373 その発想はなかった!!
三百七十三話 その発想はなかった!!
天界。
「じゃあえーと、ダイキ君。 ちょっとオレとお話ししよーぜ」
どちらの魂が現世のダイキの身体に入るのか。 それを決めるにはまだ少し時間があると神様から聞かされたオレはゆっくりと元祖ダイキのもとへと歩み寄り、隣で「よいしょ」と腰掛けた。
当の元祖ダイキは根っからのコミュ障なのか「え、えっと……」とかなりソワソワ落ち着かない様子だが……。
「なぁダイキ君。 もう一度聞くけどさ、あの身体に戻りたくないの?」
そう尋ねると元祖ダイキは「うん」と力なく頷く。
「なんで?」
「だってまた辛い日々が続くって思ったら……僕は別にこのままでいい。 お兄ちゃん行ってよ」
なるほどな。
しかしこのまま「そうかじゃあオレがまたあの身体に魂入れさせてもらうわサンキュー!」では終われないんだよなぁ。
だってそれじゃあこいつ……元祖ダイキがあまりにもかわいそうだからな。
まぁ本来なら現世を彷徨ってるところを神様に引きあがらせてもらってる時点でラッキーと言えばラッキーなんだけど。
とりあえず元祖ダイキの意志を伝えてくれればオレもその意志を尊重してあげたいんだが……。
「じゃあダイキ君は成仏……輪廻転生の道を歩いて生まれ変わりたい派なわけ?」
「それもちょっと怖い。 前に神様が言ってたんだけど、その道って人によって過酷かどうかが違うんでしょ? もし針山の道とかだったら僕……先に進めないもん」
「んんー、なるほどねぇー」
これは完全にチキン……臆病すぎてどちらにも進みたくないってやつか。
それにまだこの元祖ダイキはオレに心を開いてくれていない感じがするし……仕方ねぇ、ちょっと出来るか不安だけどこいつの心をちょっとでも楽にしてやるか。
オレはあまり関係のない話を元祖ダイキに振ることにする。
「ねね、話変わるんだけどさ。 ダイキ君はお姉ちゃんと一緒に最後にお風呂入ったのっていつなの?」
「お姉ちゃんとお風呂……え、ええええええ!?!?」
突然のオレの質問に元祖ダイキは顔を一気に赤面。 口をパクパクさせながらオレを見上げ見つめてくる。
「なんだ覚えてないのかー?」
「た、確か僕が小さい時だったと思うけど……な、なななんで?」
「あのな、お前のお姉ちゃん、かなりのムッツリだぞ」
「ム……ムッツリ!?」
ここらへんは流石は純粋な小五男子といったところだろうか。
異性のそういった話がかなり気になるのか目を僅かに輝かせながら次のオレの話題をジッと待っている。
「おお、どうしたダイキ。 お姉ちゃんのムッツリ話、気になっちゃう?」
「そ、そんなんじゃないよ! ただちょっと……ほんのちょっとだけどんな感じなのかなーって考えただけで……。 だってお姉ちゃん、途中から優しくなったけどそれまでは静かで怖い印象だったから……」
とか言っちゃってー。
お前気づいてないかもしれないけど口角ちょっとだけ上がってんぞー?
「ウンウン分かるぞ。 ムッツリな女の子って存在だけでオアシスだからな」
「そ、そうなの?」
「当たり前じゃねーか。 普段は口にしなくても目線とかで分かっちゃうもんなのよ。 お風呂とか一緒に入ったらもうすげーぞ? チラチラ見てくるんだから」
「そうなの!?」
それからオレと元祖ダイキは小五レベルのライトな下ネタトークで大盛り上がり。
やはり下ネタは偉大だな。 これでだいぶ心を開いてくれたかなと感じたオレは、少しだけ本題に切り込んで見ることにした。
「あ、ちなみにだけどさ、三好や西園寺のこと覚えてるか?」
「三好さんに……西園寺さん!?」
やはりまだそこらへんに対する恐怖感はかなり残っているのだろう。
ただ名前を言っただけだというのに元祖ダイキは身体をビクンと反応させてオレから視線をそらす。
「ん、どうした?」
「ーー……うん。 もちろん覚えてるよ。 だって三好さんは僕のことをよく虐めてたし、西園寺さんは遠くから見てただけだったけどめちゃめちゃ怖かったもん……」
「らしいな。 あのノートにも書いてたもんな」
「ノート……え、あれ見たの!?」
元祖ダイキが驚いた表情でこちらに視線を向け詰め寄ってくる。
ちなみに皆は覚えてくれているだろうか……序盤にオレが見つけたあの『いじめノート』のことだ。
本気で見られたくなかったのかダイキは顔を真っ赤にしながら「ねぇ……見たの!?」と再度尋ねてくる。
「あぁ見たぞ。 でもなダイキ君、ここでいいお知らせだ」
「ーー……いいお知らせ?」
オレが人差し指を立ててニヤリと微笑むと、元祖ダイキが不思議そうに「それって……?」と首を傾げる。
「あのな、驚かないで聞いてくれ」
「うん」
「ダイキ君を虐めてた存在……三好たちなんだけど、今はみんなオレの仲間……それか下僕だ」
「仲間か下僕……、え……えええ!?!?!? 」
これは今回一番の反応。
オレの言葉が信じられないのか元祖ダイキは驚きのあまりバランスを崩して後ろに倒れ込み、「そ、それって本当!?」と興奮気味にオレの腕を掴む。
「もちろんガチだ。 詳しくはあのノートにオレが書き足してるんだけど……ちなみに三好はオレの秘密をちょこっとだけ知ってる理解者で多田や小畑もオレに気遣ってくれる。 西園寺なんか何故かボス感まったく無くなったし、一番ダイキ君が恐れていたあの男・杉本も完全にオレより下の存在になっているぞ。 だってあの学年のマドンナ水島がオレの奴隷なんだからな」
「み、水島さんが……奴隷!?」
そうそう!! そんな反応オレ大好きだぜ!?
「そう。 だからもしダイキ君が現世に戻って目を覚ましたとしても、もう君をいじめようなんてする奴なんかいないんだ」
「そうなの!?」
「あぁ。 仮にそういう奴が現れたら三好や小畑、西園寺たちが全力で守ってやり返してくれると思うぞ。 それにもうダイキ君もさっき影から見てたとは思うけど、優香……お姉ちゃんもかなりダイキのことを気にかけて愛してくれている。 星美咲っていう正義のギャルJKもいるしマジで怖いものは何もないんだ」
「そう……なんだ。 なんか凄いな、1年くらいでこんなにも変われるんだ」
元祖ダイキがポツリと呟く。
「その通り。 まぁこれはオレが欲望のままに動いた結果こうなったってのもあるんだけどな。 それでだダイキ君、少しは現世に興味持ってくれたかな」
「まぁ……うん。 でもそしたらお兄ちゃんはどうするの?」
「ん、オレか? もしダイキ君が現世行きを選んだ時は……オレは悠々自適に輪廻転生の道を歩むとするよ」
「さみしくないの?」
「そりゃあ寂しいかって聞かれれば寂しいけどさ、まぁでもあの体はもともとはダイキ君のものなんだし……オレはこの約1年でかなり楽しませてもらったからな。 決定権があるのは本来の持ち主の君だ」
こうしてオレと元祖ダイキの雑談を交えた話し合いは終了。
ちょうどいいタイミングでオレたちのもとへ神様が歩み寄り、『それで、決まったかの?』と話しかけてきた。
「あぁ、答えはダイキ君に聞いてくれ」
『そうか。 で、どうする本来のダイキよ』
この元祖ダイキの言葉でオレの進むべき道が決まる。
オレは静かに元祖ダイキを見据えてその答えを聞くべく耳を傾けていたのだが、元祖ダイキの口から出てきた言葉はこれまた小五らしい発想……意外なものだった。
「ねぇ神様」
『なんじゃ?』
「前に神様は僕に……人の未来をちょっとだけ分かるって教えてくれたよね」
『あぁ、言ったが……それがどうした?』
「もし僕が現世に戻る選択をした場合と戻らないで輪廻転生の道を進む選択をした場合の未来を教えて欲しいんだけど……」
「『『『『えええええええええええ!?!?!?!?』』』』」
◆◇◆◇
誰もが予想だにしなかった元祖ダイキの言葉……【どっちの未来も教えろ】発言を受けた神様はあまりにも子供らしく純粋なお願いにポカンと口を開けている。
「お、おい神様どうすんだよ。 それも禁忌に入るのか?」
オレが小声で尋ねると神様は小さく首を横に振る。
『禁忌……と言うよりかは、お主なら分かってくれるとは思うが未来は少しの行動で変わる。 じゃからそれを100パーセント信じられたらそれはそれで困るのじゃよ』
「あー、なるほど確かにそうだよな」
多田の線路飛び降りルートや結城のデスルートのことを言っているのだろう。
確かにオレの偶然の行動でそこらへんは上手い具合に回避……生存ルートへと切り替わっている。
「てことはもし未来が最高って言われても、それに安心して調子に乗ったりしたら地獄を見る的なことだよな?」
『そうじゃ。 それも期待感が高まってる時の絶望となればその分ショックも大きい。 じゃからあまり声を大にして言いたくはないのじゃ』
そう言われたらあまり聞く意味もなくなりそうなのだが元祖ダイキは未だまっすぐ神様を見据えている。
『ん、なんじゃダイキ。 それでも知りたいのか?』
「うん」
『まぁ……そうじゃなぁ。 お主は生前これでもかという程に苦労してきたようだし、あまり先のことは言わずとも近々起こることくらいなら教えても良いかもしれんのう』
神様は小さく息を吐くと『よし、じゃあ特別にちょっとだけじゃぞ』とダイキに微笑みかける。
「え、いいの!?」
『あぁ』
そう頷いた神様が元祖ダイキの額に手で触れると元祖ダイキの意識が一気に遠のきその場で崩れ落ちる。
「お、おおおお!? なんだ倒れたぞ!?」
『言葉だと難しいでな。 軽く起こりうることを夢で見せておるのじゃ』
神様は『その方が鮮明でイメージしやすいだろう?』とオレに問いかける。
「た、確かにな」
『それで……次はお主か』
「え?」
神様が『ついでにお主の輪廻転生ルートも軽くなら見せてやろう』と言いながらオレの額に手を差し出してくる。
「マジ!? オレも良いの!?」
『そうじゃな。 なんてったってワシと2代目ダイキの仲じゃろ?』
「おおおおお!!! サンキュー神様!!」
神様の手がオレの額にそっと触れる。
すると一気に体全体の力が抜けて瞼が重くなり、オレは元祖ダイキと同様……夢の中へと旅立っていったのだった。
意識が薄れゆく仲、神様の声が僅かに聞こえてくる。
『言い忘れとったわい。 お主が今から見る夢は【輪廻転生を選んだ場合の未来】じゃ』
ーー……なるほど。
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