の卒業式の時に福田、桜子に告られたのに断って……それで佳奈に告ってたっしょ? あの時に佳奈が泣きながら断ってたの印象強いわー」
「あーー! それウチも覚えてる!! あれほんと謎だったもん!!」
2人の言葉に佳奈さんが赤面。
「は、はぁ!?!? なんでそんなもん覚えてんのさ!!!」と言いながら恥ずかしそうに2人から視線を逸らした。
「ねーなんで!? ほんとは今日の同窓会で聞こうと思ってたんだけどさ、もう聞きたくなっちゃったわ」
「ウチもー!」
「あーもううっさいな!! 久々に会ってやることが私へのいじりってどうなのさ!!」
「いーじゃん懐かしいんだし。 佳奈いじってるとあの頃思い出して……売れないアイドルの辛さ忘れられるわ」
「ウチも。 もうずっとレポートばっかりで脳が老けてたからこれでアンチエイジング!」
美波さんと麻由香さんが舌をペロッと出しながら佳奈さんに向けて親指を立てる。
ボクはその様子にどこか懐かしさを感じながら完全に聞き入ってしまっていた。
それからも3人は身内ネタで盛り上がっていると、何かを思い出したのか佳奈さんが「あ、そうだ」と言いながらポケットからスマートフォンを取り出す。
「さっき桜子から連絡あったんだけど、ちょっと待ち合わせに遅れるんだって」
桜子……どこか心が洗われるような、癒される響きだな。
どうしてなのかは分からないが、ボクの脳内で海中を優雅に漂うクラゲの映像が浮かび上がる。
「そーなん?」
「うん。 桜子も大学地方じゃん? 久々に帰ってきたから、お母さんのお墓参りに行ってから来るって。 なんか高槻先生も一緒に飲みたいって言ってるらしくて学校が終わり次第合流するらしいよ」
「へぇー! 高槻先生ってまだ先生してるんだ。 エマの妹ちゃんの担任だったよね?」
「そうそうエルシィね。 あのエルシィももう高校生か。 エマと元気にしてるのかなー」
「あーそうだね。 あれからすぐに東北の方に転校したもんね」
楽しそうに話していたのだがその話題になった途端、佳奈さんが小さく息を吐く。
「エマは何か……気づいたのかな」
「「なにを?」」
「だって福田が目を覚ました後でエマと会った時のこと覚えてる?」
「あーうん! ウチ見てたから覚えてる!」
「あれっしょ? 福田見て『お前は誰だー!』って泣きながら発狂してたよね。 まぁ確かにそれまでの福田とは感じが変わったけど……」
「そうそう。 それで春休み開けたら転校してたんだもん。 びっくりだよ」
「だったねー。 私もエマが抜けたからあの時あったアイドルオーディション辞退したんだよなー」
そんな感じの3人のやり取りを眺めていると、それに気づいた佳奈さんが「あ、もう大丈夫そう?」と声をかけてくる。
「あ、はい大丈夫そうです。 ありがとうございました」
こうしてボクは3人と解散。
あんな友達がいつか出来たらな……と思いながら3人の後ろ姿を見送っていると、佳奈さんのポケットから何かがスルリと抜け落ちたことに気づく。
「あ、佳奈さ……」
どうやら佳奈さんは気づいていないよう。
なのでボクはその落し物のもとへと駆け寄り、佳奈さんへと届けるためにそれ拾い上げたのだが……
「ん、これは……ヘアゴム?」
何やら太陽の形をした飾りが付いていて、まるで子供がするような……
「!!!!!!!!」
バチバチバチバチィイイイイイ!!!!!
ズギャウウウウウウウン!!!!!!
ボクがそれに触れた途端、突然いろんな記憶・感情がボクの脳内に一気に押し寄せてくる。
「な、なに……これ……!!!」
それは目を覚ましてすぐに女子高生が泣きながら喜んでくれている場面から始まり、クラスの女子に虐められてはやり返し、知らない間にいろんな人と出会い距離が近くなり大切な仲間になっていった……
どうやら神様は約束を果たしてくれたらしいな。
おそらくはこれは以前神様にお願いした……1度限りの手助けなのだろう。
「そうか……全部思い出したぜ」
2代目福田ダイキ……堂々とここに復活!!!!
さっきまでの自分は何をあんなちっぽけなことでビビり恐れていたのだろう。
ボクは……いや、オレは口角を上げニヤリと微笑む。
「とりあえずまずは……」
オレは視線を前方の三好たちに視線を向けると元気よく駆け出し、大きくなった三好の腕を後ろから引っ張った。
「うわわ!!! どうしたの君!! また虐められたん!?」
「いや、違う! みよ……お姉さん、これ落としたよ!!」
オレは先ほど拾ったヘアゴムを三好の手に握らせる。
「え、ああああ!! 本当だ知らない間に落としてた!! ありがとう!! これ私の宝物なんだ!」
「ウンウン!! お姉さんはポニーテールが似合うからね!!」
「え……え!?」
「お姉さんってさ、この辺に住んでるの!?」
「あ、うんまぁね。 この辺が地元だからそうだけど……なんで?」
ーー……てことは三好の家は変わってないっぽいな。
他にも色々聞きたいこともあるし、今度いっぱい聞くとしよう。
「ううんなんでもない!! またどこかで会ったら一緒にお話してね!!」
オレはそれだけ伝えるとその場を後に。
体をクルリと回転させて勢いよくとある場所へと走り出した。
ーー……え、どこに向かったのかって?
それはもちろん決まっているだろう? 今までオレを好き放題いじめてくれた奴らに……仕返しじゃああああああああああ!!!!!
記憶ではオレを虐めてた中には女子も含まれていたはず。
まずはそいつらを奴隷にして……ククク、待ってろよお前らあああああああ!!!!
今回もオレの変態脳で人生を謳歌してやるぜえええええええ!!!!!
◆◇◆◇
ーー……ハッ!!
そうだったこれ夢なんだった!
オレがパッと目を覚ますと目の前には神様の姿。
『どうじゃったかの?』とオレに尋ねてくる。
「いや……まぁ中々壮絶だったけど小五になってからオレのターンだったよ。 これはまた中々にエキサイテキングな人生だな」
オレは先ほど見ていた夢の内容を思い出す。
大学生の三好たちが何を言ってたかは詳しくは覚えてはいないが結城の件は何というか……残念だったな。
でもそれからも三好たちや高槻さんたちとは繋がっていて……1人にはなっていないことを知ってオレはホッと胸をなでおろした。
『あ、ちなみにネタバレすると……お主はそのお主を虐めていた女子と将来結婚することになるぞよ』
「マーージかああああああ!!!!」
それはなんという胸熱な人生……!
おそらく元祖ダイキは現世行きを選ぶだろうから次のオレの人生、少し不安だったけどこれは未来は明るいぜ!!!
オレはテンションを一気に上げながら「そういやダイキ君はどうなった?」と神様に尋ねる。
『いや、まだダイキは夢の中じゃ。 ダイキは現世に戻ると戻らないの……2つのパターンの夢を見ておるでな。 まぁそろそろ目を覚ますじゃろうて』
それからしばらく。
ようやく元祖ダイキが目覚めたのでオレは元祖ダイキに尋ねることにする。
「で、ダイキ君。 どっちにするか決まったかな?」
オレの問いかけに元祖ダイキはコクリと頷きゆっくりと口を開いた。
「ぼ、ボクは……」
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